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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

最終話 主が戻る 人よ思い出せ 古き恐れを(26)

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 ヘルハルトは回避行動を取ろうとしていたが、それよりも濁流のほうがはるかに速かった。ゆえにクモののような多足はその場で土を掻きむしるような動作でもがいているようにしか見えなかった。
 濁流は回転斬りによってできた傷を押し広げながらもぐりこみ、内部で暴れ狂いながらヘルハルトの巨体を押し揺らした。
 その激しさにヘルハルトは、

(ひるんだ?!)

 そう見えた。一瞬だが倒れるかもしれないとすら思った。だからルイスは驚きと共に叫んだ。
 いや、驚きだけでは無かった。感動もあった。
 だからルイスの心は熱く加速し、隠すこと無く早口で心の声を響かせ続けた。

(初めて戦況を変える大きな一撃が入った! 相手の隙を突いた形とは言え、シャロンとキーラが二人がかりでもできなかったことをデュランは一人でやって魅せた!)

 木を足場にできたのは運が良かっただけだろう――いや、今のデュランならばたとえ木が無くても何とかしただろう。動きの良さが異常すぎる。

(ならば、やはりデュランなのか?! シャロンでもキーラでも無く! 賭けるべき対象は、この希望を託すべき者は!!)

 その感動はルイスのある迷いを消しさりつつあった。
 そしてヘルハルトは大きく後ろにひるみながらも、開いた傷口の中から大量の触手と魚の精霊を放ち、反撃した。
 この反撃をデュランは後方に下がりながら防御。
 双方の距離が離れる。
 ヘルハルトは崩れた態勢と傷口を回復しながら、声を響かせた。

“ああ、デュラン! お前のその必死さにも愛おしさを感じる! 私の心は感動に打ち震えている! だからあえて言おう! お前と共に同じ大地に生まれ落ちたこの運命を、戦いの神に感謝すると!!”

 感動しているのはルイスだけでは無かった。
 ヘルハルトはその感動のままに、再び大きく声を響かせた。

“いや、それだけでは無い! そう、この感情はきっと、いや間違い無く敬意だ! 私は、俺は、お前に戦士として尊敬の念を抱いている!”

 ヘルハルトは天にも敬意を払うように空を両手で仰いだ後、デュランのほうに視線を戻しながら言葉を続けた。

“ならばただ力任せに叩き潰すというのは不作法というもの! お前との決着はやはり美しいものでなくては!”

 どうするつもりなのか、それをヘルハルトは興奮した口調で響かせた。

“ならば伝統に従うべきか! 我らの決着は戦士長に代々継承されてきたこの技でつけるべきだろう!”

 そう言うだろうとルイスは読めていた。
 だからルイスは叫んだ。

「デュラン! これを使え!」
 
 頼んだぞ、という思いが、いや、願いがその言葉にはこもっていた。
 その願いと共にルイスから託されたのは巨大光弾。
 ゆるやかな山なりの軌道で投げ渡されたそれを、アゼルフスが受け取る。
 いや、受け取ったというよりは抱きついたという感じだった。
 しがみついたアゼルフスの体が取り込まれるように、巨大光弾の中に沈んでいく。
 そしてアゼルフスの姿が完全に見えなくなると、巨大光弾に変化が起き始めた。
 毛玉が紐解かれるように、銀色の糸が巨大光弾から伸び広がり始める。
 その直後、デュランとヘルハルトは同時に大剣を構えた。
 双方の構えは二人の対照的な運命を表現したかのように真逆であった。
 デュランが天に向かって突き上げたのに対し、ヘルハルトは地面に突き刺そうとするかのように下へ向けた。
 振り上げたデュランの大剣に銀色の糸が吸い込まれるようにからみつき始める。
 ヘルハルトの大剣は泡立つように異形のものへと変じていく。
 そしてデュランは大剣を通じて天に語り掛けるように、対するヘルハルトは異形の大剣に呪いをこめるように言葉を響かせ始めた。

“「我は焦がれ、思い描く。戦士達が辿り着いた天上の楽園を」”

 二人の声は完璧に重なっていた。

“「されど基へ至る道は白き地獄。彷徨える戦士達が血を散らし続ける戦場なり」”

 声と共に二人の大剣は輝きを増し始めた。感知能力者にはそう感じられた。
 すさまじい感情があふれている。空気が揺れているのではと感じるほどに。
 ゆえに、二人の声の響きもさらに大きくなったように感じられた。

“「そして汝らは知るだろう。戦士達の勇猛さを。その力強さを」”

 錯覚では無かった。二人の声は明らかに力強くなっていた。
 声だけでなく、全身に力がみなぎっていた。
 魔力を流れる経路は熱をもっていた。
 その熱にあてられたかのように、デュランの心は高揚していた。
 だからデュランは最後の言葉をふさわしい声量で叫んだ。ヘルハルトも同じだった。

“「アル・バーダ・エリシオンッ!!」”

 その叫びと共にデュランは大剣を振り下ろし、ヘルハルトは地面に突き刺した。
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