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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む
第二十五話 愛を讃えよ(23)
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左右だけで無く、前からも炎の戦士が迫っている。
すれ違う、などという甘い考えが通らないことは明らか。
さらに時間の余裕も無い。
少しでも足を止めれば四方から捕まる。
ゆえにデュランは火傷を覚悟していた。
しかしサイラスは違った。
高速演算を最大にしてこの場を無傷で切り抜ける手を考えていた。
だが、その思考はすべて、
(この剣が言う事を聞いてくれさえすれば……!)
不安定だから難しい、という答えに帰結してしまっていた。
ムカデが暴れるせいで至近距離でなければ命中率が安定しない。
この場面で欲しいのは命中率の高い範囲攻撃。そう例えば――
「!」
瞬間、サイラスは自分の意識が冷たく尖ったように感じ取った。
例として浮かんだ攻撃は、アゼルフスが最初に見せた炎のマントであった。その技にサイラスの意識は強く惹かれた。
なぜ? それはすぐにわかった。
自分の今のムカデと共通点があるからだ。
思い返してみれば、あのマントも不安定だった。風も無いのに激しく波打っていた。
当たり前だ。あれだけの熱量を内包していたのだから。
しかし奴はマントという広い形にして振り回すことで、その欠点をごまかしていた。
だが、自分には同じことはできない。あんな大きなものを高速で展開するほどの精霊の手持ちが無い。
されどそれは今は重要じゃ無い。重要なのは別の部分。
それは炎ゆえに有する特徴。
どこに触れても攻撃が成立する、だ。
自爆しない形でそれを実現すればいい!
そのひらめきのイメージはすぐに形になった。
問題は間に合うのかということ。
だが、サイラスは興奮のままにそれを実行した。
これは絶対に強いという確信があったからだ。
宝石剣への魔力の注入を一時的に中断し、刀身に巻き付いているムカデを変形させる。
材料をまかなうために、体に巻き付けているムカデを使う。
そして始まった変形は、サイラスの興奮とは対照的なほどにおぞましい変化であった。
ムカデの胴体の部分すべてが、頭部に置き換わっていく。
横向きの頭部が数珠つなぎで並んでいく。
それが完成すると同時にサイラスはデュランに向かって叫んだ。
「伏せろ!」
直後にサイラスは完成した異形のムカデを一閃した。
型は回転斬り。
デュランの頭上すれすれを宝石剣の刃が通り抜けていく。
回転の動きと共に異形は垂れ流されていった。
宝石剣が一回転すると同時に、先端と末端が繋がった異形の輪が完成する。
この時、敵はもう眼前。
あと一歩、飛び込むだけで体当たりが成立する距離。
その距離感で包囲されている。
だが問題無い。間に合った。
サイラスはその確信と共に、宝石剣に魔力を流し込んだ。
剣の先端部分から伸びている線を通り、異形の輪に魔力が満たされて波打ち始める。。
そして白く染まり輝くと共に、並んでいる頭部は一斉にその口を開いた。
白い稲妻が口からあふれ出し、飛び掛かってきた炎の戦士達を押し返す。
「……っ!」
その光景に、デュランは息を呑んでいた。
最初にあったのは不安からくる恐怖だった。
しかし今は違った。違う感情に塗りつぶされていた。
それは芸術的ですらあった。
まるで、雷が輪の形で広がっていくようであったからだ。
すれ違う、などという甘い考えが通らないことは明らか。
さらに時間の余裕も無い。
少しでも足を止めれば四方から捕まる。
ゆえにデュランは火傷を覚悟していた。
しかしサイラスは違った。
高速演算を最大にしてこの場を無傷で切り抜ける手を考えていた。
だが、その思考はすべて、
(この剣が言う事を聞いてくれさえすれば……!)
不安定だから難しい、という答えに帰結してしまっていた。
ムカデが暴れるせいで至近距離でなければ命中率が安定しない。
この場面で欲しいのは命中率の高い範囲攻撃。そう例えば――
「!」
瞬間、サイラスは自分の意識が冷たく尖ったように感じ取った。
例として浮かんだ攻撃は、アゼルフスが最初に見せた炎のマントであった。その技にサイラスの意識は強く惹かれた。
なぜ? それはすぐにわかった。
自分の今のムカデと共通点があるからだ。
思い返してみれば、あのマントも不安定だった。風も無いのに激しく波打っていた。
当たり前だ。あれだけの熱量を内包していたのだから。
しかし奴はマントという広い形にして振り回すことで、その欠点をごまかしていた。
だが、自分には同じことはできない。あんな大きなものを高速で展開するほどの精霊の手持ちが無い。
されどそれは今は重要じゃ無い。重要なのは別の部分。
それは炎ゆえに有する特徴。
どこに触れても攻撃が成立する、だ。
自爆しない形でそれを実現すればいい!
そのひらめきのイメージはすぐに形になった。
問題は間に合うのかということ。
だが、サイラスは興奮のままにそれを実行した。
これは絶対に強いという確信があったからだ。
宝石剣への魔力の注入を一時的に中断し、刀身に巻き付いているムカデを変形させる。
材料をまかなうために、体に巻き付けているムカデを使う。
そして始まった変形は、サイラスの興奮とは対照的なほどにおぞましい変化であった。
ムカデの胴体の部分すべてが、頭部に置き換わっていく。
横向きの頭部が数珠つなぎで並んでいく。
それが完成すると同時にサイラスはデュランに向かって叫んだ。
「伏せろ!」
直後にサイラスは完成した異形のムカデを一閃した。
型は回転斬り。
デュランの頭上すれすれを宝石剣の刃が通り抜けていく。
回転の動きと共に異形は垂れ流されていった。
宝石剣が一回転すると同時に、先端と末端が繋がった異形の輪が完成する。
この時、敵はもう眼前。
あと一歩、飛び込むだけで体当たりが成立する距離。
その距離感で包囲されている。
だが問題無い。間に合った。
サイラスはその確信と共に、宝石剣に魔力を流し込んだ。
剣の先端部分から伸びている線を通り、異形の輪に魔力が満たされて波打ち始める。。
そして白く染まり輝くと共に、並んでいる頭部は一斉にその口を開いた。
白い稲妻が口からあふれ出し、飛び掛かってきた炎の戦士達を押し返す。
「……っ!」
その光景に、デュランは息を呑んでいた。
最初にあったのは不安からくる恐怖だった。
しかし今は違った。違う感情に塗りつぶされていた。
それは芸術的ですらあった。
まるで、雷が輪の形で広がっていくようであったからだ。
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