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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神
第二十三話 偶然と気まぐれと運命の収束点(3)
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ベアトリスとアルフレッドは激しく切り結んでいた。
傍目(はため)にはそう見えた。
ベアトリスの槍とアルフレッドの二刀が火花を散らせている。
魔力を帯びて輝く槍と二刀がぶつかり合い、魔法の粒子を飛び散っている。
そのぶつかり合いの衝撃に、アルフレッドの足が後ずさる。
ベアトリスのほうが押している、傍目にはそう見えた。
が、アルフレッドの口元は歪んでいた。
明らかに笑っていた。
その笑みを消そうとするかのように、ベアトリスが槍を振るう。
なぎ払い、振り下ろし、切り上げる。
全てが剛の一撃。
そして人外の速度。
全ての斬撃と衝突音が繋がるほどに速い。
しかしアルフレッドの笑みは崩れることは無かった。
そしてアルフレッドは打ち合いを続けながら喋り始めた。
「臓器から魔力を吸い上げ、戦闘に関係の無いところで消費させること無く、必要な個所に十分な量を常に供給する。その技術のおかげで出力も速さも段違いに上がっている」
アルフレッドは笑みを消し、淡々と言葉を続けた。
「今のお前はかなり強い。以前のアルフレッドと真剣勝負をすれば、間違い無くお前が圧倒するだろう」
冷たく感じるほどに淡々とした口調。
激しい打ち合いの中でもその口調は崩さなかった。
「しかしそれほどの力をもってしてもお前はいまだに決定打を打ち込めていない。なぜか?」
そう言った後、アルフレッドは再び笑み作り、叫んだ。
「お前が手加減しているからだ! 間違って殺してしまわないように、寸止めしているからだ!」
ゆえにアルフレッドは押されつつも余裕があった。
「お前は意識して槍先を、刃の部分を当てないようにしている! 寸止めの打撃だけで私を戦闘不能にしようとしているな!?」
そしてアルフレッドは笑みを強調するように、吐き捨てるように叫んだ。
「ぬるい、ぬるい! 甘っちょろすぎるぞ! ベアトリスッ!」
アルフレッドは笑みを大きく見せつけようとするかのように、さらに半歩深く踏み込みながら叫んだ。
「そんな甘い戦い方でどうにかなるほどにこの私は弱くは無い! 両腕両足を切断してやるくらいの覚悟が無ければ五分にもならぬ!」
叫びと共にアルフレッドの剣閃は変わっていった。
豪快で、乱暴。
隙が生じるほどに荒い。
しかし問題は無い。それがわかっていた。
相手が寸止めしてくることを前提とした動き。
その荒々しい暴力と共に、アルフレッドは叫んだ。
「しかしこちらは全力で、遠慮無く殺す気でやらせてもらうぞ!」
瞬間、アルフレッドの動きから荒々しさが消えた。
完璧な足取り、完璧な姿勢制御。
以前のアルフレッドと同じ動きと共に、その者は心の叫びを響かせた。
“濁流剣・纏い鎌鼬!(だくりゅうけん・まといカマイタチ)”
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