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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神
第二十二話 Deus Vult(主はそれを望まれた)(27)
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アルフレッドが繰り出した嵐に向かって踏み込む。
そしてベアトリスは手の中で暴れる槍を握りしめながら振り上げ、
「鋭ぃっや!」
目にも止まらぬ速度で振り下ろした。
それは鋭い気勢とは対照的な剛の一撃であった。
槍の先端から大量の魔力が垂れ流され、銀色の線を太く描く。
しかし描かれた線はその一本だけでは無かった。
振り上げたのと時に体から二匹のムカデが伸び、槍に巻き付いていた。
そして振り下ろされると同時にムカデはその身をムチのようにしならせた。
ムカデの頭部が大きく振り回され、弧を描く。
その口からはベアトリスの魔力が放出されていた。
ゆえに、その軌跡も銀色であり、まるで輝く三日月のようであった。
大きく弧を描き、しなやかに払う。
その末端である払いの部分で、三日月は槍が描いた線と交わった。
二つの三日月と一本の直線、三つの線が交差する
そして交差点からからみ合うように歪み始め、ねじれ、回転し、
(出来た!)
その回転は弾けて嵐となった。
成功であった。
防御魔法の展開という大きな予備動作の無い、一動作での嵐。
振り下ろしの一撃であったがゆえに、嵐は直後に地面に激突して波のように跳ねた。
これは試験ゆえの軌道。
もしも万が一にもアルフレッドのところに到達してはならない、ゆえの軌道。
跳ねた波は高く広く広がり、ベアトリスの眼前に光の刃の壁を築いた。
アルフレッドの嵐を受け止め、防ぐ。
そのぶつかり合いが終わり寸前、ベアトリスは壁を中から押し破るように踏み込んだ。
光の刃のかけらが肌を撫でるのも気にせずに。
アルフレッドが少しずつ船に移動しているからだ。引き撃ちしている。
しかもその歩みが速くなり始めている。
港の制圧が終わりかけているのを感じる。
船に乗られて、あのねじれた巨人と合流されたら終わり。
だから強引にでも踏み込み、
「破ァッ!」
豪気に槍を振るう。
もう試験は終わった。ゆえに地面への叩きつけの軌道では無い。
振り上げ、なぎ払い、袈裟に振るう。
嵐と嵐が、波と波が、光の刃と刃が絶え間無くぶつかり合う。
ゆえにベアトリスの視界はほとんどが白。
しかしその白の中に、影が飛び込んできた。
それはアルフレッドの、いや、ねじれた巨人の手下。
心を失い、ただの操り人形と化した兵士。
だから嵐の中に飛び込むことが出来る。
戻ることはほぼ不可能。
いや、戻ることなど考えていない。
その身を賭して止めろ、アルフレッドから発せられたその命令を忠実に従った、ゆえの体当たり。
その命令の声は隠さず、なんお暗号化もされずに発せられていた。
聞こえるのは、感じ取れるのはそれだけでは無かった。
奴は無理をしている、だから時間を稼げ、無理をさせろ、そんな声も混じっていた。
アルフレッドとまったく同じ声色、同一の脳波。
されど恐ろしく冷たい。
ゆえにその声はベアトリスの気に障った。
アルフレッドの声でそんなことを言うんじゃない、ベアトリスはそんな思いを槍に乗せて、
「このぉぉっ!」
飛び掛かってきた影を力任せになぎ払った。
同時に生じた嵐が影の体を吹き飛ばしながら切り刻む。
「ぉぉぉおお雄雄っ!」
気勢を繋げながら槍を振り続け、次々と襲い掛かってくる影達と嵐を叩き払い、ねじ伏せ、白く消し飛ばす。
だが気は晴れなかった。晴れるわけが無かった。
だからベアトリスは裏をかいてやろうと思った。相手の戦術を逆手に取って利用してやろうと思った。
思ったのと同時にベアトリスの体はそのように動いた。
そしてベアトリスは手の中で暴れる槍を握りしめながら振り上げ、
「鋭ぃっや!」
目にも止まらぬ速度で振り下ろした。
それは鋭い気勢とは対照的な剛の一撃であった。
槍の先端から大量の魔力が垂れ流され、銀色の線を太く描く。
しかし描かれた線はその一本だけでは無かった。
振り上げたのと時に体から二匹のムカデが伸び、槍に巻き付いていた。
そして振り下ろされると同時にムカデはその身をムチのようにしならせた。
ムカデの頭部が大きく振り回され、弧を描く。
その口からはベアトリスの魔力が放出されていた。
ゆえに、その軌跡も銀色であり、まるで輝く三日月のようであった。
大きく弧を描き、しなやかに払う。
その末端である払いの部分で、三日月は槍が描いた線と交わった。
二つの三日月と一本の直線、三つの線が交差する
そして交差点からからみ合うように歪み始め、ねじれ、回転し、
(出来た!)
その回転は弾けて嵐となった。
成功であった。
防御魔法の展開という大きな予備動作の無い、一動作での嵐。
振り下ろしの一撃であったがゆえに、嵐は直後に地面に激突して波のように跳ねた。
これは試験ゆえの軌道。
もしも万が一にもアルフレッドのところに到達してはならない、ゆえの軌道。
跳ねた波は高く広く広がり、ベアトリスの眼前に光の刃の壁を築いた。
アルフレッドの嵐を受け止め、防ぐ。
そのぶつかり合いが終わり寸前、ベアトリスは壁を中から押し破るように踏み込んだ。
光の刃のかけらが肌を撫でるのも気にせずに。
アルフレッドが少しずつ船に移動しているからだ。引き撃ちしている。
しかもその歩みが速くなり始めている。
港の制圧が終わりかけているのを感じる。
船に乗られて、あのねじれた巨人と合流されたら終わり。
だから強引にでも踏み込み、
「破ァッ!」
豪気に槍を振るう。
もう試験は終わった。ゆえに地面への叩きつけの軌道では無い。
振り上げ、なぎ払い、袈裟に振るう。
嵐と嵐が、波と波が、光の刃と刃が絶え間無くぶつかり合う。
ゆえにベアトリスの視界はほとんどが白。
しかしその白の中に、影が飛び込んできた。
それはアルフレッドの、いや、ねじれた巨人の手下。
心を失い、ただの操り人形と化した兵士。
だから嵐の中に飛び込むことが出来る。
戻ることはほぼ不可能。
いや、戻ることなど考えていない。
その身を賭して止めろ、アルフレッドから発せられたその命令を忠実に従った、ゆえの体当たり。
その命令の声は隠さず、なんお暗号化もされずに発せられていた。
聞こえるのは、感じ取れるのはそれだけでは無かった。
奴は無理をしている、だから時間を稼げ、無理をさせろ、そんな声も混じっていた。
アルフレッドとまったく同じ声色、同一の脳波。
されど恐ろしく冷たい。
ゆえにその声はベアトリスの気に障った。
アルフレッドの声でそんなことを言うんじゃない、ベアトリスはそんな思いを槍に乗せて、
「このぉぉっ!」
飛び掛かってきた影を力任せになぎ払った。
同時に生じた嵐が影の体を吹き飛ばしながら切り刻む。
「ぉぉぉおお雄雄っ!」
気勢を繋げながら槍を振り続け、次々と襲い掛かってくる影達と嵐を叩き払い、ねじ伏せ、白く消し飛ばす。
だが気は晴れなかった。晴れるわけが無かった。
だからベアトリスは裏をかいてやろうと思った。相手の戦術を逆手に取って利用してやろうと思った。
思ったのと同時にベアトリスの体はそのように動いた。
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