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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十三話 偶然と気まぐれと運命の収束点(15)

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 ただの棒と化した槍で斬撃の嵐を必死に受ける。
 軽くなってしまったせいで前よりも押される。
 あと一瞬遅ければ刃が届いていた、そんなヒヤリとする場面が立て続けに何度も起き始める。
 いつ殺されてもおかしくない、そんな恐怖が脳裏を撫であがる。

(でも――!)

 それでも逃げてはダメ、ここで逃げたらもうアルフレッドを救える機会は二度と訪れない!
 ベアトリスはそんな思いを強く響かせ、己に活を入れた。
 瞬間、

「?!」

 ベアトリスは奇妙な違和感を覚えた。
 その違和感の正体に気づいていたのは本能だけ。理性はまだ気づいていない。ゆえの違和感。
 違和感の正体は「アルフレッドの足運びが変わった」というもの。
 ナチャによって磨き上げられたベアトリスの本能は、その違和感と状況に対しての手堅い答えを持っていた。
 即座にその答えに従って体を反射で動かす。
 計算などしない。既に持っている答えで動く。ゆえに反応も何もかもが速い。
 そして反射によって行われた動作は、「鋭く腰を引く」というものであった。
 その動作が開始された直後、

「げほっ!?」

 ベアトリスの腹部に重いものがねじ込まれた。
 右足を突き出す前蹴り?! 食らってからようやく理性は答えに辿り着いた。
 まるで丸太をぶつけられたかのような重さ。
 腰を引いていなければ内臓が破裂していた、そう確信できる重さ。
 その重い一撃によってベアトリスの体は再び浮遊感に包まれた。
 勢いよく吹き飛ばされ、

「あぅっ!」

 背中が民家の壁に叩きつけられる。

(ベアトリスーッ!)

 それを見たナチャは援護に行かなければと、急降下の態勢に入った。
 が、そうはさせぬと、一手先にドラゴン達が地上から飛び上がった。
 そのドラゴン達は異形の水面から再び産み出されたものであった。
 アルフレッドを強化するためにドラゴン達が溶けて出来上がった水面。
 水面はまるで巨大なマントのように、アルフレッドの背中から垂れ流され、ひきずられていた。
 触手の補充や、精霊による大規模攻撃のために、その水面はアルフレッドの背中にしがみついていた。
 そしてアルフレッドの中にいるナイアラは、その水面を使った大規模攻撃の態勢に入っていた。
 水面が波立ち、アルフレッドの背中を登って二刀にまとわりつき始める。
 同時にナイアラは心の声を大きく響かせた。
 アルフレッドらしい技でお前を殺してやると。
 アリスへの敬意と最大の皮肉を込めた、同じ和の国の言葉で名付けた技で、と。
 そしてその技の名をナイアラは叫んだ。
 
“灰染め墨流蝶・百鬼夜行!(はいぞめすみながし・ひゃっきやこう)”
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