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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む
第二十五話 愛を讃えよ(7)
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意識をクトゥグアから外し、戦場に集中させる。
それを感じ取ったクトゥグアは気づかれぬように安堵した。
先のナイアラの予想が当たっていたからだ。
クトゥグアの本体と直属の眷属では、生物の脳を直接乗っ取ることは難しい。信号伝達に電子などを使っているという点は同じなので心を読むことはできるが、それ以上のことはできない。
この問題を解決するためにクトゥグアはある微生物を利用した。
その微生物にはクトゥグアでも干渉することができ、改造することができた。
しかしその微生物だけですべての問題が解決するわけでは無かった。
まず改造には限界があった。過度な手術には微生物は耐えられなかった。
だがその微生物は他の生物の体内で生活することができるという特徴があった。クトゥグアはこれを利用した。
ある改造をほどこした微生物を口から侵入させ、腸で繁殖させてから脳へ移動、そのようにして他の生き物を乗っ取らせたのだ。
乗っ取る対象は大型の魚。大食らいであるほどに魂の回収性能が増すからだ。
あとは世界中の海を回遊させ、海中火山の拠点で回収すればいい。
だが、この微生物を利用するやり方はバレてしまえば終わり。簡単に対策されてしまう。
だからクトゥグアはわざわざ思念を響かせてナイアラの思考を切ったのだ。
しかし今のやり方がいつまでも通用するとはクトゥグアは思っていない。
ゆえにクトゥグアは人間社会への早期進出を渇望していた。
だから人間のことを誰よりもよく知ろうとしている。
今回の作戦には、そんなクトゥグアがこれまでに獲得した知識が活かされていたる。
だが、ナイアラは納得していない。
信用もしていない。ゆえにナイアラの思考は双方の戦力の分析と比較に入っていた。
(こちらが展開している炎の戦士……これはおそらく、この戦場にいる精霊の中では間違い無く最強の存在だろう)
人間が使役する虫や精霊の攻撃は通じないだろう。さらに炎の戦士は他の精霊と同様に魔法にも強い。
(有効なのは重さを有する攻撃と爆発魔法、それか大神官並の高温の炎くらいだろう)
しかし炎の戦士は見ての通りの存在だ。剣で直接斬りかかりなどすれば大火傷を負わされる可能性が高い。
となると、まともに対峙できそうなのはシャロンとキーラ、そして――
(……)
ナイアラの思考にバークの姿が浮かんだが、それを言葉にして響かせることは無かった。
違う思考に意識が移ったからだ。
直後にナイアラはその新しい思考を響かせ始めた。
(……人類の進化は止まる気配を見せない。技術だけでなく肉体的にも成長を続けている、だが、バークと大神官、この二人は明らかに異常だ)
なにが異常か、ナイアラは言葉を選んでから響かせた。
(魂すら軽く焼いてしまうほどの炎の使い手など、これまで存在しなかった……強すぎる炎は己の身すら焼いてしまう。にもかかわらず、あの二人の体はあえて無謀な道を選び、そして実現させた)
そこまで考えた後、今度はアルフレッドの姿が浮かび上がった。
(あの二人の大工が優秀であることは間違い無い。だが、アザトースはアルフレッドのほうをより強く欲した……『アルフレッドのほうが近い』、あの時アザトースはそう言った)
自分が知らない重要な何かがある、それはやはり無視できるものでは無かった。
(何に近いのか、それは明らかにされなかった。……だが神の木への侵攻は、地上進出の第一歩としつつ、アルフレッドの肉体を無傷で手に入れるため、その二つのために実行された。アルフレッドが持つ『近しき何か』はそれほどに重要なものということ)
ゆえにナイアラはあえてアルフレッドを狙い、その体を一時的にだが奪った。
が、
(しかしアルフレッドの体を調べても、優秀であるということ以外は何もわからなかった。今の自分には判断するための知識や情報が決定的に足りていないということだろう)
そんなことを考えながら、ナイアラはアルフレッドの気配を探った。
アルフレッドはすぐに見つかった。
ナイアラはアルフレッドを見つめながら、思考を巡らせた。
(ヘルハルトにバレなければ手出してもいいとクトゥグアは言った。……ならば好機が巡ってくる可能性はあるな)
ナイアラはわざとクトゥグアに聞こえるように思念を響かせた。
(……)
しかしクトゥグアは文句を言う素振りも見せなかった。
別にかまわない、ということだろう。
ならば遠慮無く、と、ナイアラは期待感を込めながら、戦況に意識を集中させた。
それを感じ取ったクトゥグアは気づかれぬように安堵した。
先のナイアラの予想が当たっていたからだ。
クトゥグアの本体と直属の眷属では、生物の脳を直接乗っ取ることは難しい。信号伝達に電子などを使っているという点は同じなので心を読むことはできるが、それ以上のことはできない。
この問題を解決するためにクトゥグアはある微生物を利用した。
その微生物にはクトゥグアでも干渉することができ、改造することができた。
しかしその微生物だけですべての問題が解決するわけでは無かった。
まず改造には限界があった。過度な手術には微生物は耐えられなかった。
だがその微生物は他の生物の体内で生活することができるという特徴があった。クトゥグアはこれを利用した。
ある改造をほどこした微生物を口から侵入させ、腸で繁殖させてから脳へ移動、そのようにして他の生き物を乗っ取らせたのだ。
乗っ取る対象は大型の魚。大食らいであるほどに魂の回収性能が増すからだ。
あとは世界中の海を回遊させ、海中火山の拠点で回収すればいい。
だが、この微生物を利用するやり方はバレてしまえば終わり。簡単に対策されてしまう。
だからクトゥグアはわざわざ思念を響かせてナイアラの思考を切ったのだ。
しかし今のやり方がいつまでも通用するとはクトゥグアは思っていない。
ゆえにクトゥグアは人間社会への早期進出を渇望していた。
だから人間のことを誰よりもよく知ろうとしている。
今回の作戦には、そんなクトゥグアがこれまでに獲得した知識が活かされていたる。
だが、ナイアラは納得していない。
信用もしていない。ゆえにナイアラの思考は双方の戦力の分析と比較に入っていた。
(こちらが展開している炎の戦士……これはおそらく、この戦場にいる精霊の中では間違い無く最強の存在だろう)
人間が使役する虫や精霊の攻撃は通じないだろう。さらに炎の戦士は他の精霊と同様に魔法にも強い。
(有効なのは重さを有する攻撃と爆発魔法、それか大神官並の高温の炎くらいだろう)
しかし炎の戦士は見ての通りの存在だ。剣で直接斬りかかりなどすれば大火傷を負わされる可能性が高い。
となると、まともに対峙できそうなのはシャロンとキーラ、そして――
(……)
ナイアラの思考にバークの姿が浮かんだが、それを言葉にして響かせることは無かった。
違う思考に意識が移ったからだ。
直後にナイアラはその新しい思考を響かせ始めた。
(……人類の進化は止まる気配を見せない。技術だけでなく肉体的にも成長を続けている、だが、バークと大神官、この二人は明らかに異常だ)
なにが異常か、ナイアラは言葉を選んでから響かせた。
(魂すら軽く焼いてしまうほどの炎の使い手など、これまで存在しなかった……強すぎる炎は己の身すら焼いてしまう。にもかかわらず、あの二人の体はあえて無謀な道を選び、そして実現させた)
そこまで考えた後、今度はアルフレッドの姿が浮かび上がった。
(あの二人の大工が優秀であることは間違い無い。だが、アザトースはアルフレッドのほうをより強く欲した……『アルフレッドのほうが近い』、あの時アザトースはそう言った)
自分が知らない重要な何かがある、それはやはり無視できるものでは無かった。
(何に近いのか、それは明らかにされなかった。……だが神の木への侵攻は、地上進出の第一歩としつつ、アルフレッドの肉体を無傷で手に入れるため、その二つのために実行された。アルフレッドが持つ『近しき何か』はそれほどに重要なものということ)
ゆえにナイアラはあえてアルフレッドを狙い、その体を一時的にだが奪った。
が、
(しかしアルフレッドの体を調べても、優秀であるということ以外は何もわからなかった。今の自分には判断するための知識や情報が決定的に足りていないということだろう)
そんなことを考えながら、ナイアラはアルフレッドの気配を探った。
アルフレッドはすぐに見つかった。
ナイアラはアルフレッドを見つめながら、思考を巡らせた。
(ヘルハルトにバレなければ手出してもいいとクトゥグアは言った。……ならば好機が巡ってくる可能性はあるな)
ナイアラはわざとクトゥグアに聞こえるように思念を響かせた。
(……)
しかしクトゥグアは文句を言う素振りも見せなかった。
別にかまわない、ということだろう。
ならば遠慮無く、と、ナイアラは期待感を込めながら、戦況に意識を集中させた。
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