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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む
第二十四話 神殺し、再び(2)
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◆◆◆
ナイアラから手に入れた情報はルイスにとって悲観的なものが多かったが、中には希望となるものもあった。
それは奴らが有する弱点。
奴らの本体も眷属も使い魔も、そのほとんどが肉の器を持っていない。魂で構成されている。
さらにその魂の素材は海中で入手できるものだ。 ゆえに地上の環境に適応できない。すぐに劣化し、崩れ落ちる。
つまり、今の烈火のような敵の勢いは、貯め込んでおいた人間などの地上の魂を一気に吐き出したことによるものなのだ。
海から前線に補給を直接届けるなどの援護は出来ない。物資は地上での現地調達となる。
だが、その点でアザトースは有利を得ている。
この森には「精霊の宿り木」と呼ばれる補給に使える植物がある。現地の精霊使いを乗っ取れば補給の効率が大きく増す。
それを見越してこの森の近海を根城にしたのだろうか?
それはわからないが、その真偽は重要では無い。
問題はアザトースは既に多くの人間を手中におさめているということ。
優秀な精霊使いや感知能力者を狙って集めていたはずだ。現地の宗教はそうなるように歪められていたとベアトリスから聞いている。
そして優秀な人間は大事に囲っているはずだ。我々がその重要拠点に近づくほどに敵の攻勢は激化するだろう。
しかし幸いなことに、それ以上考慮すべき情報は無い。
ならば、過去の戦術がそのまま適用できる。
要は、こいつらの地上での戦い方は過去の神々と大差無いのだ。
ならば私に有利がある、ルイスはそう思った。
神々の戦い方など裏のやり口まで知っている。経験している。
ルイスがそこまで考えたところで、横から思念が響いた。
“昔と同じやり方がそのまま使えそうだね”
隣にずっとたたずんでいたナチャの思念。
その思念に、ルイスは声を返した。
「修復作業はどうだ? 調子は戻ったか?」
その修復とは、ナチャ自身のことであった。
体を半分に分割し、その半身を失っただけでなく、残った半身も戦闘で傷ついていた。
ルイスがまだ前線に出ていないのはナチャの回復を待っていたからであった。
ルイス自身は優秀な魔法使いでもなんでも無い。身体能力が特別優れているわけでも無い。
ルイスにある強みはたった一つ、ナチャと息が合うことだけだからだ。
そしてナチャはルイスが待っていた言葉を返した。
“この部隊には優秀な能力者が多いからね。バークも精霊使いを大勢連れてきてくれたし。だから順調だ。もうすぐ完治、いや、それ以上に回復するよ”
その言葉に、ルイスは「ようやくか」という思いを滲ませながら口を開いた。
「完了次第すぐに教えてくれ。こちらはいつでも出陣できるように準備をしておく」
それで話は終わったつもりであったが、ナチャは再び思念を響かせた。
“しかし、ひさしぶりの相手が最強と呼ばれているやつなんてね。これに勝ったらルイスはまた『神殺しの男』って呼ばれるようになるんじゃない?”
それはナチャなりにルイスを元気づけようとしたゆえの言葉であった。
だからルイスは薄い笑みと共に言葉を返した。
「今回の主役は私にはならないさ。主力はシャロンとキーラだからな。この戦いの行方は彼女たちの活躍にかかっている」
それは事実であったが、ナチャはまだ同じ話題にしがみついた。
“だったら僕は彼女達に負けないように、かつての戦い以上に気張るとするよ。それにルイスも『神殺し』なんて呼ばれていたのはまんざらでも無かったでしょ?”
これにルイスは笑みを強くしながら答えた。
「やめてくれ。もうそんな異名で呼ばれて喜ぶような歳じゃないさ」
そう言ったあと、ルイスは「フフ」と笑みの音をこぼした。
しかしルイスは笑いながらも、その心の奥底では戦いのことを考えていた。
自分が出陣したらどの部隊に合流すべきか、自分とナチャはどんな役割を果たすべきか、己の能力を分析した上で考え続けていた。
その表と裏で分離した思考はまるで多重人格者のようであり、その裏の冷静な思考は冷徹と呼べるほどに冷たく流れていた。
ナイアラから手に入れた情報はルイスにとって悲観的なものが多かったが、中には希望となるものもあった。
それは奴らが有する弱点。
奴らの本体も眷属も使い魔も、そのほとんどが肉の器を持っていない。魂で構成されている。
さらにその魂の素材は海中で入手できるものだ。 ゆえに地上の環境に適応できない。すぐに劣化し、崩れ落ちる。
つまり、今の烈火のような敵の勢いは、貯め込んでおいた人間などの地上の魂を一気に吐き出したことによるものなのだ。
海から前線に補給を直接届けるなどの援護は出来ない。物資は地上での現地調達となる。
だが、その点でアザトースは有利を得ている。
この森には「精霊の宿り木」と呼ばれる補給に使える植物がある。現地の精霊使いを乗っ取れば補給の効率が大きく増す。
それを見越してこの森の近海を根城にしたのだろうか?
それはわからないが、その真偽は重要では無い。
問題はアザトースは既に多くの人間を手中におさめているということ。
優秀な精霊使いや感知能力者を狙って集めていたはずだ。現地の宗教はそうなるように歪められていたとベアトリスから聞いている。
そして優秀な人間は大事に囲っているはずだ。我々がその重要拠点に近づくほどに敵の攻勢は激化するだろう。
しかし幸いなことに、それ以上考慮すべき情報は無い。
ならば、過去の戦術がそのまま適用できる。
要は、こいつらの地上での戦い方は過去の神々と大差無いのだ。
ならば私に有利がある、ルイスはそう思った。
神々の戦い方など裏のやり口まで知っている。経験している。
ルイスがそこまで考えたところで、横から思念が響いた。
“昔と同じやり方がそのまま使えそうだね”
隣にずっとたたずんでいたナチャの思念。
その思念に、ルイスは声を返した。
「修復作業はどうだ? 調子は戻ったか?」
その修復とは、ナチャ自身のことであった。
体を半分に分割し、その半身を失っただけでなく、残った半身も戦闘で傷ついていた。
ルイスがまだ前線に出ていないのはナチャの回復を待っていたからであった。
ルイス自身は優秀な魔法使いでもなんでも無い。身体能力が特別優れているわけでも無い。
ルイスにある強みはたった一つ、ナチャと息が合うことだけだからだ。
そしてナチャはルイスが待っていた言葉を返した。
“この部隊には優秀な能力者が多いからね。バークも精霊使いを大勢連れてきてくれたし。だから順調だ。もうすぐ完治、いや、それ以上に回復するよ”
その言葉に、ルイスは「ようやくか」という思いを滲ませながら口を開いた。
「完了次第すぐに教えてくれ。こちらはいつでも出陣できるように準備をしておく」
それで話は終わったつもりであったが、ナチャは再び思念を響かせた。
“しかし、ひさしぶりの相手が最強と呼ばれているやつなんてね。これに勝ったらルイスはまた『神殺しの男』って呼ばれるようになるんじゃない?”
それはナチャなりにルイスを元気づけようとしたゆえの言葉であった。
だからルイスは薄い笑みと共に言葉を返した。
「今回の主役は私にはならないさ。主力はシャロンとキーラだからな。この戦いの行方は彼女たちの活躍にかかっている」
それは事実であったが、ナチャはまだ同じ話題にしがみついた。
“だったら僕は彼女達に負けないように、かつての戦い以上に気張るとするよ。それにルイスも『神殺し』なんて呼ばれていたのはまんざらでも無かったでしょ?”
これにルイスは笑みを強くしながら答えた。
「やめてくれ。もうそんな異名で呼ばれて喜ぶような歳じゃないさ」
そう言ったあと、ルイスは「フフ」と笑みの音をこぼした。
しかしルイスは笑いながらも、その心の奥底では戦いのことを考えていた。
自分が出陣したらどの部隊に合流すべきか、自分とナチャはどんな役割を果たすべきか、己の能力を分析した上で考え続けていた。
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