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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神
第二十三話 偶然と気まぐれと運命の収束点(28)
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アザトースはその説明に納得はしなかった。
人間の魂に感情や人格が残っているからだ。
計算のための道具であればそれらは不要のもの。むしろ邪魔になるだけだろう。
なのに残している理由、それは一つしか無い。
ヨグ=ソトースは楽しんでいるのだ。
だが、アザトースはそれに文句をつけようとは思わなかった。
頼んだ仕事をやってくれればなんでもいい。どのように、どんな気持ちでやったかなどは気にしない。
だからアザトースは全てを任せるような口調で言った。
“わかった。それでは地上の事は君に任せることにする。なにかあったら知らせてくれ。私は海の仕事に戻る”
そう言うと同時にアザトースは沈み始めたが、聞きたいことがあったゆえにヨグ=ソトースは尋ねた。
“一つお聞きしたいことが。アルフレッドはどういたしますか? アザトース様への捧げものになる予定の男でしたが”
アザトースは潜行を中断し、少し考えてから答えた。
“優秀な肉体だから手に入れば嬉しいが、必要だとは考えていない。私自身はそこまで固執はしていないよ。みつぎ物の対価を得たい下の者共が勝手に盛り上がっていただけでね。でも結果的にナイアラが裏切り者だってことがわかったから、今回の騒動は幸運だったとすら感じているよ”
それは、もしもこの場にナイアラがいれば怒りを表していたであろう言葉だった。
アザトースはなんとも思っていなかったのだ。直前の激しい戦いすらも。
たとえアルフレッドを横取りされていたとしても己の優位は動かなかった。それを感じさせる言葉だった。
ヨグ=ソトースはその言葉に対し、確認を求めた。
“では、捕獲を優先する必要は無いということですね? 間違って殺してしまっても問題無いと思ってよろしいですか?”
それは、「捕まえるのがめんどうだから殺してもいいか?」の確認であった。
アザトースは少し考えたあと、
“……かまわない。アルフレッドについては君の自由にしていい”
ヨグ=ソトースの好きにさせることにした。
おそらく、マントのコレクションの一つにでもしたいのだろう。アザトースはそこまで察していた。
そしてアザトースの返答に満足したヨグ=ソトースは、
“ありがたきお言葉。では、そのように”
本物の感謝の念をこめた返事を返した。
そのお辞儀を見てから、アザトースは改めて話し合いの終わりを宣言した。
“では、私は帰らせてもらうよ。永久に終わらない仕事がたまっているからね”
冗談のように聞こえるが、それは真実の言葉だった。
そしてアザトースは海中に潜行しながら思った。
“この体も限界が近いな”
だからアザトースはヨグ=ソトースに期待していた。
“地上の侵攻が上手くいけば大量の人間の魂が安定して手に入るようになる。それで作り替えれば強靭な体が手に入る”
それは未来のための大きな前進となる、そんな思いをアザトースは隠さずに響かせた。
そしてヨグ=ソトースは現場に向かい、アザトースは海深くに帰った。
双方が別れて姿が見えなくなるまで、遠方から様子をうかがっていた者がいた。
それはナイアラ。
ナイアラはあきらめてはいなかった。
“地上の部隊を指揮するのはやはりヨグ=ソトースか”
ナイアラは一人では無かった。
何人もの分身がそこに集まっていた。
“助かる。負けた場合の予定表通りだ。大きな修正はしなくてよさそうだな。ということは、新たな指揮官はお前ということでいいわけか”
指揮官に指名されたナイアラはすぐにそれらしく振舞い始めた。
“奴らに地上の侵攻を成功されては困る。すぐに妨害工作を開始するぞ”
そして新たな指揮官は場にいる全員を見回しながら口を開いた。
“これよりは我々は人類の味方として行動する。早急に全員に通達せよ。予定通りに作戦開始だ”
人間の魂に感情や人格が残っているからだ。
計算のための道具であればそれらは不要のもの。むしろ邪魔になるだけだろう。
なのに残している理由、それは一つしか無い。
ヨグ=ソトースは楽しんでいるのだ。
だが、アザトースはそれに文句をつけようとは思わなかった。
頼んだ仕事をやってくれればなんでもいい。どのように、どんな気持ちでやったかなどは気にしない。
だからアザトースは全てを任せるような口調で言った。
“わかった。それでは地上の事は君に任せることにする。なにかあったら知らせてくれ。私は海の仕事に戻る”
そう言うと同時にアザトースは沈み始めたが、聞きたいことがあったゆえにヨグ=ソトースは尋ねた。
“一つお聞きしたいことが。アルフレッドはどういたしますか? アザトース様への捧げものになる予定の男でしたが”
アザトースは潜行を中断し、少し考えてから答えた。
“優秀な肉体だから手に入れば嬉しいが、必要だとは考えていない。私自身はそこまで固執はしていないよ。みつぎ物の対価を得たい下の者共が勝手に盛り上がっていただけでね。でも結果的にナイアラが裏切り者だってことがわかったから、今回の騒動は幸運だったとすら感じているよ”
それは、もしもこの場にナイアラがいれば怒りを表していたであろう言葉だった。
アザトースはなんとも思っていなかったのだ。直前の激しい戦いすらも。
たとえアルフレッドを横取りされていたとしても己の優位は動かなかった。それを感じさせる言葉だった。
ヨグ=ソトースはその言葉に対し、確認を求めた。
“では、捕獲を優先する必要は無いということですね? 間違って殺してしまっても問題無いと思ってよろしいですか?”
それは、「捕まえるのがめんどうだから殺してもいいか?」の確認であった。
アザトースは少し考えたあと、
“……かまわない。アルフレッドについては君の自由にしていい”
ヨグ=ソトースの好きにさせることにした。
おそらく、マントのコレクションの一つにでもしたいのだろう。アザトースはそこまで察していた。
そしてアザトースの返答に満足したヨグ=ソトースは、
“ありがたきお言葉。では、そのように”
本物の感謝の念をこめた返事を返した。
そのお辞儀を見てから、アザトースは改めて話し合いの終わりを宣言した。
“では、私は帰らせてもらうよ。永久に終わらない仕事がたまっているからね”
冗談のように聞こえるが、それは真実の言葉だった。
そしてアザトースは海中に潜行しながら思った。
“この体も限界が近いな”
だからアザトースはヨグ=ソトースに期待していた。
“地上の侵攻が上手くいけば大量の人間の魂が安定して手に入るようになる。それで作り替えれば強靭な体が手に入る”
それは未来のための大きな前進となる、そんな思いをアザトースは隠さずに響かせた。
そしてヨグ=ソトースは現場に向かい、アザトースは海深くに帰った。
双方が別れて姿が見えなくなるまで、遠方から様子をうかがっていた者がいた。
それはナイアラ。
ナイアラはあきらめてはいなかった。
“地上の部隊を指揮するのはやはりヨグ=ソトースか”
ナイアラは一人では無かった。
何人もの分身がそこに集まっていた。
“助かる。負けた場合の予定表通りだ。大きな修正はしなくてよさそうだな。ということは、新たな指揮官はお前ということでいいわけか”
指揮官に指名されたナイアラはすぐにそれらしく振舞い始めた。
“奴らに地上の侵攻を成功されては困る。すぐに妨害工作を開始するぞ”
そして新たな指揮官は場にいる全員を見回しながら口を開いた。
“これよりは我々は人類の味方として行動する。早急に全員に通達せよ。予定通りに作戦開始だ”
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