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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十三話 偶然と気まぐれと運命の収束点(25)

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 アリスはその叫びと共に体の操縦権をベアトリスに返した。
 ベアトリスは即座に奥義と乱舞を止め、右手を腰の下に構えた。
 その動きが合図となり、巻き付いているムカデ達は溶けて液体のようになった。
 ベアトリスの右手の中に吸い込まれるように液体が集まっていく。
 そしてベアトリスの中に一つの白い球が完成した。
 すべてを飲み込んでしまいそうなほどに純白。
 それは、アルフレッドがベアトリスとキーラを人間に戻す時に使ったあの技であった。
 ゆえにあの気まぐれはまさしく運命の分岐点だったのだ。
 ナチャから本能による技術を教わったあの時、ベアトリスは気まぐれに思いつき、そして頼んだのだ。
 自分にあの技のやり方をおしえてほしい、と。
 もしもアルフレッドが敵の手に落ちることがあったら、そんな不安から産まれた気まぐれであった。
 その気まぐれのおかげで可能性を繋げることができた。ベアトリスはそう思っていた。
 いや、それだけじゃない。アリスさんとナチャさん、それにバークさんがいなければこの状況を作ることすら不可能だった。そう思えた。
 だからベアトリスは感謝の念を抱いていた。
 そしてベアトリスの心にはみんなの声が届いていた。
 あなたならやれる、お前にしかできない、そんな激励の声が重なって響いていた。
 ベアトリスはみんなのその声に応えるために叫んだ。

「これで!」

 これで決める! その思いを響かせながらベアトリスは右手の球をアルフレッドの顔面に叩きつけた。
 アルフレッド頭を包み込み、白く浸透していく。
 寄生しているナイアラの気配が白く塗りつぶされていくのを感じる。
 この技は残酷なのにとても優しい、ベアトリスはふとそう思った。
 容赦は無い。すべてを白く浸食し、一から作り直す。
 その生まれ変わるような再生はとても丁寧で美しい。
 ベアトリスはこの作業を完璧にできる。
 なぜならあの時、アルフレッドの魂を、記憶や人格を含む情報体を受け取っていたから。
 だから、ここに至るまでにふと思うことがあった。
 わたしはアルフレッドに詳細な人格の情報を含めた魂を渡したりしたことは無い。
 記憶は多少含まれていたが、あくまでもそれは遊びの域だ。魂を交換できる、共有できることを確認しただけ。
 では、アルフレッドはどうやって今のわたしを作り出したのか?
 その答えはわからない。怖くて聞けない。
 でも、あの時の、あの表情が答えになっている気がする。
 森の中でアルフレッドに助けられて目覚めた時、アルフレッドは薄く笑っていたのだ。
 いや、本当に笑っていたのかどうかはわからない。そう見えただけ。
 微妙な表情だった。寂しいのか、悩ましいのか、何か別の感情が混ざっている感じだった。
 どうしてあんな顔をしていたのか、今ならわかる気がする。
 アルフレッドはきっと悩んでいたのだ。
 今のわたしの人格はアルフレッドによって作り出されたもの。わたしの正確な情報を持っていなかったのだから、そうするしか無かったはず。わからない部分は予想で埋めるしかない。
 わたしと接していた時の言動から予想して作り上げたのだろう。
 でも、当時のわたしの言動すべてが本心からのものだったとは思えない。
 きっと、都合良く取り繕っていたはずだ。アルフレッドの機嫌をうかがって合わせたりしていたはずだ。
 だから、今のわたしはかつてのわたしとはまったく違う人格になってしまっている可能性がある。
 だけど、別人として生まれ変わるとしても、そのほうが絶対に良い、そう信じてアルフレッドは実行したんだろう。
 でも、別人になっているとしてもかまわない。
 なぜなら、わたしは今のわたしが大好きだから。
 わたしの心の中には感謝の気持ちであふれてる。
 それはアルフレドに対してのものだけでは無い。
 知らない土地への旅、色んな人との出会い、すべてに感謝してる。
 アルフレッドが助けてくれなければ、こんな感情はきっと持てなかった。知ることすら無かったと思う。
 この戦いが終わったら、わたしはアルフレッドに告白するつもりだ。
 助けてくれたこと、生まれ変わらせてくれたこと、すべての感謝の念をこめて。
 
 だから!

 ベアトリスはその先の言葉を声にして叫んだ。

「アルフレッドを返して!」
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