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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

第二十五話 愛を讃えよ(28)

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 そして直後に響いた炸裂音はまさしく雷竜の咆哮だった。
 空間を引き裂いたような音。
 空気が震え、木々が揺れるその咆哮によってアゼルフスは粉々になった。デュランにはその結果しか見えなかった。
 雷竜はアゼルフスに食らいついた後、体内にもぐりこみ、弾けるように魔力を放出したのだ。
 ほとばしる魔力によってアゼルフスの体は中から砕け散った。
 さらに暴走する魔力はアゼルフスの体を食い破っただけでは満足せず、白い稲妻の群れとなって四方に散り、周囲のものを手当たり次第に襲った。
 枝葉が弾け折れ、アゼルフスのもとに集まってきていた炎の戦士達を吹き飛ばす。
 炎の戦士達はすぐに態勢を立て直し、デュランに向かって突撃しようとした。
 が、その歩みは直後に響いた銃声の嵐によって押し返された。
 味方が集まってきている。
 既に援護を受けられる距離。
 安全、その二文字を感じたデュランは、

「サイラス!」

 膝をついてうずくまるサイラスに駆け寄った。
 デュランにはもう一つ見えていた。
 宝石剣から竜が放たれた瞬間、サイラスの体に細く白い稲妻が何本も走っていたことを。
 あれでは絶対に無事では済まないはず。
 その思いは的中していた。
 うずくまっているサイラスの体はボロボロであった。
 まるで全身に強烈な光弾の連打を浴びたかのよう。
 だからデュランは肩を貸そうとしたが、

「問題無い、一人で立てる……っ!」

 サイラスは明らかにやせ我慢の顔で立ち上がり始めた。
 ゆえにデュランはその言葉を無視し、強引に肩を貸した。
 銃撃は絶えず響き続けている。
 これならば味方に任せて後退しても大丈夫だろう、デュランがそう思った瞬間、

“待て、デュラン”

 響いたアゼルフスの声に、デュランとサイラスは思わず振り返った。
 油断せずに戦闘態勢を取る。
 しかしその必要は無いように思えた。
 声がしなければそれがアゼルフスだとはわからないほどの有様だったからだ。
 アゼルフスは生首になっていた。
 残った顔面も割れて半分しかない。
 その半分の顔は骸骨のようで、薄赤く火花を散らしていた。
 まるで火葬したばかりの頭蓋骨。
 それが中空に浮いたまま、再び言葉を響かせた。

“思い出した……思い出したぞ、すべて……久しいな、デュラン”

 その言葉に、デュランは思わず口を開いた。

「俺のことがわかるのか!?」

 その問いにアゼルフスは再び思念を響かせた。

“強くなったな……嬉しいぞ……良き仲間にも恵まれているようだな”

 その言葉を聞いても、デュランは警戒を解かなかった。
 しかしアゼルフスは淡々と言葉を響かせ続けた。

“薄々気づいてはいた。この命は作り物なのだろうと……しかしそれでも良かった。偽りでも美しく、そして望むものが与えられるのならばと……”

 気づける理由は簡単に察しがついた。
 持っている技術と記憶が噛み合わないからだ。デュランの記憶にある族長は炎の技など一度も使っていない。
 戦士は一日にして成らず。技も同様だ。研鑽と積み重ねによって習得する。その過程を思い出せないなどありえない。
 だからアゼルフスは気づいていた。
 しかし、いや、ならばこそか、アゼルフスは妙だと思っていた。
 その疑問をアゼルフスは響かせた。

“だが、我に生を与えた何者かは、記憶を改ざんした上で、なぜか元の記憶を消さずに残していた。だから気を付けよ、デュラン。この戦いには何か大きな仕掛けがあるぞ”

 その言葉に、デュランは頷きを返した。
 そしてアゼルフスは力尽きかけているのか、火の粉が散らなくなり、赤みも消えていた。
 だからデュランはサイラスに肩を貸し直し、背を向けようとした。
 が、瞬間、

“待てデュラン、お前に渡すものがある”

 アゼルフスは背を向け始めたデュランをそう言って呼び止めた。
 罠かもしれない、そう思うのは当然のこと。
 だが、デュランは今のアゼルフスを信じた。
 近寄り、右手を差し出す。
 その手の平に向かってアゼルフスは細い触手を髪の毛のように伸ばし、接続した。
 すると、声と共にそれは流れ込んできた。

“これはお前に教えるつもりだった、部族に代々伝わる技だ。今のお前ならば我よりも上手く使えるだろう”

 伝承は数秒で終わった。
 そしてアゼルフスは最後の力を振り絞ったらしく、霧のように崩れて散り始めた。
 その短い最後の時に、アゼルフスは最期の言葉を残した。

“最期の最後に、本当の自分を取り戻せて良かった……たくましく育ったお前とこうしてハナセタノダカ――”

 アゼルフスの最期の言葉は崩れる頭蓋と同じく、霧のように散って消えた。
 だが、デュランの心には焼け付くように残っていた。
 伝えられた技と共に刻み込まれていた。
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