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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

第二十四話 神殺し、再び(56)

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 が、アルフレッドの真横を突く形で迫る影の姿があった。
 さらに迫る影はその一つだけでは無かった。
 後方から追いつく形で突進してくる影があった。
 そして追いかけてきた影は追いつく直前に軌道を変え、もう一つの影に向かって突っ込んだ。
 双方の得物がぶつかり合い、火花を散らす。
 火花はアリスとデュランの二人の顔を鮮明に映し出した。
 そして二人はその火花が消える前に離れ、距離を取り直した。
 二人の視線が深く交錯する。
 相手の思考を少しでも多く読み取るために、意識を集中させる。
 だが、デュランは隠していなかった。
 その必要が無かったからだ。
 直後、デュランはアリスが読み取った通りの言葉をそのまま声に出した。

「悪いが、お前の相手はこの俺だ!」

 デュランは一瞬視線を外し、アルフレッドの方を見てから再び叫んだ。
 その内容も読み取った通りであった。

「行け、アルフレッド! このしがらみは俺が代わりに断ち切っておいてやる!」

 その言葉はアリスにとって非常にイラつくものであった。
 ヨグ=ソトースの命令は絶対だが、アルフレッドに執着するようにこのアリスの心は作られていた。
 執着の動機の関連付けもヨグ=ソトースならではの悪趣味なものであった。
 それは愛を基本に、憎しみと嫉妬で濃く味付けをしたもの。
 ゆえにこのアリスはアルフレッドに対して運命的な思いを抱いている。
 だが、デュランはそれをただの「しがらみ」だと表現した。
 許せない、そう思った。
 アリスはその思いを隠す事無く叫んだ。

「このわたしの邪魔をするなんて、後悔させてあげる!」

 その叫びと同時に、アリスとアルフレッドは同時に地を蹴った。
 デュランを信用しているアルフレッドはアリスに背を向け、大神官とヨグ=ソトースの方向へ。
 対し、アリスはデュランに向かって踏み込んだ。
 アリスの心は荒れていたが、戦いの思考回路は冷静であった。 

(力任せに打ち合えば負ける!)

 重量差と筋力差は歴然。だから先ほどはつばぜり合いに持ち込まずにすぐに離れた。
 勝っているのは身軽さと手数だけ。
 その強みだけをこの大男に一方的に押し付け続ける。でなければ勝てない。
 長くつかず離れず、二刀を振り続けて、魔力の嵐を繰り出し続けるのだ。
 アリスはその考えを即座に実行した。
 デュランの大剣が届かない間合い、踏み込みの速度も考慮した距離から光の嵐を放つ。
 これに対し、デュランは大盾に前に構えた防御の姿勢。
 光の濁流はそのままデュランの大盾に直撃。
 その炸裂音の響きを背に受けながら、アルフレッドは地を蹴った。
 いつの間にか、アルフレッドの周りには数多くの精霊が並走していた。
 虎や狼や鷹など、その種類は様々。
 そのうちの熊の一頭が、アルフレッドに対して思念を響かせた。

(アルフレッド! 私が援護しよう!)

 この声は――アルフレッドがその人物を思い描く前に、敵の攻撃は始まった。
 大神官の背から生えている数多くのイカの触腕がアルフレッドに向かって一斉に紫色の炎を噴射。
 アルフレッドは回避行動を取るが、敵の手数は多く、攻撃範囲も広い。ゆえにどうあがいてもいくつかは直撃する。
 ならば避けられないぶんは光の嵐で打ち払う、アルフレッドはそう考えていたが、

(任せよ!)

 その必要は無いと、先の声が再び響いた。
 声と共に熊が盾になるように炎に向かって飛び込む。
 確かにこの巨体ならば炎を食い止められるかもしれない、アルフレッドはそう思ったが直後の結果はまったく違うものであった。

「っ!」

 炎の直撃と同時に生じたのは、まばゆい閃光。
 これは?! その疑問に対しての答えはヨグ=ソトースが響かせた。

(冷却魔法か!)

 この世界の人類は魔力をエネルギーにして活動している。
 冷却魔法も然り。炎の魔力で生み出された過剰な熱を処理するのに使われている。
 だが、放出してもほとんど飛ばず、少々ぶつけた程度では効果は無い。
 相手を掴んで大量に流し込むなどしないと殺傷力が無いゆえに、実戦ではあまり目立たない。
 が、炎魔法に対しての防御手段としては文句無しの性能を有する。
 熱を光に変換し、無効化できる。
 雷魔法と同じく、使い手は多くない。
 アルフレッドはその使い手である声の主に対して感謝の言葉を返した。

(助かります! キーラさん!)
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