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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

最終話 主が戻る 人よ思い出せ 古き恐れを(16)

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 ヘルハルトは天を仰ぐようにすべての腕を広げながらそう叫んだ。
 直後、

「無事か、シャロン、キーラ!」

 兵士達を引き連れたルイスの声が、シャロンの後方から響いた。
 しかしその声に応える余裕がシャロンにもキーラにも無かった。
 その理由はヘルハルトからの激しい攻撃の対処だけでは無かった。
 とんでもない量の魔力がヘルハルトの胸部に集中するのを感じ取れていたからだ。
 それはルイスも感じていた。
 だからルイスはシャロンの後ろに立つと同時に尋ねた。

「なにが起きてる?!」

 この問いにも答えられなかった。わかるわけが無かった。
 唯一できることは身構えることだけだった。
 そしてルイスの問いから間も無く、答えは提示された。始まった。
 ヘルハルトは自分を抱きしめるようにすべて腕を胸に回したあと、勢いよく胸を前に突き出しながら腕を大きく開いた。
 その胸を突き出す動作に合わせて、中にためられていた魔力が一斉に閃光となって放出された。

「「「!!」」」

 木々の茂みによる影がすべて白く照らされるほどの強い閃光が広がり、周囲を包み込む。 
 それは悪魔的な福音であった。
 照らされた瞬間にシャロン達は感じた。
 圧倒的な幸福感が勝手に湧き上がってくる。
 まるで母に優しく抱かれているような感覚。
 幸福感に引きずられるように、幸せな思い出が記憶の引き出しから勝手に飛び出してくる。
 周囲に集まってきた兵士達も同様であった。
 圧倒的なその感覚に手と足が止まってしまっていた。
 ここに何をしにきたのか、それを突然忘れてしまったかのように。
 涙を流している者すらいた。
 そこへ容赦無くヘルハルトの精霊が襲い掛かる。
 兵士達の一部は棒立ちであった。
 棒立ちの兵士達はそれを攻撃だと認識すらしていなかった。
 ヘルハルトが放った精霊はこれまでのものとは違っていた。
 大きな羽を持つ人間の姿をしており、まるで天使のようであった。
 天使は棒立ちの兵士を両腕で抱きしめ、その大きな羽で包み込んだ。
 天使達のその行動を止める余裕はシャロンには無かった。
 キーラを守ることと、デュランへの援護で精一杯であった。
 そして少なからずシャロンも影響を受けていた。
 これは精神攻撃だ、そうわかっていても声を上げられなかった。
 もしかしたら戦う必要は無いのではないか、善い共生関係が築けるのでは無いかとすら考えてしまう。
 思わず攻撃の手が止まりそうになる。
 いや、少しずつだが緩み始めていた。
 体から勝手に力が抜けていく。
 勝手に引き出される幸福な記憶の中には、快楽の思い出も含まれていた。
 サイラスとの思い出がシャロンの心に熱を与え、体から力を奪っていく。
 まるで甘美で妖艶な夢の中にいるよう。
 このままではいけない、理性ではそうわかっていても抗えない。
 隣にいるキーラも同じであった。
 今は亡き恋人との思い出に責められていた。

((もう、ダメ――))

 そしてシャロンとキーラが屈しかけた瞬間、

「二人とも気を確かに持て!」

 ルイスの呼び声と共に、黒いムカデが二人の体に巻き付いた。
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