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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十三話 偶然と気まぐれと運命の収束点(20)

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 バークも動いていた。
 完璧に同時。完全な速さ比べ、そう見えた。
 しかし直後に響いた音はナイアラにとって完全に予想外のものだった。

「!?」

 それは予想をはるかに超えた大きな爆発音。
 青い爆炎が大きく花開く。
 その爆炎に押される形でバークは突っ込んできた。

(な――?!)
 
 なにぃ?! という短い言葉を完成させることすら出来なかった。 
 迎撃の右の刃が振り切られるより速く、高速の体当たりがアルフレッドの体にぶちかまされる。

「ごぁっは!」

 爆発魔法は自分を吹き飛ばすため!? その驚きは直後に生じたあばら骨が折れる音と痛みによって塗りつぶされた。

(だが……!)

 だが、貴様はこれで終わりだ。ナイアラは痛みを無視するためにそんな思いを走らせた。
 なぜなら、既に精霊がバークの体にまとわりついているからだ。
 強引に突っ込んできたのだから当然の結果。
 数秒もかからぬうちに全身の重要な神経を機能不全にできる!
 ナイアラがそんな思いを走らせた直後、バークは左手を前に出した。
 接触している自身の右肩に添えるように左手を構える。
 その手の中には既に爆発魔法があった。

(まさか!?)

 そのまさかだった。
 一切の躊躇無く、バークはそれを爆発させた。

「げぇっふぁ?!」
 
 ゼロ距離で生じた爆風によって双方の体が離れる。
 バークの体にからみついていた触手もちぎれ飛ぶ。
 そのために?! 吹き飛びながらもナイアラは驚きを禁じ得なかった。
 そして受け身を取って着地した直後、ナイアラはその驚きの原因を理解した。
 アルフレッドの記憶にあるバークはこんな捨て身の戦法を取る男では無かったからだ。
 視線を上げてバークの様子をうかがう。
 バークも受け身を取って立ち上がり始めていた。
 しかしその動作は緩慢。
 あまりの緩慢さゆえに、仕掛けるのは容易であった。
 展開している虫をバークのところに集合させる。
 あとは虫同士を合体させながら脳に侵入させるだけ。
 であったが、

「!」

 ばん、と、バークは小さな爆発魔法を破裂させて集まってきた虫を吹き飛ばした。
 まさか、と、ナイアラは心の中で叫んだ。

(こいつ見えているッ! 私の虫が!)
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