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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む
第二十五話 愛を讃えよ(27)
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異形のぶどうの実が、まるでガラスのように粉々に砕け散る。
そして産まれ放たれたもの、それは意思を持つ吹雪であった。
吹きすさび、荒れ狂いながらサイラスとデュランに迫る。
その激しさと規模と比べると、デュランの用意したドラゴンは小さく見えた。
二人を羽で包み守るだけで精一杯の大きさ。
成す術無く飲み込まれて終わり、傍目にはそうとしか見えない。
が、サイラスとデュランはその白い暴力に自ら飛び込んだ。
二人を包み守るドラゴンの羽が吹雪にあおられ、悲鳴のような軋みを上げる。
魔力を含んだ銀色の風と、羽が内包する魔力がぶつかり合っている。
視界は銀一色。何も見えない。
そして間も無く、デュランから教えられた通りの感覚にサイラスは襲われた。
方向感覚が失われていく。
まるで吹雪の雪山で遭難したかのように。
そして死への絶望感と恐怖と共に、誰かの記憶が流れ込んでくる。
それは遭難者の記憶のようであった。
一人では無い。数多くの遭難と死の記憶が勝手に流れ込んでくる。
ゆえに混乱する。
さらにそれだけでは無かった。
“――ッ!”
声無き気勢と共に、吹雪の中から幽霊のような戦士が襲い掛かってくる。
これを、サイラスは宝石剣で、デュランは大剣でなぎ払いながら足を進めた。
二人とも既に方向感覚は失われていた。
かろうじて、戦意だけはドラゴンの加護によって守られている。
しかしそれで十分であった。
方向がわからなくても問題は無かった。
なぜなら、見えているからだ。感じ取れているからだ。
アゼルフスの姿をはっきりと認識できているからだ。
濃すぎるほどに赤く、鮮やかなほどに紅く、見えている。
アゼルフス自身が灯台となって進むべき方向を示してくれている。
だから迷わない。惑わない。
これがサイラスがデュランに追加させた機能。熱源探知。
真っすぐに、戦士の亡霊を蹴散らしながら吹雪の中を突き進む。
その迷いの無い走りに、察したアゼルフスは周囲にデコイとなる炎の戦士達を呼び集め始めた。
だが既に手遅れ。
それをサイラスは叫んだ。
「無駄だ!」
そして次の瞬間、デュランの声が響いた。
本当にやるのか、と。
いや、響いたというよりは漏れたという感じであった。
ゆえにサイラスは無言の肯定を返し、構えた。
水平な剣を腰だめに構えた、突進突きの姿勢。
その構えと同時にサイラスのムカデは前へ飛び出し、デュランはドラゴンに指示を出した。
ムカデが前方に大人が通れるほどの輪を作り始め、ドラゴンがサイラスに覆いかぶさる。
ドラゴンは液体のようになってサイラスの体に纏わりついた。
魔力を含んでいるため、銀色の服を着ているように見える。
そしてムカデが作った輪は一つだけでは無かった。
三つ、四つと、アゼルフスへ導くように、次々と作られていく。
ムカデも吹雪による攻撃を受けるが、必要な強度は計算済み。
だからサイラスは慎重に狙いを定めた。
次の動作が最も精度を要求されるからだ。
高速演算を最大にし、剣の切っ先をアゼルフスに合わせる。
そしてあと一歩で第一の輪というところで、サイラスは剣を突き出した。
その動作と同時にドラゴンも動いた。
液状化して体に纏わりついているドラゴンが吸い込まれるように、いや、剣に吸い上げられるように握り手から剣先へと昇っていく。
そして間も無く剣先からあふれ出した。
すると直後、液体は思い出したかのように、頭部だけ形状を戻した。
首を伸ばすように、輝くドラゴンの頭部が剣先から伸びていく。
そしてドラゴンの頭部は第一の輪をくぐった。
先の攻撃でサイラスは感じ取っていた。だからある確信があった。
輪を白い稲妻がくぐる瞬間、輪に含まれている魔力と稲妻が引き合ったのを。
それだけでは無かった。
稲妻が輪に吸い込まれるような力が働いていたのを、サイラスは感じ取っていた。
ならば、拡散させずに連続で輪をくぐらせればどうなる?
魔力を精霊の内部に包んでおけば、ある程度までは拡散させずに維持できるはず。
その期待は直後に現実のものとなった。
輪の全身から魔力が細い稲妻のような形で放出され、ドラゴンの頭部に吸い込まれていく。
魔力を吸い込みながら加速し、二つ三つと輪をくぐりぬけていく。
輪を一つくぐるたびにドラゴンの頭部は膨張し、その顔面と首は激しく振動し始めた。
首に次々と裂け目が生じ、そこから稲妻のような魔力が漏れ出していく。
バチバチと、放電するように魔力を走らせながら最後の輪をくぐる。
その最後の輪によって、ドラゴンは限界を迎えた。
頭部がねじれ、引き裂かれるように破れ始める。
だが問題は無かった。
アゼルフスはもう目の前だった。
アゼルフスはサイラスが剣を突き出した瞬間から回避行動に入っていた。
だが意味は無かった。
首長竜は稲妻のように速かった。
ゆえに、高速演算を使っているデュランの目をもってしても、その姿形をブレずに捉えられたのはアゼルフスに食らいつく直前であった。
既に形は崩れていたが、その見た目はまだドラゴンであった。
引き裂けるほどに大きく開いた口でアゼルフスに噛みつこうとしている、そう見えた。
だからデュランは高速演算の片隅で思った。
おとぎ話に出てくる雷の竜というのは、きっとこういうものなのだろうと。
そして産まれ放たれたもの、それは意思を持つ吹雪であった。
吹きすさび、荒れ狂いながらサイラスとデュランに迫る。
その激しさと規模と比べると、デュランの用意したドラゴンは小さく見えた。
二人を羽で包み守るだけで精一杯の大きさ。
成す術無く飲み込まれて終わり、傍目にはそうとしか見えない。
が、サイラスとデュランはその白い暴力に自ら飛び込んだ。
二人を包み守るドラゴンの羽が吹雪にあおられ、悲鳴のような軋みを上げる。
魔力を含んだ銀色の風と、羽が内包する魔力がぶつかり合っている。
視界は銀一色。何も見えない。
そして間も無く、デュランから教えられた通りの感覚にサイラスは襲われた。
方向感覚が失われていく。
まるで吹雪の雪山で遭難したかのように。
そして死への絶望感と恐怖と共に、誰かの記憶が流れ込んでくる。
それは遭難者の記憶のようであった。
一人では無い。数多くの遭難と死の記憶が勝手に流れ込んでくる。
ゆえに混乱する。
さらにそれだけでは無かった。
“――ッ!”
声無き気勢と共に、吹雪の中から幽霊のような戦士が襲い掛かってくる。
これを、サイラスは宝石剣で、デュランは大剣でなぎ払いながら足を進めた。
二人とも既に方向感覚は失われていた。
かろうじて、戦意だけはドラゴンの加護によって守られている。
しかしそれで十分であった。
方向がわからなくても問題は無かった。
なぜなら、見えているからだ。感じ取れているからだ。
アゼルフスの姿をはっきりと認識できているからだ。
濃すぎるほどに赤く、鮮やかなほどに紅く、見えている。
アゼルフス自身が灯台となって進むべき方向を示してくれている。
だから迷わない。惑わない。
これがサイラスがデュランに追加させた機能。熱源探知。
真っすぐに、戦士の亡霊を蹴散らしながら吹雪の中を突き進む。
その迷いの無い走りに、察したアゼルフスは周囲にデコイとなる炎の戦士達を呼び集め始めた。
だが既に手遅れ。
それをサイラスは叫んだ。
「無駄だ!」
そして次の瞬間、デュランの声が響いた。
本当にやるのか、と。
いや、響いたというよりは漏れたという感じであった。
ゆえにサイラスは無言の肯定を返し、構えた。
水平な剣を腰だめに構えた、突進突きの姿勢。
その構えと同時にサイラスのムカデは前へ飛び出し、デュランはドラゴンに指示を出した。
ムカデが前方に大人が通れるほどの輪を作り始め、ドラゴンがサイラスに覆いかぶさる。
ドラゴンは液体のようになってサイラスの体に纏わりついた。
魔力を含んでいるため、銀色の服を着ているように見える。
そしてムカデが作った輪は一つだけでは無かった。
三つ、四つと、アゼルフスへ導くように、次々と作られていく。
ムカデも吹雪による攻撃を受けるが、必要な強度は計算済み。
だからサイラスは慎重に狙いを定めた。
次の動作が最も精度を要求されるからだ。
高速演算を最大にし、剣の切っ先をアゼルフスに合わせる。
そしてあと一歩で第一の輪というところで、サイラスは剣を突き出した。
その動作と同時にドラゴンも動いた。
液状化して体に纏わりついているドラゴンが吸い込まれるように、いや、剣に吸い上げられるように握り手から剣先へと昇っていく。
そして間も無く剣先からあふれ出した。
すると直後、液体は思い出したかのように、頭部だけ形状を戻した。
首を伸ばすように、輝くドラゴンの頭部が剣先から伸びていく。
そしてドラゴンの頭部は第一の輪をくぐった。
先の攻撃でサイラスは感じ取っていた。だからある確信があった。
輪を白い稲妻がくぐる瞬間、輪に含まれている魔力と稲妻が引き合ったのを。
それだけでは無かった。
稲妻が輪に吸い込まれるような力が働いていたのを、サイラスは感じ取っていた。
ならば、拡散させずに連続で輪をくぐらせればどうなる?
魔力を精霊の内部に包んでおけば、ある程度までは拡散させずに維持できるはず。
その期待は直後に現実のものとなった。
輪の全身から魔力が細い稲妻のような形で放出され、ドラゴンの頭部に吸い込まれていく。
魔力を吸い込みながら加速し、二つ三つと輪をくぐりぬけていく。
輪を一つくぐるたびにドラゴンの頭部は膨張し、その顔面と首は激しく振動し始めた。
首に次々と裂け目が生じ、そこから稲妻のような魔力が漏れ出していく。
バチバチと、放電するように魔力を走らせながら最後の輪をくぐる。
その最後の輪によって、ドラゴンは限界を迎えた。
頭部がねじれ、引き裂かれるように破れ始める。
だが問題は無かった。
アゼルフスはもう目の前だった。
アゼルフスはサイラスが剣を突き出した瞬間から回避行動に入っていた。
だが意味は無かった。
首長竜は稲妻のように速かった。
ゆえに、高速演算を使っているデュランの目をもってしても、その姿形をブレずに捉えられたのはアゼルフスに食らいつく直前であった。
既に形は崩れていたが、その見た目はまだドラゴンであった。
引き裂けるほどに大きく開いた口でアゼルフスに噛みつこうとしている、そう見えた。
だからデュランは高速演算の片隅で思った。
おとぎ話に出てくる雷の竜というのは、きっとこういうものなのだろうと。
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