Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
上 下
371 / 545
第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十三話 偶然と気まぐれと運命の収束点(2)

しおりを挟む

   ◆◆◆

 思ったよりは粘れている、善戦している、ねじれた巨人はそう思った。
 あくまでも粘れているだけ。進行が遅くなっているだけで、結果は予想通りの方向に進んでいる。
 しかしなぜだ? なぜ粘れている?
 理由はすぐにわかった。見た通りだった。
 相手の戦い方が雑になっているからだ。
 もとから雑だったが、今はさらにひどくなっている。

(いや、それは――)

 なにか違う。ねじれた巨人はそう思った。
 しかし近い。そう感じた。
 だからすぐに答えに気づくことが出来た。

(そうか、これは――)

 雑になっているのでは無く、劣化しているのだ。
 こいつはまだ準備ができていないのだ。
 地上の環境に完全には適応できていないのだ。だからその巨体の大部分を海中に沈ませたまま戦っているのだ。
 もしかしたら、それでも苦しいのかもしれない。水圧差にも適応できていない可能性がある。
 無理も無い。あれほどの規模なのだから。
 自分はもとは地上の者だ。だから適応できている。その技術を持っている。
 奴も技術自体は持っているかもしれない。しかし理由がなんであれ間に合わなかったのだ。
 それでも、我に対抗するためにその劣化する姿を見せるしか無かったのだろう。
 ならば希望が見えてくる。我と奴の間にある差は思ったより大きく無いのかもしれない。

(しかし――)

 それが分かったところで、それを利用して上手く立ち回ったとしても、この戦いの結末はもう変わらないだろう。
 重要なことは、この粘りで稼げる時間をどのように使うかだ。
 だからねじれた巨人はこの戦いのあとのことについて思考を巡らせ始めた。
 負けた場合の備えは既に用意してあった。
 今の時代は裏の手が多すぎる。展開される物量と情報戦がここまで激化すると完璧な筋書きなど描けない。そんなものはおとぎ話に出てくる万能なる神の領域だ。
 ゆえに「全てを賭ける」などという思考はありえない。
 ナイアラだけでは無い。全員がそうしている。何事にも保険をかけている。
 ゆえに大勝利をおさめて覇権を手にしたとしても、それは一時のものだ。問題は手に入れたあとだ。
 ナイアラはそんな考え方の上に思考を積み重ねていった。
 船によるアルフレッドの離脱という選択肢はまだ残っている。
 むしろそちらの可能性はより色濃いものとなった。
 防御に徹すればより粘れる。この巨体を盾にすることは可能。アルフレッドや手下の人形どもを船で逃がす手は狙うべきだろう。

(だがそうするには――)

 排除すべき邪魔者がいる、そんなことを考えながらねじれた巨人は意識をベアトリスのほうに向けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。 ※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。 ※2020-01-16より執筆開始。

RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya
ファンタジー
戦争・紛争の収まらぬ戦乱の世で 平和への夜明けを導く者は誰だ? 其々の正義が織り成す長編ファンタジー。 〜本編あらすじ〜 広く豊かな海に囲まれ、大陸に属さず 島国として永きに渡り歴史を紡いできた 独立国家《プレジア》 此の国が、世界に其の名を馳せる事となった 背景には、世界で只一国のみ、そう此の プレジアのみが執り行った政策がある。 其れは《鎖国政策》 外界との繋がりを遮断し自国を守るべく 百年も昔に制定された国家政策である。 そんな国もかつて繋がりを育んで来た 近隣国《バルモア》との戦争は回避出来ず。 百年の間戦争によって生まれた傷跡は 近年の自国内紛争を呼ぶ事態へと発展。 その紛争の中心となったのは紛れも無く 新しく掲げられた双つの旗と王家守護の 象徴ともされる一つの旗であった。 鎖国政策を打ち破り外界との繋がりを 再度育み、此の国の衰退を止めるべく 立ち上がった《独立師団革命軍》 異国との戦争で生まれた傷跡を活力に 革命軍の考えを異と唱え、自国の文化や 歴史を護ると決めた《護国師団反乱軍》 三百年の歴史を誇るケーニッヒ王家に仕え 毅然と正義を掲げ、自国最高の防衛戦力と 評され此れを迎え討つ《国王直下帝国軍》 乱立した隊旗を起点に止まらぬ紛争。 今プレジアは変革の時を期せずして迎える。 此の歴史の中で起こる大きな戦いは後に 《日の出戦争》と呼ばれるが此の物語は 此のどれにも属さず、己の運命に翻弄され 巻き込まれて行く一人の流浪人の物語ーー。 

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

【完結】虚無の王

邦幸恵紀
キャラ文芸
【現代ファンタジー/クトゥルー神話/這い寄る混沌×大学生】 大学生・沼田恭司は、ラヴクラフト以外の人間によって歪められた今の「クトゥルー神話」を正し、自分たちを自由に動けるようにしろと「クトゥルー神話」中の邪神の一柱ナイアーラトテップに迫られる。しかし、それはあくまで建前だった。 ◆『偽神伝』のパラレルです。そのため、内容がかなり被っています。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

処理中です...