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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む
最終話 主が戻る 人よ思い出せ 古き恐れを(6)
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そして二人は光の粒子を散らしながらすれ違い、森の茂みの中に落ちて沈んでいった。
着地は同時。
乱立する木のせいで互いの姿は見えないが、二人は視線を交えようとするかのように同時に振り返った。
デュランがヘルハルトに向かって地を蹴る。
対し、ヘルハルトはその場から動かずに六本に分離させた剣を振り回し始めた。
瞬く間に六閃、十二閃、十八閃。
全ての剣閃が飛ぶ斬撃となって、銀色の三日月となって放たれる。
三日月は次々と木々にぶつかり、木々をえぐりながら砕けていった。
だが小さくなっただけで勢いは衰えず。
魔力が互いに引き合っているため拡散もしない。群れのように身を寄せ合い、白い濁流となる。
全てを白く照らし、触れるものすべてを傷つけながら飲み込んでいく。
この銀色の濁流の中に、
「ぅ雄雄おぉぉッ!」
デュランは恐れ無く切り込んだ。
気勢と共に鋼の大剣を振り下ろす。
同時に戦士長の二刀が×字を斬る。
描かれた三つの軌跡が飛び道具となり、濁流とぶつかり合う。
そのぶつかり合いの中に身を投じるかのように、踏み込みながらさらに一閃。戦士長の刃と合わせて三閃。
足を一歩出すと同時に剣を振る。
それを繰り返して六閃、九閃。
「雄雄雄オオッ!」
気勢を響かせながら前へ前へ。
白い濁流の中を押し通りながら、デュランは奇妙な思いを抱いていた。
それは先の問いに対しての思いであった。
「今の俺を見てどう思う?」、ヘルハルトはそう聞いてきた。
その時は言わなかったが、答えはすぐに心の中に出来上がっていた。
その答えは――
(こいつは危険だ!)
直後にデュランはそれを濁流の中から響かせた。
しかしその言葉に含まれる意味は変わっていた。
今のは、「こいつは際限無く強くなりつつある。だから早く止めないと危険だ」という意味だ。
最初に問いをぶつけられた時は違う意味だった。
「悪しき心もまだそのまま残っている。だから危うい」という意味だった。
そしてその思いを抱いたのは今回が初めてでは無かった。
村に一緒にいた頃に既に抱いていた思いであった。
ヘルハルトは自分と同じ――いや、もう正直に言うべきだろう――自分よりも大きな才能を秘めた男だった。
だが、同じくらい大きな悪の気質までヘルハルトは秘めてしまっていた。
それでも戦士長はヘルハルトのことをあきらめてはいなかった。戦士長と一つになった今だから断言できる――ああ、しかしそれはつまり、俺達は大昔から得体の知れない何かに監視されていたということ――
だが、ヘルハルトはその期待には応えなかった。ヘルハルトは悪の気質ばかり成長させてしまった。
その原因が俺にあることも知っている。
俺達は対照的だった。俺にはお前のような厄介は気質は無かった。
だからお前は歪んだ。何かにつけてお前は俺と比べた。そして卑屈に、邪悪になっていった。
俺はその変化を止められなかった――いや、自分を綺麗に見せようとするのもやめよう――俺はその変化を止めようともしなかった。
それが悪いことだとは思っていない。俺とヘルハルトの関係は同じ村の出身というだけであり、それ以上の義理は無かった。
だが、もしも俺が何かしていれば、良い方向に変えることができていたのではないか?
共に魔王軍と戦う未来もあったのではないか?
ゆえに奇妙に感じる。
今の自分の気持ちを適切に表現する言葉が見つからないからだ。
だからデュランはその気持ちをそのままぶつけるために叫んだ。
「ヘルハルトォオオッ!」
白い濁流を押し返す気持ちで叫ぶ。
妄執じみたその叫び声を力に変えて、さらに前へ前へ。
間も無く、デュランは白い濁流を突破した。
前方に立っているヘルハルトの姿が視界に映る。
そして視線と意識が交錯した瞬間、ヘルハルトもまた同じように叫んだ。
「デュラァァンッ!」
ヘルハルトも同じ気持ちだった。
が、ヘルハルトはさらに別の思いを上乗せしていた。
これは本来ありえない戦いなのだ、と。
正しき道に導かれた自分はお前と戦おうなどとは思いもしない。
邪悪な自分も同様。卑屈な自分は強いお前を恐れて戦おうとはしない。
その二つの心を同時に抱いているからこそ、このありえない戦いが成立したのだ。
卑屈さから生まれる恐怖を、自信から生まれる勇気で相殺できるからだ。
そして力強く芽生えるのだ! どちらが後継者としてふさわしかったのかを確かめたいという、純粋な闘争心が!
着地は同時。
乱立する木のせいで互いの姿は見えないが、二人は視線を交えようとするかのように同時に振り返った。
デュランがヘルハルトに向かって地を蹴る。
対し、ヘルハルトはその場から動かずに六本に分離させた剣を振り回し始めた。
瞬く間に六閃、十二閃、十八閃。
全ての剣閃が飛ぶ斬撃となって、銀色の三日月となって放たれる。
三日月は次々と木々にぶつかり、木々をえぐりながら砕けていった。
だが小さくなっただけで勢いは衰えず。
魔力が互いに引き合っているため拡散もしない。群れのように身を寄せ合い、白い濁流となる。
全てを白く照らし、触れるものすべてを傷つけながら飲み込んでいく。
この銀色の濁流の中に、
「ぅ雄雄おぉぉッ!」
デュランは恐れ無く切り込んだ。
気勢と共に鋼の大剣を振り下ろす。
同時に戦士長の二刀が×字を斬る。
描かれた三つの軌跡が飛び道具となり、濁流とぶつかり合う。
そのぶつかり合いの中に身を投じるかのように、踏み込みながらさらに一閃。戦士長の刃と合わせて三閃。
足を一歩出すと同時に剣を振る。
それを繰り返して六閃、九閃。
「雄雄雄オオッ!」
気勢を響かせながら前へ前へ。
白い濁流の中を押し通りながら、デュランは奇妙な思いを抱いていた。
それは先の問いに対しての思いであった。
「今の俺を見てどう思う?」、ヘルハルトはそう聞いてきた。
その時は言わなかったが、答えはすぐに心の中に出来上がっていた。
その答えは――
(こいつは危険だ!)
直後にデュランはそれを濁流の中から響かせた。
しかしその言葉に含まれる意味は変わっていた。
今のは、「こいつは際限無く強くなりつつある。だから早く止めないと危険だ」という意味だ。
最初に問いをぶつけられた時は違う意味だった。
「悪しき心もまだそのまま残っている。だから危うい」という意味だった。
そしてその思いを抱いたのは今回が初めてでは無かった。
村に一緒にいた頃に既に抱いていた思いであった。
ヘルハルトは自分と同じ――いや、もう正直に言うべきだろう――自分よりも大きな才能を秘めた男だった。
だが、同じくらい大きな悪の気質までヘルハルトは秘めてしまっていた。
それでも戦士長はヘルハルトのことをあきらめてはいなかった。戦士長と一つになった今だから断言できる――ああ、しかしそれはつまり、俺達は大昔から得体の知れない何かに監視されていたということ――
だが、ヘルハルトはその期待には応えなかった。ヘルハルトは悪の気質ばかり成長させてしまった。
その原因が俺にあることも知っている。
俺達は対照的だった。俺にはお前のような厄介は気質は無かった。
だからお前は歪んだ。何かにつけてお前は俺と比べた。そして卑屈に、邪悪になっていった。
俺はその変化を止められなかった――いや、自分を綺麗に見せようとするのもやめよう――俺はその変化を止めようともしなかった。
それが悪いことだとは思っていない。俺とヘルハルトの関係は同じ村の出身というだけであり、それ以上の義理は無かった。
だが、もしも俺が何かしていれば、良い方向に変えることができていたのではないか?
共に魔王軍と戦う未来もあったのではないか?
ゆえに奇妙に感じる。
今の自分の気持ちを適切に表現する言葉が見つからないからだ。
だからデュランはその気持ちをそのままぶつけるために叫んだ。
「ヘルハルトォオオッ!」
白い濁流を押し返す気持ちで叫ぶ。
妄執じみたその叫び声を力に変えて、さらに前へ前へ。
間も無く、デュランは白い濁流を突破した。
前方に立っているヘルハルトの姿が視界に映る。
そして視線と意識が交錯した瞬間、ヘルハルトもまた同じように叫んだ。
「デュラァァンッ!」
ヘルハルトも同じ気持ちだった。
が、ヘルハルトはさらに別の思いを上乗せしていた。
これは本来ありえない戦いなのだ、と。
正しき道に導かれた自分はお前と戦おうなどとは思いもしない。
邪悪な自分も同様。卑屈な自分は強いお前を恐れて戦おうとはしない。
その二つの心を同時に抱いているからこそ、このありえない戦いが成立したのだ。
卑屈さから生まれる恐怖を、自信から生まれる勇気で相殺できるからだ。
そして力強く芽生えるのだ! どちらが後継者としてふさわしかったのかを確かめたいという、純粋な闘争心が!
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