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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む
最終話 主が戻る 人よ思い出せ 古き恐れを(24)
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だが、ルイスの眼に映る光景はその思いを否定するように変わっていった。
ヘルハルトは伸ばした右腕を引き戻しながら、左手を変形させていった。
ヘルハルトは近づいてくるデュランの気配を見つめながら、どう対処しようか考えていた。考えながら変形させていた。
デュランは明らかに木々が残っているところを選んで走っている。木を盾にするつもりだろう。
しかしその程度の障害物なら軽くなぎ払える。それくらいの魔力ならば軽い気持ちで吐き出せるほどに貯蓄は残っている。
だからすべての左腕を束ねる必要は無い。たった一人の人間を木々ごと叩き潰すだけなら三本で十分。手数を残すという意味でも全ての腕を使うべきでは無い。
そう考えたヘルハルトは適当に三本を選び、ねじりながら束ねていった。
神の木すら結べそうな一本の太い縄のような腕が完成すると同時に、ヘルハルトはそれを振るった。
斜め下に振り下ろし、デュランの気配に叩きつける。
白い太縄は木々をへし折るだけで無く、地面をえぐり、土ごと根をすくいあげる要領でへし折った木々をなぎ払った。
遠目にはそこで白い爆発が起きたかのように見えた。
閃光と共にへし折られた木々が宙に舞い上がる。
するとその中には、同じように舞い上げられたかのように、デュランの姿があった。
デュランは木々を足場にして跳躍し、直撃を回避していた。
そうやって避けるだろうとヘルハルトは予想できていた。
だから、
“これは小回りがきくように作ってある!”
と、ヘルハルトは力強く独り言を響かせながら、振り抜いた太縄を逆方向に切り返した。
太縄がムチのようにしなりながらデュランに再び迫る。
これに対しデュランは防御の態勢を取った。
デュランが大盾を構え、肩に乗っているアゼルフスが光るマントで前面を覆う。
それを見たヘルハルトは“無駄だ”と笑った。
そんな守りで防げる攻撃では無い。
が、直後、さらなる守りが加わろうとしているのが見えた。
舞い上がった木々のうちの一本が、デュランのほうに近づいてきていた。
だが問題だとは思わなかった。
だからヘルハルトはそのまま振り抜いた。
太縄が木を打ち砕く。
が、
“!”
デュランは木を足場にして跳躍し、その一撃を回避していた。
速度とさらなる高さを得たことで、双方の距離が詰まる。
デュランで無く、シャロンとキーラが相手の場合は既に危険と言える距離感。赤い槍の爆発魔法が簡単に届く間合い。
これ以上距離を詰められるのは不愉快。
地上に降りられたらまた木を盾にされる。しかし空中にいる今ならば――むしろ、回避行動を取れない空中にいる今こそ好機。
そう考えたヘルハルトは切り返しを待つこと無く、手数としておいた残りの腕すべてを振るい始めた。
連打で確実に叩き落す、そう、確実に叩き落せるとヘルハルトは思っていた。
が、
“な!?”
デュランはヘルハルトの予想をはるかに超える動きを見せた。
攻撃は当たっている。
しかし落ちない。
威力は太縄よりもはるかに低いが、それでも人間一人くらいなら簡単に叩き飛ばせる。
速さもある。ムチのようにしなる先端部分は、達人の剣の速度と大差無い。
それを四方八方、全方向から仕掛けており、全部命中しているのに落ちない。盾と剣ですべて受け流されている。
「「「……!!」」」
その光景に、下から見守っている仲間達全員が言葉を失っていた。
ほとんどの者には、デュランがなぶり殺しにされているようにしか見えなかった。空中でお手玉されて遊ばれているようにしか見えなかった。
ただただ残酷で痛々しかった。並の動体視力では白い線が走っているようにしか見えない。
白い線が引かれるたびに、大きな炸裂音と共に光の魔力が激しく散っている。
さらに、散るといっても粒子じゃない。白い雷が走り散っている。とんでもない威力だということがわかる。雷を受けているのと大差無いはず。
だからほとんどの者が絶望とあきらめの視線を向けていた。
が、
(これは……!)
ルイスは違った。
ルイスはヘルハルトより深く理解できていた。
受け流しているだけじゃない。横のなぎ払いや下からの振り上げはすぐには流さず、あえて少し受けている。
なぜそんなことをするのか。
理由は一つしか無い。浮き上がるためだ。
なんという男だ。あいつはこの状況で比較的安全な地面に降りることよりも、高さを維持したままヘルハルトに近づくことのほうを優先している。
さらにそれだけじゃあ無い。まだある。
足場にならない攻撃は剣で受けることを意識している。切って、食っている。エサにしている。背負っているアゼルフスの体格が目でわかる勢いで増している。
しばらくしてヘルハルトもそのことに気付いたのか、手数を重視した攻撃は止まった。
狙いを定めながら、再び切り返した太縄をデュランに向かって振るう。
だが、これも受け流されるかもしれない――下手をすれば食われる? ヘルハルトはそう思った。
だからヘルハルトは一工夫を加えた。
ねじり束ねられた太縄が回転し始め、ほどけていく。
その回転速度は残像が見えるほど。
ゆえに、デュランからは白い竜巻が迫ってきているかのように見えた。
だがデュランは冷静だった。人間らしさを失ったかのように。
やることは大差無い。竜巻を前にしてデュランの頭にあるのはその一言だけだった。
ヘルハルトは伸ばした右腕を引き戻しながら、左手を変形させていった。
ヘルハルトは近づいてくるデュランの気配を見つめながら、どう対処しようか考えていた。考えながら変形させていた。
デュランは明らかに木々が残っているところを選んで走っている。木を盾にするつもりだろう。
しかしその程度の障害物なら軽くなぎ払える。それくらいの魔力ならば軽い気持ちで吐き出せるほどに貯蓄は残っている。
だからすべての左腕を束ねる必要は無い。たった一人の人間を木々ごと叩き潰すだけなら三本で十分。手数を残すという意味でも全ての腕を使うべきでは無い。
そう考えたヘルハルトは適当に三本を選び、ねじりながら束ねていった。
神の木すら結べそうな一本の太い縄のような腕が完成すると同時に、ヘルハルトはそれを振るった。
斜め下に振り下ろし、デュランの気配に叩きつける。
白い太縄は木々をへし折るだけで無く、地面をえぐり、土ごと根をすくいあげる要領でへし折った木々をなぎ払った。
遠目にはそこで白い爆発が起きたかのように見えた。
閃光と共にへし折られた木々が宙に舞い上がる。
するとその中には、同じように舞い上げられたかのように、デュランの姿があった。
デュランは木々を足場にして跳躍し、直撃を回避していた。
そうやって避けるだろうとヘルハルトは予想できていた。
だから、
“これは小回りがきくように作ってある!”
と、ヘルハルトは力強く独り言を響かせながら、振り抜いた太縄を逆方向に切り返した。
太縄がムチのようにしなりながらデュランに再び迫る。
これに対しデュランは防御の態勢を取った。
デュランが大盾を構え、肩に乗っているアゼルフスが光るマントで前面を覆う。
それを見たヘルハルトは“無駄だ”と笑った。
そんな守りで防げる攻撃では無い。
が、直後、さらなる守りが加わろうとしているのが見えた。
舞い上がった木々のうちの一本が、デュランのほうに近づいてきていた。
だが問題だとは思わなかった。
だからヘルハルトはそのまま振り抜いた。
太縄が木を打ち砕く。
が、
“!”
デュランは木を足場にして跳躍し、その一撃を回避していた。
速度とさらなる高さを得たことで、双方の距離が詰まる。
デュランで無く、シャロンとキーラが相手の場合は既に危険と言える距離感。赤い槍の爆発魔法が簡単に届く間合い。
これ以上距離を詰められるのは不愉快。
地上に降りられたらまた木を盾にされる。しかし空中にいる今ならば――むしろ、回避行動を取れない空中にいる今こそ好機。
そう考えたヘルハルトは切り返しを待つこと無く、手数としておいた残りの腕すべてを振るい始めた。
連打で確実に叩き落す、そう、確実に叩き落せるとヘルハルトは思っていた。
が、
“な!?”
デュランはヘルハルトの予想をはるかに超える動きを見せた。
攻撃は当たっている。
しかし落ちない。
威力は太縄よりもはるかに低いが、それでも人間一人くらいなら簡単に叩き飛ばせる。
速さもある。ムチのようにしなる先端部分は、達人の剣の速度と大差無い。
それを四方八方、全方向から仕掛けており、全部命中しているのに落ちない。盾と剣ですべて受け流されている。
「「「……!!」」」
その光景に、下から見守っている仲間達全員が言葉を失っていた。
ほとんどの者には、デュランがなぶり殺しにされているようにしか見えなかった。空中でお手玉されて遊ばれているようにしか見えなかった。
ただただ残酷で痛々しかった。並の動体視力では白い線が走っているようにしか見えない。
白い線が引かれるたびに、大きな炸裂音と共に光の魔力が激しく散っている。
さらに、散るといっても粒子じゃない。白い雷が走り散っている。とんでもない威力だということがわかる。雷を受けているのと大差無いはず。
だからほとんどの者が絶望とあきらめの視線を向けていた。
が、
(これは……!)
ルイスは違った。
ルイスはヘルハルトより深く理解できていた。
受け流しているだけじゃない。横のなぎ払いや下からの振り上げはすぐには流さず、あえて少し受けている。
なぜそんなことをするのか。
理由は一つしか無い。浮き上がるためだ。
なんという男だ。あいつはこの状況で比較的安全な地面に降りることよりも、高さを維持したままヘルハルトに近づくことのほうを優先している。
さらにそれだけじゃあ無い。まだある。
足場にならない攻撃は剣で受けることを意識している。切って、食っている。エサにしている。背負っているアゼルフスの体格が目でわかる勢いで増している。
しばらくしてヘルハルトもそのことに気付いたのか、手数を重視した攻撃は止まった。
狙いを定めながら、再び切り返した太縄をデュランに向かって振るう。
だが、これも受け流されるかもしれない――下手をすれば食われる? ヘルハルトはそう思った。
だからヘルハルトは一工夫を加えた。
ねじり束ねられた太縄が回転し始め、ほどけていく。
その回転速度は残像が見えるほど。
ゆえに、デュランからは白い竜巻が迫ってきているかのように見えた。
だがデュランは冷静だった。人間らしさを失ったかのように。
やることは大差無い。竜巻を前にしてデュランの頭にあるのはその一言だけだった。
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