494 / 545
最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む
第二十五話 愛を讃えよ(28)
しおりを挟む
そして直後に響いた炸裂音はまさしく雷竜の咆哮だった。
空間を引き裂いたような音。
空気が震え、木々が揺れるその咆哮によってアゼルフスは粉々になった。デュランにはその結果しか見えなかった。
雷竜はアゼルフスに食らいついた後、体内にもぐりこみ、弾けるように魔力を放出したのだ。
ほとばしる魔力によってアゼルフスの体は中から砕け散った。
さらに暴走する魔力はアゼルフスの体を食い破っただけでは満足せず、白い稲妻の群れとなって四方に散り、周囲のものを手当たり次第に襲った。
枝葉が弾け折れ、アゼルフスのもとに集まってきていた炎の戦士達を吹き飛ばす。
炎の戦士達はすぐに態勢を立て直し、デュランに向かって突撃しようとした。
が、その歩みは直後に響いた銃声の嵐によって押し返された。
味方が集まってきている。
既に援護を受けられる距離。
安全、その二文字を感じたデュランは、
「サイラス!」
膝をついてうずくまるサイラスに駆け寄った。
デュランにはもう一つ見えていた。
宝石剣から竜が放たれた瞬間、サイラスの体に細く白い稲妻が何本も走っていたことを。
あれでは絶対に無事では済まないはず。
その思いは的中していた。
うずくまっているサイラスの体はボロボロであった。
まるで全身に強烈な光弾の連打を浴びたかのよう。
だからデュランは肩を貸そうとしたが、
「問題無い、一人で立てる……っ!」
サイラスは明らかにやせ我慢の顔で立ち上がり始めた。
ゆえにデュランはその言葉を無視し、強引に肩を貸した。
銃撃は絶えず響き続けている。
これならば味方に任せて後退しても大丈夫だろう、デュランがそう思った瞬間、
“待て、デュラン”
響いたアゼルフスの声に、デュランとサイラスは思わず振り返った。
油断せずに戦闘態勢を取る。
しかしその必要は無いように思えた。
声がしなければそれがアゼルフスだとはわからないほどの有様だったからだ。
アゼルフスは生首になっていた。
残った顔面も割れて半分しかない。
その半分の顔は骸骨のようで、薄赤く火花を散らしていた。
まるで火葬したばかりの頭蓋骨。
それが中空に浮いたまま、再び言葉を響かせた。
“思い出した……思い出したぞ、すべて……久しいな、デュラン”
その言葉に、デュランは思わず口を開いた。
「俺のことがわかるのか!?」
その問いにアゼルフスは再び思念を響かせた。
“強くなったな……嬉しいぞ……良き仲間にも恵まれているようだな”
その言葉を聞いても、デュランは警戒を解かなかった。
しかしアゼルフスは淡々と言葉を響かせ続けた。
“薄々気づいてはいた。この命は作り物なのだろうと……しかしそれでも良かった。偽りでも美しく、そして望むものが与えられるのならばと……”
気づける理由は簡単に察しがついた。
持っている技術と記憶が噛み合わないからだ。デュランの記憶にある族長は炎の技など一度も使っていない。
戦士は一日にして成らず。技も同様だ。研鑽と積み重ねによって習得する。その過程を思い出せないなどありえない。
だからアゼルフスは気づいていた。
しかし、いや、ならばこそか、アゼルフスは妙だと思っていた。
その疑問をアゼルフスは響かせた。
“だが、我に生を与えた何者かは、記憶を改ざんした上で、なぜか元の記憶を消さずに残していた。だから気を付けよ、デュラン。この戦いには何か大きな仕掛けがあるぞ”
その言葉に、デュランは頷きを返した。
そしてアゼルフスは力尽きかけているのか、火の粉が散らなくなり、赤みも消えていた。
だからデュランはサイラスに肩を貸し直し、背を向けようとした。
が、瞬間、
“待てデュラン、お前に渡すものがある”
アゼルフスは背を向け始めたデュランをそう言って呼び止めた。
罠かもしれない、そう思うのは当然のこと。
だが、デュランは今のアゼルフスを信じた。
近寄り、右手を差し出す。
その手の平に向かってアゼルフスは細い触手を髪の毛のように伸ばし、接続した。
すると、声と共にそれは流れ込んできた。
“これはお前に教えるつもりだった、部族に代々伝わる技だ。今のお前ならば我よりも上手く使えるだろう”
伝承は数秒で終わった。
そしてアゼルフスは最後の力を振り絞ったらしく、霧のように崩れて散り始めた。
その短い最後の時に、アゼルフスは最期の言葉を残した。
“最期の最後に、本当の自分を取り戻せて良かった……たくましく育ったお前とこうしてハナセタノダカ――”
アゼルフスの最期の言葉は崩れる頭蓋と同じく、霧のように散って消えた。
だが、デュランの心には焼け付くように残っていた。
伝えられた技と共に刻み込まれていた。
空間を引き裂いたような音。
空気が震え、木々が揺れるその咆哮によってアゼルフスは粉々になった。デュランにはその結果しか見えなかった。
雷竜はアゼルフスに食らいついた後、体内にもぐりこみ、弾けるように魔力を放出したのだ。
ほとばしる魔力によってアゼルフスの体は中から砕け散った。
さらに暴走する魔力はアゼルフスの体を食い破っただけでは満足せず、白い稲妻の群れとなって四方に散り、周囲のものを手当たり次第に襲った。
枝葉が弾け折れ、アゼルフスのもとに集まってきていた炎の戦士達を吹き飛ばす。
炎の戦士達はすぐに態勢を立て直し、デュランに向かって突撃しようとした。
が、その歩みは直後に響いた銃声の嵐によって押し返された。
味方が集まってきている。
既に援護を受けられる距離。
安全、その二文字を感じたデュランは、
「サイラス!」
膝をついてうずくまるサイラスに駆け寄った。
デュランにはもう一つ見えていた。
宝石剣から竜が放たれた瞬間、サイラスの体に細く白い稲妻が何本も走っていたことを。
あれでは絶対に無事では済まないはず。
その思いは的中していた。
うずくまっているサイラスの体はボロボロであった。
まるで全身に強烈な光弾の連打を浴びたかのよう。
だからデュランは肩を貸そうとしたが、
「問題無い、一人で立てる……っ!」
サイラスは明らかにやせ我慢の顔で立ち上がり始めた。
ゆえにデュランはその言葉を無視し、強引に肩を貸した。
銃撃は絶えず響き続けている。
これならば味方に任せて後退しても大丈夫だろう、デュランがそう思った瞬間、
“待て、デュラン”
響いたアゼルフスの声に、デュランとサイラスは思わず振り返った。
油断せずに戦闘態勢を取る。
しかしその必要は無いように思えた。
声がしなければそれがアゼルフスだとはわからないほどの有様だったからだ。
アゼルフスは生首になっていた。
残った顔面も割れて半分しかない。
その半分の顔は骸骨のようで、薄赤く火花を散らしていた。
まるで火葬したばかりの頭蓋骨。
それが中空に浮いたまま、再び言葉を響かせた。
“思い出した……思い出したぞ、すべて……久しいな、デュラン”
その言葉に、デュランは思わず口を開いた。
「俺のことがわかるのか!?」
その問いにアゼルフスは再び思念を響かせた。
“強くなったな……嬉しいぞ……良き仲間にも恵まれているようだな”
その言葉を聞いても、デュランは警戒を解かなかった。
しかしアゼルフスは淡々と言葉を響かせ続けた。
“薄々気づいてはいた。この命は作り物なのだろうと……しかしそれでも良かった。偽りでも美しく、そして望むものが与えられるのならばと……”
気づける理由は簡単に察しがついた。
持っている技術と記憶が噛み合わないからだ。デュランの記憶にある族長は炎の技など一度も使っていない。
戦士は一日にして成らず。技も同様だ。研鑽と積み重ねによって習得する。その過程を思い出せないなどありえない。
だからアゼルフスは気づいていた。
しかし、いや、ならばこそか、アゼルフスは妙だと思っていた。
その疑問をアゼルフスは響かせた。
“だが、我に生を与えた何者かは、記憶を改ざんした上で、なぜか元の記憶を消さずに残していた。だから気を付けよ、デュラン。この戦いには何か大きな仕掛けがあるぞ”
その言葉に、デュランは頷きを返した。
そしてアゼルフスは力尽きかけているのか、火の粉が散らなくなり、赤みも消えていた。
だからデュランはサイラスに肩を貸し直し、背を向けようとした。
が、瞬間、
“待てデュラン、お前に渡すものがある”
アゼルフスは背を向け始めたデュランをそう言って呼び止めた。
罠かもしれない、そう思うのは当然のこと。
だが、デュランは今のアゼルフスを信じた。
近寄り、右手を差し出す。
その手の平に向かってアゼルフスは細い触手を髪の毛のように伸ばし、接続した。
すると、声と共にそれは流れ込んできた。
“これはお前に教えるつもりだった、部族に代々伝わる技だ。今のお前ならば我よりも上手く使えるだろう”
伝承は数秒で終わった。
そしてアゼルフスは最後の力を振り絞ったらしく、霧のように崩れて散り始めた。
その短い最後の時に、アゼルフスは最期の言葉を残した。
“最期の最後に、本当の自分を取り戻せて良かった……たくましく育ったお前とこうしてハナセタノダカ――”
アゼルフスの最期の言葉は崩れる頭蓋と同じく、霧のように散って消えた。
だが、デュランの心には焼け付くように残っていた。
伝えられた技と共に刻み込まれていた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~
樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。
無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。
そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。
そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。
色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。
※この作品はカクヨム様でも掲載しています。
救世主パーティーを追放された愛弟子とともにはじめる辺境スローライフ
鈴木竜一
ファンタジー
「おまえを今日限りでパーティーから追放する」
魔族から世界を救う目的で集められた救世主パーティー【ヴェガリス】のリーダー・アルゴがそう言い放った相手は主力メンバー・デレクの愛弟子である見習い女剣士のミレインだった。
表向きは実力不足と言いながら、真の追放理由はしつこく言い寄っていたミレインにこっぴどく振られたからというしょうもないもの。
真相を知ったデレクはとても納得できるものじゃないと憤慨し、あとを追うようにパーティーを抜けると彼女を連れて故郷の田舎町へと戻った。
その後、農業をやりながら冒険者パーティーを結成。
趣味程度にのんびりやろうとしていたが、やがて彼らは新しい仲間とともに【真の救世主】として世界にその名を轟かせていくことになる。
一方、【ヴェガリス】ではアルゴが嫉妬に狂い始めていて……
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)
愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。
ってことは……大型トラックだよね。
21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。
勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。
追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
SFサイドメニュー
アポロ
SF
短編SF。かわいくて憎たらしい近未来の物語。
★
少年アンバー・ハルカドットオムは宇宙船飛車八号の船内コロニーに生まれました。その正体は超高度な人工知能を搭載された船の意思により生み出されたスーパーアンドロイドです。我々人類はユートピアを期待しています。彼の影響を認めれば新しい世界を切り開けるかもしれない。認めなければディストピアへ辿り着いてしまうかもしれない。アンバーは、人間の子どもになる夢を見ているそうです。そう思っててもいい?
★
完結後は2024年のnote創作大賞へ。
そのつもりになって見直し出したところいきなり頭を抱えました。
気配はあるプロト版だけれど不完全要素がやや多すぎると猛省中です。
直すとしても手の入れ方に悩む部分多々。
新版は大幅な改変になりそう。
あのヒマワリの境界で、君と交わした「契約(ゆびきり)」はまだ有効ですか?
朝我桜(あさがおー)
ファンタジー
※小説家になろうから移設中!
赤き血の眷属『紅血人(フェルベ)』と青き血の眷属『蒼血人(サキュロス)』の間の100年にも及ぶ戦争。
だけどそんな長きにわたる戦争も終わった今日。
俺は国境付近で青い髪の少女アセナと出会った。
さかのぼること二年前、晴れて【霊象獣(クレプタン)】から人々を守る【守護契約士】なった俺ことアンシェル。
だけどある時、自分のミスで大先輩に大けがを負わせてしまったんだ。
周囲の人々は気に病むなと言ってくれたけど、俺はいたたまれない日々を過ごしていた。
でもそんなとき出会ったのが、そう……アセナだったんだ。
敵国のスパイに追われていたので一時保護しようとしたんだけど、どういうわけか渋り始め、事情を聞かないことを条件に俺は二人は護衛契約を結んだ。
まぁ……確かに惚れた腫れたの話じゃないといったらウソになる。
ただの色恋沙汰だったら、どんなに良かったことか。
案の定、彼女には秘密があって……。(全48話)
チート転生~チートって本当にあるものですね~
水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!!
そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。
亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる