上 下
465 / 545
最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

第二十四話 神殺し、再び(65)

しおりを挟む

  ◆◆◆

 ルイス達は追撃戦でも大きな戦果を上げた。
 ヨグ=ソトースは部隊を少しずつ切り離し、時間稼ぎとして利用しながら撤退したからだ。
 ルイス達が疲れて足を止める頃には、アザトースは原型がわからなくなるほどの有様となっていた。
 決着はヨグ=ソトースの本拠地である神の木で。そしてそれはこちらの勝利で終わるだろう、ルイスはそう思っていた。
 だが違った。
 ルイス達が足を止めてしばらく後、先頭を進むヨグ=ソトースの前に正体不明の部隊が現れた。
 それを指揮する者が誰なのか、ヨグ=ソトースは察しがついていた。
 ゆえにヨグ=ソトースは指揮官らしき女に向かってその名を響かせた。

「漁夫の利狙いの襲撃とはご立派なことだな、クトゥグア」

 この言葉に対し、クトゥグアはつまらない、ナンセンスだとでも言うかのように、立てた人差し指を左右に揺らしながら口を開いた。

「なに馬鹿なことを言っているんだ? 漁夫の利に死体蹴り、そして足の引っ張り合いなんて、私達の世界じゃやらないほうが馬鹿と呼ばれるくらいに常識だろう? 私はその常識に基づいて行動しているだけさ」

 その台詞を聞きながらヨグ=ソトースは部隊に命令を出した。
 大神官の肉体を逃がせ、撤退路を確保しろと。
 そのために出来るだけ会話を長引かせて時間を稼がなくては、そう考えたヨグ=ソトースは続けて尋ねた。

「漁夫の利を狙うのであれば、なぜ我々なのだ? 我々が戦闘している隙に人類を背後から狙おうなどとは考えなかったのか?」

 これにクトゥグアは少し悩ましそうな表情で答えた。

「うーん、私はそれでも良かったんだがねえ。でもそれじゃあ、あなた達が人類に勝利した場合、あなた達の足を引っ張ることが難しくなる可能性があるって、相棒に注意されちゃってね」

 この言葉で共謀者がいることが明らかになった。十中八九、ナイアラだろう。
 ヨグーソトースは話を長引かせるために、ナイアラについて尋ねようとした。
 が、クトゥグアは「パン」と両手を合わせ、その音で話を切って口を開いた。

「はい、おしゃべりはこれでおしまい。それでは、おいしくて気持ちがいい、漁夫の利と死体蹴りを始めさせてもらうぞ」

 手を合わせた音とその言葉を合図に、クトゥグアの背後で何かが動き始めたのをヨグーソトースは感じ取った。
 まるで森そのものが動き出したような感覚。
 統率している肉体は一つだけに感じられる。
 これほど巨大な精霊の維持は一つの肉体では不可能。
 だが、精霊使いらしき人間の気配の数も規模に対して少なく思える。
 しかし現実に森のような精霊の気配は遠く後方にまで広がって続いている。
 どうやって維持している?
 その答えは上空にいる偵察用の目玉からの報告によってすぐに明らかになった。
 気配を詳細に分析した結果、『下手くそな蜘蛛が作った巣のように線が繋がって広がっている』と。
 なぜそうしているのかはすぐに予想できた。
 精霊の木を線で結んでいるのだ。
 だから下手くそな蜘蛛の巣のように見えるのだ。
 このヨグ=ソトースの予想は正解であった。
 が、今の状況を打開する手助けにはならない。
 何か打てる手を探さなくては――ヨグ=ソトースは全力で思考を走らせた。
 が、直後、クトゥグアは無慈悲に声を上げた。

「総員、突撃だ! こいつらを蹴散らし、奪いつくせ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

処理中です...