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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

最終話 主が戻る 人よ思い出せ 古き恐れを(23)

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 さらに、長く考えることも許されない状況であった。
 このまま行くとどうなる? そう思って振り返ったフレディの眼に映ったそれは、フレディを焦らせ、思考を加速させた。加速せざるを得ない状況であった。

(やばい)(太い枝がある)(激突する)(死ぬ!)

 加速した思考から四つの言葉が同時に浮かび上がり、脳内で重なって響く。
 それらの言葉を響かせながらフレディは義手に炭素棒を仕込んでいた。
 それは焦りとは対照的なほどに滑らかで速い動きであり、これまでに行った同じ動作のいずれと比べても速かった。
 それらの思考と動きは理性を置き去りにするほどであり、ほぼ無意識の動きに感じられた。ゆえに、フレディはいつの間にか義手を迫る枝に向かって突き出していた。一瞬遅れて自分の動きの良さに驚いたほどであった。
 焦りも遅れてきたように感じられた。それは理性と共に追いついてきた。
 焦りに狙いを定める腕が揺れる。
 あとはできるだけ引き付けてレバーを引くだけ。
 普段ならば簡単であることが、今のフレディには手汗をかくほどに困難に感じられた。
 そして結局フレディの理性は最後まで仕事ができなかった。気付けばフレディは本能のままにレバーを引いていた。
 
「っ!!!」

 すさまじい激痛と引き換えに枝の破壊に成功。
 だが、脇にかかえたキーラの肋骨を絞め折ってしまいかねないほどに、フレディの体は痛みに強張った。
 ゆえに既に次の危機が、地面という壁が迫っているにもかかわらず、フレディの体は自由に動かなかった。

(受け身を――)(足を前に――)(着地と同時に上半身を――)

 再び言葉を同時に響かせながら、体を懸命に動かす。
 その動きはがむしゃらのように見え、フレディはそんな動きのままキーラと共に地面に落ちた。

「――~~っ!!」

 衝撃が足から全身に走り、視界が回転する。
 フレディは上下すらわからなくなったが、それでもキーラことだけは強く意識にあった。たとえ自分が戦闘不能になったとしても、キーラが無事ならば良し、キーラという戦力を考えれば自分の怪我など安いものと考えていた。だからキーラが怪我をしないようにしっかりと抱き締めていた。
 そして間も無く、背中に走った衝撃と共に回転の感覚は消えた。
 木にぶつかった? 止まった? そう思ったフレディは目を開け、キーラの状態を確認した。
 無事だ。全身傷だらけの状態を無事と表現していいのかわからないが、とにかく致命傷は見当たらない。骨にも異常は無さそうだ。
 良かった。俺は上手くやりきることができた、フレディはそう安堵しながら立ち上がろうとしたが、

「――っ!」 

 右腕から激痛が走った。
 見ると、義手はメチャメチャになっていた。
 本能の仕事は完璧では無かったのだ。
 引き付けすぎたのだ。枝に義手の手の平が当たると同時にレバーを引いたのだ。
 片腕が使い物にならなくなった、その事実はフレディに衝撃を与えたが、

(……いや、問題無い、片腕でも銃は撃てる!)

 フレディの心はその衝撃を跳ね返し、両足を力強く立たせた。
 その立ち上がりの力強さによって、キーラが目を覚ましたことに気付いたフレディは声をかけた。

「キーラ!? 気付いたのか?!」
 
 フレディは「大丈夫か?」とお約束の言葉をかけようとしたが、キーラはそれより先に口を開いた。

「状況はどうなってる?」

 気絶していた時間は長くない。だから変わってないとフレディは答えかけてやめた。答える必要も無いように思えたからだ。
 事実、感知能力の優秀なキーラは既に状況を把握していた。ヘルハルトを見つめていた。
 だからフレディもつられて巨人の方に視線を移した。
 するとフレディも感じ取った。
 あいつがたった一人でヘルハルトに突っ込んでいくのを。

   ◆◆◆

 それは大規模攻撃直後の隙を突いた形だった。
 折れて空中分解を始めた巨人の大剣が空を白く染め始めたのと同時に、デュランはヘルハルトに向かって突っ込んだ。
 それを見たルイスは声を上げようとした。
 が、

「……っ!」

 一人では死ぬぞ! という言葉は喉の奥で引っかかって出てこなかった。
 いくら大規模攻撃の直後で魔力を大量に消耗しているとはいえ、ヘルハルトから放たれている魔力の波動はいまだ大きい。
 人間一人くらいならば、ハエを払うような感覚で吹き飛ばせるであろう。
 だから止めるべきだ、普通は。
 しかし今の神懸かり(かみがかり)な強さを見せるデュランならば、そう思ってしまったがゆえに言葉は出てこなくなった。
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