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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

第二十四話 神殺し、再び(50)

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 ヨグ=ソトースはその冷たい表情のまま思考を走らせた。 

(左翼と右翼に移動したシャロンとキーラが上手く両翼を立て直している。やはりこの二人は通常の戦力では止められんな)

 そしてヨグ=ソトースは暗号化されていてもその心境がわかるほどに、うんざりした口調で思念を響かせた。
 
(開幕の荒らしは上手くいったほうだが……このままだと負けるな)

 普通に戦っては勝てない、それは始める前からわかっていたことであった。
 だから開幕に大規模な精神攻撃を仕掛け、場を荒らした。あまりにも大規模な精神攻撃ゆえにヨグ=ソトースの戦士にも影響があったが、それでもやむを得なかった。
 荒らさなければ勝利が難しいほどに戦力に差がある。精霊の性能では勝ってるが、銃と魔法使いの性能差が大きい。
 このような楽しむことが難しい戦いが始まってしまった原因は二つ。
 一つ目はクトゥグアに先を越されたことだ。
 クトゥグアが先に派手なことを始めたせいで、シャロン達の警戒度が最大になってしまった。ゆえにシャロン達は魔王軍に勝っても軍備を解かなかった。
 そして二つ目はその強力な軍隊がそのまま南に来たことだ。
 アルフレッドのせいか、それともナイアラか、あるいは両方か、その正解は今となってはどうでもいい。
 そんなどうでもいいことに思考を走らせてしまうほどに、ヨグ=ソトースの心は荒れ始めていた。

(つまらない、つまらない、ツマラナイ、ツマラナイ……)

 ヨグ=ソトースの心は再び狂気に満ち始めていた。
 いや、それは正しい言い回しでは無かった。
 狂気を帯びていない時など無い。
 いつからそうなったのかはわからない。
 あまりにも長い年月と積み重なり続ける仕事がヨグ=ソトースを狂わせていた。
 むしろそれは正常に思えた。狂気に歪まなければ自我を保つことが難しいほどに、ヨグ=ソトースの日常は多忙を極め続けていた。
 そんなヨグ=ソトースにも快楽の概念はまだ残っていた。それが今のヨグ=ソトースの心の支えでもあり、狂気の根源でもあった。
 勝利。枯れて歪んだヨグ=ソトースの心が打ち震えるものはたったそれだけになっていた。
 ゆえにヨグ=ソトースは全ての物事を勝敗に結び付けていた。そうしなければならなくなるほどに追い詰められ、そして今では反転して当たり前のこととなり、生を楽しむために必須のものとなった。
 だからヨグ=ソトースの心にはある言葉が強く響き始めていた。
 それはこれまでに数えきれないほどに何度も響いた言葉であった。

(どうすれば面白くなる?)

 ヨグ=ソトースの演算回路は優秀であった。
 ゆえに答えはすぐに生み出された。
 その手は悪くない、そう思えたゆえにヨグ=ソトースは確認するように思念を響かせた。

(もう一度、荒らしてみるか……最初の攻撃よりももっと大きく派手なやり方で……)
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