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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む
最終話 主が戻る 人よ思い出せ 古き恐れを(15)
しおりを挟む「……!」
そのすべての凄まじさにシャロンは思わず息を呑んだ。
デュランの精神がかつてない領域にまで高まっているのが痛々しいほどに伝わってくる。
自分があそこに、あの場に立つことは可能だろうか?
自分のほうが魔力などの性能は高い。だから自分は違うやり方で立ち回れるだろう。
しかしそういうことじゃ無い。いま気にしているのはそれじゃあない。
同じ条件ならばどうか? 魂だけを移動させて肉体を交換するように、同じ身体能力を条件にするとしたらどうか? 自分はいまのデュランのように凄まじく立ち向かえるだろうか?
その答えは素直に言葉にできる。それほどまでに凄まじい。
いや、神々しい。いまこの場面を絵におさめれば伝説の一ページになりそうなほどに。
奇妙な感覚と共に圧倒される。目にはデュランが追い詰められているようにしか見えない。今にも死にそうにしか見えない。
だが心は違う。目とは真逆の認識になる。
いまのデュランならばもちこたえる――いや、違う。もちこたえるだけじゃない、何かやってくれる、そう感じる。
そして奇妙な感覚の理由はもう一つある。
それは――
シャロンがその言葉を心の中で紡ぐよりも早く、デュランが光の中から答えを心に響かせた。
「どうしたヘルハルト! 攻撃が単調になってるぞ! この程度では俺は死なんぞ!」
そうだ、その通りだ、と、シャロンは心の中で頷いた。
ヘルハルトは同じパターンを機械的に繰り返している。
なぜ? 遊んでいるのか?
シャロンがその答えを探し始めた直後、ヘルハルトの声が響いた。
“知識が流れ込んでくる……いや、これは誰かの記憶か?”
なんだ? 誰かがヘルハルトに精神攻撃をしかけているのか? シャロンはそう思った。
だがどうやら違うようであった。
“いや、記憶じゃない……誰かの心? 魂? やめろ……俺の意識に勝手に入ってくるな……!”
外部からの攻撃には感じられなかった。ヘルハルトの中で何かが起きている、そう感じられた。
“神……? 俺が……? 私が……?”
ヘルハルトは独り言を大きく響かせながら苦しんでいた。
“いや、違う……違う、違う、ちがうチガウチガウ。 神は、あいつはもう死んだ!”
何を言っているのかわからない。
“でも蘇る。俺の、私の中にいる。一つになろうとしている。ああ、それも違う。俺は俺、私は私だ!”
ヘルハルトの言葉は支離滅裂。
しかし一つだけわかることがあった。感じられた。
“ああ、しかし……なのに……なんだこの感情は……暖かい……そして懐かしい?”
ヘルハルトの中で新たな人格が記憶と共に生まれ、ヘルハルトと融合し始めている。
“私の、俺の心が勝手に塗り変えられていく……塗りつぶされていく……なのにこれは……心地いい? キモチイイ?”
卑屈で悪にかたよりがちな本来のヘルハルトと、作られた善なる可能性のヘルハルト、そして突然生まれた第三の何かが、溶け合いながら混ざっていく。
その第三の何かは、かつて神と呼ばれていた何者かのようであった。
そしてヘルハルトはその神の記憶に対して言葉を響かせた。
“素晴らしい……しかし、かつての神は失敗した”
ヘルハルトは突然混じった何かを受け入れたように感じられた。
“だが私は、俺は違う! 私ならば、俺ならば成し遂げられる! かつての神が成し得なかった理想を!”
「私は」、「俺は」、その言い回しから、善と悪両方のヘルハルトの人格はいまだ共存しており、第三の何かの記憶と完全に繋がっているようであった。
“私を作り出したる何者かよ! 私にこれをやってほしいというのだな! いいだろう! 俺がやってやる! これは気に入った! かつての神の真似事でもなんでもやってやる!”
第三の何かがかつて抱いていた理想をヘルハルトは受け入れ、引き継ぐ意思を見せた。
そしてヘルハルトは高らかにそれの開始を宣言した。
“では始めよう! いま、ここから!”
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