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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

最終話 主が戻る 人よ思い出せ 古き恐れを(25)

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 これまでと同じ作業だとすら感じていた。
 縄全体を見た場合の軌道は、浅い角度だが斜め上の軌道。剣を引っかけて足場にするには都合の良い軌道。
 しかし縄の回転方向は下。叩きつける方向。
 だが、速さではこちらが上。縄の回転速度よりもこちらの剣速のほうが速い。ならば引っかけられる。上から刃をかぶせられる。
 たった一つ問題があるとすれば、文字通り全力で振らなければならないということ。
 筋肉と間接に大きな負荷がかかる。
 しかし問題はそれだけ。
 ならば問題は無い。全力を出す余力は十分にある。これだけの傷を負ってなお、有り余るほどの活力に満ちているのだから。
 ゆえにデュランは迷いも何も無く、冷静すぎる心のまま体内の魔力を爆発させた。
 その力を腕に伝え、大剣を振り下ろす。
 眼にも止まらぬ速度で回転する縄の上から、無骨な刃が食い込む。
 縄の中に満ちていた魔力が切れ込みからあふれ、デュランの大剣にこめられた魔力とぶつかり合う。
 そのぶつかり合いもまたこれまでと同じように、白い雷となって四方に散った。
 反動を利用して浮き上がりつつ、盾を構える。
 構えたのと同時に二本目の縄が盾に激突。
 真横に構えた盾の表面をなでられる形のぶつかり合い。
 ゆえに選択肢は一つ。押し合わずに受け流すのみ。
 であったが、

「っ!」

 冷たいほどに静かだったデュランの心に、一つの染みができた。
 その受け流しは妥協できないほどに精彩を欠いていた。
 受け流しはできた。しかし態勢が崩れた。次に来る最後の縄の対処ができない。
 仕方の無いことであった。ぶつかり合いの際に生じる雷と、それに伴う衝撃を完璧に予測することなど不可能なのだから。これまでは妥協できる結果を繋いでくることができた、ただそれだけのことなのだ。
 ゆえに、これも問題の無いことであった。
 失敗する可能性は事前に考慮されていた。
 だからアゼルフスはデュランの心の染みを消すために、既に動いていた。
 己が精霊の体を一枚の大きな布のように変形させながら、縦に渦を描くように鋭く回転させる。
 その回転による遠心力に引っ張られたかのようにアゼルフスの体は伸び、次に迫ってきた三本目の縄に上から巻き付いた。
 アゼルフスの魔力と縄の魔力がぶつかり合う。
 縄を下に加速させ、デュランの眼前を通過させる。
 雷を散らせながら最後の縄を突破。 
 近い。ヘルハルトはもう目の前。
 二本目の縄とのぶつかり合いで前への勢いを少し失ったが、十分に届く距離。
 だからルイスは思わず心から叫んだ。

(ついに、ついに捕らえた! 剣の間合いだ!)

 一人の男が巨大な光るマントをたなびかせながら飛び掛かり、振りかざした大剣を振り下ろそうとしている、その後ろ姿はそう見えた。
 そしてデュランはそのマントに向かって心の声を響かせた。

(やるぞアゼルフス! 回せ!)

 指示と同時にアゼルフスは動いた。
 振り上げられている大剣に後ろから体当たりし、魔力を叩きつける。
 それは下から風にあおられマントが刃にやさしく触れたようにしか見えなかったが、直後に生じた雷はこれまでのいずれよりも大きく激しいものであった。
 その衝撃で刃が勢いよく前に振り下ろされ、体もそれにひきずられる。
 そうして繰り出されたのは縦の回転切り。
 背から伸びるマントも刃のような形状に変化。
 ゆえにその様は、まるで高速回転する光る風車。
 回転が速すぎるため、おぼろげな月にも見える。
 デュランはその霞がかった満月のような技を、体当たりの要領でヘルハルトの体にねじこんだ。
 胸から腹へ、雷と共に回転しながら深々と切り刻んでいく。
 切り刻みながらデュランは心の声を響かせた。

(この傷口を――!)

 叫びながら地面までの距離を測る。
 最後の一回転が刃を地面に叩きつける形を狙う。
 魔力同士のぶつかり合いによる反動を利用し、落下速度を調整する。
 その最後の一太刀の形は最初に想像できていた。
 だからデュランは最後の一太刀でアゼルフスと共に叫んだ。

“「えぐり散らす!」”

 その最後の一撃だけアゼルフスの刃の軌跡は違った。
 型はほぼ真横の一文字切り。
 地面に振り下ろされたデュランの最後の一撃と重なって十字を成す。
 斬撃と共に放たれた光の魔力が、交差点から歪み、回転し、渦を描く。
 その渦の形は数瞬で崩れ、荒れ狂う光の濁流となった。
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