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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

最終話 主が戻る 人よ思い出せ 古き恐れを(19)

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   ◆◆◆

 ナイアラは上空から戦場をだらだらと見回していた。
 クトゥグアはまだ必死で戦っている。
 クトゥグアからの声はうるさいほどに飛んできている。
 クトゥグアとアルフレッド達の戦いはまだ終わっていない。
 にもかかわらず、ナイアラは他人事のように戦いを見下ろしていた。

(ヘルハルトが優勢に見えるが……さて、人間達はここからどう立ち回る?)

 考えながらナイアラは重要な者達へ次々と視線を移していった。
 デュランとシャロンにキーラ、そして集まり始めたルイス達。
 人間達はよく粘っているが、すべてまとめて吹き飛ばす一手をヘルハルトは準備している。
 よくあるありふれた一手だ。だからルイスは気づいている。対抗手段を用意しようとしている。
 間に合わなければその一手で完全決着になる可能性が高い。

(だが――)

 シャロンとキーラ、この二人の活躍次第ではまだわからない。

(思えば――)
 
 この二人のどちらかが欠けていれば決着はとっくに――この戦いだけの話では無い、ヨグ・ソトースとの戦いで終わっていた可能性すらある。
 そう、思い返せば、あの時が大きな運命の分岐点の一つだった。アルフレッドがシャロン達と合流した後、私がアルフレッドとアリスの思考を歪めたあの時だ。
 私が何もしなければキーラは処刑されていた可能性が高い。確実に処刑されるように誘導することもできた。
 だが、あの時はクトゥグアの地上侵攻を邪魔することが私に与えられていた仕事の一つだった。その点において当時のキーラという存在は使いやすかった。アルフレッドを手の届きやすい南側に誘導するという点から考えても都合が良かった。
 そして奇妙なことに、今ではそのクトゥグアと手を組んでいる。

(いや――)

 組んでいるというのは既に正しい表現では無くなっている。
 自分はもうクトゥグアの勝利を願ってはいないからだ。
 ずっと考えていた。もしもこの戦いに勝ったらどうなるかを。
 間違い無く、クトゥグアは火山の周りに強固な都市を築くだろう。
 対し、自分はどうだろうか?
 クトゥグアと同じ、いや、それ以上の速さで人間達を掌握して、勢力圏を広げていけるだろうか?
 考えるまでも無い。不利だ。クトゥグアが使役する炎の精霊が強すぎるからだ。強い人間をぶつける以外に今のところは対処法が無い。クトゥグアを効果的に抑え込む手段が無い。海の中ではアザトースがその仕事をやってくれているが、地上では難しいだろう。
 別の対処法が確立される頃には大きな差をつけられている可能性が高い。差がついた瞬間にクトゥグアが襲い掛かってくる可能性も忘れてはならない。
 だからクトゥグアの圧倒的勝利を願うべきでは無いのだ。
 ナイアラがそこまで思考を走らせた直後、

(――)
 
 一瞬、思考が別の方向にそれた。
 次の瞬間にはその新たな方向に対して興味が湧いていた。
 だからナイアラはそれについて思考を進ませた。

(……人間達のように協力していたら、とっくに我々が勝っていただろうな)

 言いながら、ナイアラは自分の言葉に違和感を覚えていた。
「我々」という表現がどうもしっくりこないのだ。
 その違和感についてはひとまず置いておくとして、人間達の結束力は強い。
 特に「我々」のような「異物」に対しては国などの境界を軽々と越えて結束してくる。太古の時代でもそうだった。事実、あの魔王であったキーラと共に戦って――。
 瞬間、

(――「異物」、か)

 ナイアラは違和感の答えを見つけた。
 そうだ、我々の関係はそれだ。だから「我々」という表現に違和感を覚える。
 我々は同じ生命体では無いからだ。火山育ちのクトゥグアなどは非常にわかりやすい。あまりにも違いすぎる。お互いに相手を異物として見ている。家畜を見るような目でだ。
 ゆえに主従関係でしか長い関係を築けない。その主従の結束には恐怖などの負の感情がよく使われる。

(なるほど、だから――) 

 だからクトゥグアは「愛」に可能性を見出そうとしたのかもしれない。
 見せかけだけでも、自分達の周りだけは光で照らしておきたいのかもしれない。
「女」の形をしていることも関係があるだろう。
 クトゥグアは作戦や行動の起点に「性」を利用することが多い。『保険をかける』にしても何をするにしてもだ。

(まあ、愛は自分にとっては正直どうでもいいが、参考になる部分はあるな)

 自分もクトゥグアのように、新しい価値観に目を向けるべきなのかもしれない。
 これまでとはまったく違うやり方を試す、というのも悪くないかもしれない。
 アザトースと縁を切ったばかりの今こそ良いタイミングのように思える。アザトースから距離を置いて遠い土地に移ることは既に確定なのだから、新しい土地で新しいことを始めるというのはなかなか悪くない考えのように思える。
 しかし新しい何かといっても、方向性くらいは決めておかねばならない。
 娯楽や快楽などは主目的たりえない。自分の目的はより強くなること。他の何よりも。その一点だけはこれまでもこれからも、たとえこの星の頂点にたどりついたとしても変えるつもりは無い。

(……)

 そんなことを考えながら、ナイアラは戦う人間達を見つめた。
 今後の事と、今のこの戦いをどう終わらせるかも含めて、思考を巡らせた。
 そしてナイアラはヘルハルトのほうをチラリと見て思った。
 
(……表面は炎の精霊のように硬いが、中身は人間の魂や神の木の樹液を材料にしたもので出来ているな)

 ならばやりようはある、そう思いながらナイアラは視線をアルフレッドとクトゥグアの方に移した。
 そしてナイアラはとても小さな声で、二つの言葉を同時に響かせた。

「やはり惜しいな」、「悪いな」、その二つの言葉はそのように聞こえた。
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