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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む
第二十五話 愛を讃えよ(39)
しおりを挟むクトゥグアの興奮は頂点に達しかけていたが、ナイアラの心は対照的に冷めていた。
だからナイアラはクトゥグアを祝福せず、淡々と起きていることを評価した。
(確かに、結束力は強いし連携も良い。だが――)
冷めたナイアラの心の評価は冷たいほどに冷静であった。
(その領域に至るまでに手間がかかりすぎている。劣勢を演じた上で自己犠牲を重ねなければならない)
この手間をどれだけ削れるかが課題だろう。
そして最後に、ナイアラはクトゥグアに聞こえないように点数をつけた。
(……今のままでは良くて六十点といったところだろう)
以上でナイアラの評価は終わった。
だからナイアラはヘルハルトに意識を向けた。
クトゥグアが描いた図面にはまだ続きがあるからだ。
それには条件があり、その鍵となるのがヘルハルトとデュラン。
勝利に必要なものでは無い。今のままでも勝つことは十分に可能だろう。
この戦いを実験として考えたとしても、既に成功と言える。ゆえにクトゥグアは満足して興奮している。
(だが、)
興味が無いと言えば嘘になる。その気持ちをナイアラは隠さずに響かせた。
しかしその興味の方向性はクトゥグアとは違っていた。
(もしも、)
もしも人間達がヘルハルトの境遇を知ったうえで、今のヘルハルトを見たらどう思うのだろうか、ナイアラの興味はそこにあった。
共感するのだろうか。同情したりするのだろうか。うらやましいと思う、なんてこともあるだろうか。
(いや、)
うらやましがることはありえないか、と、ナイアラは思い直した。
なぜなら、ヘルハルトにハッピーエンドはありえないからだ。
たとえ勝利を手にしたとしても、しばらくすれば我々にとって都合の良い人格に変化してしまうように作られているからだ。
だからナイアラは、
(哀れだな、ヘルハルト)
などと、人類を代表したつもりで同情の念を送った。
◆◆◆
シャロンとキーラが全力を出した直後から、戦いの様相はまた変わった。
動きが速く、激しくなった。
自己犠牲の特攻を振り切る勢いで、縦横無尽に駆けまわる。
特攻を散らしながら隙間を見つけ、爆発魔法を放つ。
この攻撃に対し、ヘルハルトは緊張の念を響かせた。
“(一発でも直撃すれば終わる……!)”
ヘルハルトは誰にも聞こえないように思ったつもりだったのだが、その思念は大きく漏れ響いていた。
放たれている爆発魔法すべてが、爆発力が一点に収束する赤い槍の魔法弾。
それはこれまでもそうだったのだが、その緊張感はより増していた。
二人が大きく動き回っているゆえに、四方八方から攻撃が放たれるからだ。
回避は困難。炸裂する前に衝撃をぶつけて弾の形を歪ませるしか無い。
特攻や人身御供の壁は機能しなくなってきている。
ゆえに八本の腕をもってしても厳しい。
が、瞬間、
“……!?”
ヘルハルトは違和感を抱いた。
自分が愚かなことをしているような感覚。
弾に弾をぶつけるという防御方法が、あまりに非効率に感じられたのだ。
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