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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

第二十五話 愛を讃えよ(5)

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   ◆◆◆

 クトゥグアとナイアラは上空から戦いの様子を見つめていた。
 そしてヘルハルトが展開した炎の戦士に対して、クトゥグアは思念を響かせた。

(どうだ? 出し惜しみはしないと言っただろう? この戦いでは火の精は惜しみなく使っていくつもりだ)

 これに対し、

(……)

 ナイアラは言葉を返そうとはしなかった。
 ナイアラは火の精を、炎の戦士を凝視していた。
 ゆえに、直後にナイアラの心の中で小さく響いた思念は、返事とはまったく関係の無いものであった。

(色は青と緑だが、温度は大神官の紫の炎よりもはるかに高いな)

 炎はエネルギーが高くなるほどに、発せられる光の周波数が変化するため色が変わる。
 それは赤から始まり、青を経由して紫に至るが、同じ色の炎であっても、その温度は何を燃料にしているかで大きく異なる。色はあくまでも強度の目安にしかならない。
 ゆえに、ナイアラが注目している箇所は別にあった。

(しかし本当に驚くべきは、その温度でもびくともしない火の精の強度だ)

 バークや大神官のように、人外の技術によって人外の温度に耐えているわけでは無い。何の工夫も無く耐えている。
 それもそのはず。火の精は我々とはまったく異なる存在だからだ。
 アザトースやヨグ=ソトースもそうだが、我々は微生物の部類に入る。自我を構築できるカビのような存在だ。
 だがアレは違う。
 こっそり虫を潜り込ませてみてわかったことだが、アレは石などの鉱物に近い。
 しかし我々と同じように自我を持っている。回路が刻み込まれている。
 人間が娯楽小説の中で登場させるゴーレムのような存在だ。
 試しに虫に攻撃もさせてみたが、結果は予想通りの無駄に終わった。まったく通じない。
 まさに岩に歯を立てたかのような感覚。
『火山にいるクトゥグアは無敵』、そう聞いていたがこれで納得できた。アザトースでも手を出せない理由がようやくわかった。
 クトゥグアは我々とはまったく違う分類の生物なのだ。
 そこまで考えてからナイアラは、

(……)
 
 ちらりと、クトゥグアのほうに意識を向けた。

(この分身体は我々と大差無い素材で構築されているようだが……)

 その材料はどうやって手に入れた? そんな疑問が浮かぶのは当然のことであった。
 それは無敵であるにも関わらず、派手に動かない理由の答えに繋がる疑問であった。
 我々が人類を乗っ取れるのは神経に接触反応し、干渉できるからだ。人間の魂と似たような存在だからだ。
 しかしこいつは違う。
 人類用の神経回路を再構築するなんてことはできないはずだ。
 死者の残骸を捕獲するなどの、効率の悪い手段に頼り続けるような女には見えない。そもそもそれでは魔王軍を乗っ取ることなどできなかったはずだ。
 ナイアラはその答えを手持ちの知識から探し出そうとした。

(やはり、別の生物や素材を仲介役にして、というところか……?)

 しかし予想は出来ても答えは見つからない。
 そしてその思考はナイアラ特有の小さな虫を利用して行われていた。
 だからクトゥグアには聞かれていない、その自信があった。
 が、

(やはり君は頭の回転が良い。さすがアザトースから一目置かれていただけのことはある。……余計な詮索が多すぎるのが玉に瑕(きず)だがね)

 クトゥグアはその思考を全て盗み取っていた。
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