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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む
最終話 主が戻る 人よ思い出せ 古き恐れを(13)
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間も無く、他方から別の戦士の悲鳴が続けて上がる。
悲鳴の連鎖は止まらない。
が、それでも戦士達は走り続けた。ギリギリまでクトゥグアの対処をしなかった。
全員が自分達にかけられている期待が何かを理解しており、皆がその期待に応えるためだけに走っていた。
ゆえに、しばらくすると悲鳴とは違う音が森の中に響き始めた。
光弾が木に炸裂する音。
魔法使い同士の戦いで生じる音が次々と鳴り響き始める。
戦士達が敵の補給部隊に追いついたのだ。
戦闘音は少しずつ大きくなり、ある時を境に段違いに激しくなった。
アルフレッドとベアトリスが追いついたのだ。
ナイアラは冷めた目でその戦いの様子を眺めていた。
(ふむ、これは――)
もうこの場の決着はついたようなものだな、と、ナイアラは読めていた。
この場の防衛は自分とクトゥグアでどれだけアルフレッド達を足止めできるかどうかが全てだった。
しかし相手は自分の命を捨てる覚悟で、いや、自らがオトリになる覚悟で走り出した。
それでは止めようが無い。
そもそもクトゥグアは大きな不利を背負っている。
場が森で、遠いとは言えない距離に守るべき対象の神の木があるのに、こちらの防衛の主力が炎使いであるというのは、もはや笑えない冗談にしか聞こえない。
この場一帯を包めるほどの大規模な精神攻撃ができれば話は違ったが、そんな精霊の手持ちは無い。ほとんどヘルハルトにくれてやったからだ。
自分の手持ちをこれ以上消費するつもりは無い、アルフレッドを乗っ取るチャンスを完全に失うから、という言葉はナイアラは響かせずに飲み込んだ。
ゆえに、ナイアラは早々にこの場への興味を失い、別の方向に意識を向けた。
ヘルハルトは増援のドラゴンを取り込んでさらに巨大になっていた。
体内の魔力量は十分。だからナイアラは思った。
(そろそろか?)
クトゥグアが描いた予定では、ヘルハルトにはあと一回の大きな変化が残されている。
(いや、)
これに関してはクトゥグアが描いたというのは少し違うか、と、重要なことでは無いがナイアラはあえて訂正した。
その変化が予定に組み込まれるきっかけになったのは、自分のある指摘によるものだからだ。
この戦いに勝ったあと、どのようにしてヘルハルトの心を我々にとって都合の良いものに変化させるか、という話題で自分が発したある言葉がきっかけになったのだ。
ヘルハルトの中に残されているこの残飯が使えるのではないか、自分はそう思ったのだ。
それはヘルハルトに食われた何かの残骸であったが、いろいろ面白い記憶や知識が残っていた。
その記憶が誰かに作られたものでは無い本物かどうかについてはどうでもよかった。
それはクトゥグアの趣味に合っていた。だからクトゥグアはそれを採用した。
あとから付け加えられたものであるゆえに、この変化は最後のものになった。
勝利のために必要な変化かどうかは判断が難しい。性格が変化するため攻め手も変わると思われるが、その変化が有利に働くかどうかまでは予想できていない。それはその変化が起き始めた時の状況によるからだ。
だがそれでも、
(さて、どうなるか見ものだな)
その変化はナイアラにとっても楽しみなものであった。
悲鳴の連鎖は止まらない。
が、それでも戦士達は走り続けた。ギリギリまでクトゥグアの対処をしなかった。
全員が自分達にかけられている期待が何かを理解しており、皆がその期待に応えるためだけに走っていた。
ゆえに、しばらくすると悲鳴とは違う音が森の中に響き始めた。
光弾が木に炸裂する音。
魔法使い同士の戦いで生じる音が次々と鳴り響き始める。
戦士達が敵の補給部隊に追いついたのだ。
戦闘音は少しずつ大きくなり、ある時を境に段違いに激しくなった。
アルフレッドとベアトリスが追いついたのだ。
ナイアラは冷めた目でその戦いの様子を眺めていた。
(ふむ、これは――)
もうこの場の決着はついたようなものだな、と、ナイアラは読めていた。
この場の防衛は自分とクトゥグアでどれだけアルフレッド達を足止めできるかどうかが全てだった。
しかし相手は自分の命を捨てる覚悟で、いや、自らがオトリになる覚悟で走り出した。
それでは止めようが無い。
そもそもクトゥグアは大きな不利を背負っている。
場が森で、遠いとは言えない距離に守るべき対象の神の木があるのに、こちらの防衛の主力が炎使いであるというのは、もはや笑えない冗談にしか聞こえない。
この場一帯を包めるほどの大規模な精神攻撃ができれば話は違ったが、そんな精霊の手持ちは無い。ほとんどヘルハルトにくれてやったからだ。
自分の手持ちをこれ以上消費するつもりは無い、アルフレッドを乗っ取るチャンスを完全に失うから、という言葉はナイアラは響かせずに飲み込んだ。
ゆえに、ナイアラは早々にこの場への興味を失い、別の方向に意識を向けた。
ヘルハルトは増援のドラゴンを取り込んでさらに巨大になっていた。
体内の魔力量は十分。だからナイアラは思った。
(そろそろか?)
クトゥグアが描いた予定では、ヘルハルトにはあと一回の大きな変化が残されている。
(いや、)
これに関してはクトゥグアが描いたというのは少し違うか、と、重要なことでは無いがナイアラはあえて訂正した。
その変化が予定に組み込まれるきっかけになったのは、自分のある指摘によるものだからだ。
この戦いに勝ったあと、どのようにしてヘルハルトの心を我々にとって都合の良いものに変化させるか、という話題で自分が発したある言葉がきっかけになったのだ。
ヘルハルトの中に残されているこの残飯が使えるのではないか、自分はそう思ったのだ。
それはヘルハルトに食われた何かの残骸であったが、いろいろ面白い記憶や知識が残っていた。
その記憶が誰かに作られたものでは無い本物かどうかについてはどうでもよかった。
それはクトゥグアの趣味に合っていた。だからクトゥグアはそれを採用した。
あとから付け加えられたものであるゆえに、この変化は最後のものになった。
勝利のために必要な変化かどうかは判断が難しい。性格が変化するため攻め手も変わると思われるが、その変化が有利に働くかどうかまでは予想できていない。それはその変化が起き始めた時の状況によるからだ。
だがそれでも、
(さて、どうなるか見ものだな)
その変化はナイアラにとっても楽しみなものであった。
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