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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

第二十四話 神殺し、再び(46)

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 その赤色を背に感じながら、アルフレッドがアリスを追う。
 が、その足はすぐに止まってしまった。
 突如、木の上から大量の球体が降りてきたからだ。
 アルフレッドの行く手を遮るように、群れを成して壁を作る。
 間も無く、中央の大きな一つの球体に一つの目が開き、アルフレッドを見つめながら思念を響かせた。

“アルフレッド、どうしてあの技を試そうとしない?”

 それはヨグ=ソトースの声だった。
 あの技とは、アルフレッドとベアトリスが互いを取り戻すために使ったあの技のことだろう。
 だが、アルフレッドはそのことについて話し合いをするつもりは無かった。
 声が響き終わると同時に二刀二閃。
 描いた十字から光の濁流が生まれ、球体の群れを押し払う。
 が、直後に新たな球体が続々と頭上から降りてきて補充された。
 そしてすべての球体が一斉に一つ目を開き、次々と声を響かせ始めた。

“アリスには通じない、対策されているだろうと思っているのかい?”
“たしかにそれはその通りだ。私は彼女に特別な細工をほどこした”
“しかしその対策はあくまでも予想の上での話。私はあの技の詳細を知らない”
“だから通じる可能性は大いにある。試してみるといい。試すべきだ”

 アルフレッドはそれらの声を無視して再び二刀を振るった。
 その剣閃にアルフレッドは思念を添えた。
 どうせ彼女の写しを持っているんだろう? ならばお前を直接叩かない限り、繰り返しになるだけだ、と。
 その言葉と共に、光の嵐が再びなぎ払う。
 しかし球体はまたしても即座に頭上から現れた。

“確かにそれはその通りだが、それでも試すべきだ”
“複製品とは言え、彼女もまたアリスであることは間違い無い”
“私の人形として操られている彼女のことが哀れだと思わないか?”
“まずは彼女だけでも助けることに挑戦してみるべきだ”
“君の中にいるアリスも複製品だろう? 何の違いがある?”

 それらはささやくような静かな声であった。
 しかしアルフレッドには耳障りでしか無かった。
 だからアルフレッドは再び二刀を振るおうとしたが、

「待てアルフレッド!」

 ルイスが声と共にアルフレッドの前に割り込み、ムカデが巻き付いた剣を一閃した。
 剣を振る動きに合わせて伸びたムカデが球体を捕らえ、かみ殺していく。
 その直後、数発の銃声が響いた。
 ルイスが左手に持っていた大盾でアルフレッドをかばう。
 そして響いた複数の金属音の後、ルイスは再び口を開いた。

「もうアリスには追いつけない! これ以上の深追いは無駄だ!」

 こいつはただの時間稼ぎ、相手にするなと、ルイスは続けて声にしようとした。
 が、その言葉がつむがれることは無かった。
 ある大きな変化を感じ取ったからだ。
 そしてその変化はあまりにも大きすぎた。

「「!」」

 ゆえに二人は同時に同じ方向に向いた。
 遠い空を見上げるような視線。
 木々の枝葉が邪魔で見えなかったが、間違い無かった。
 奥にいる山のようなデカブツが変形を開始していた。
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