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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十二話 Deus Vult(主はそれを望まれた)(25)

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 しかしまだ危ない、ベアトリスの本能はそう訴えていた。
 ベアトリスはその警告に従った。
 再び防御魔法を展開。
 着地直前に槍を突き刺し、光の濁流を放つ。
 放たれた光の蛇の群れは次の瞬間に地面に激突。
 波打つ光の絨毯となって広がっていく。
 その数瞬後にベアトリスは地面に降り立った。
 着地の勢いを殺さず、そのまま前に走り出す。
 そしてベアトリスは姿勢を低くしながら足を前に突き出し、光の絨毯の下に足からもぐりこもうとするかのように滑り込んだ。
 この時、ベアトリスはバークに自身の正確な位置と姿勢の情報を送っていた。
 なぜか。その答えは直後に耳に響いた。
 後方、いや、ほぼ真後ろからと言える爆発音。
 倒れた塔にバークの爆発魔法が炸裂した音。
 砕けた瓦礫が飛び散り、石の散弾となって敵の兵士達を襲う。
 バークが塔を倒したのはこのため。
 敵の接近を防ぐ障害物としてだけでなく、このように迎撃手段として使うため。
 これは事前に通知されていた。だからベアトリスは姿勢を低くした。
 地の上を滑るベアトリスの頭上を瓦礫のつぶてが通り抜けていく。
 それを確認してからベアトリスは立ち上がり、通常の走行姿勢に入った。
 しかし爆発音はまだ続いてる。
 ゆえに地を這うような低姿勢。感知も張り巡らせている。
 飛来した瓦礫を見ずに避ける。
 自身が放った光の濁流と瓦礫の散弾のおかげで立ちふさがる兵士はいない。
 が、直後に別のものがベアトリスに襲い掛かった。
 光の濁流を突破してきたイカの触腕のような何かと、魚のような何か。
 ベアトリスの体に巻き付こうと伸び迫り、食らいつこうと飛び掛かる。
 これに、ベアトリスは槍を一閃した。
 槍に巻き付いていたムカデがムチのように伸びしなり、イカの足を食いちぎる。
 ベアトリスが繰り出した迎撃はそれだけでは無かった。
 体に巻き付いているムカデが体を伸ばし、飛び掛かってきた魚に食らいつく、
 足は皮膚に刺さったまま。首の部分を伸ばして頭を振っている。
 危険を察知して動く自動迎撃機能。これは身体能力を上げるだけで無く、自発的に危険に対処する装備。
 さらに、仕事をしているのはベアトリスが身に着けているムカデだけでは無かった。
 中空からムカデが雨のように降り注ぎ、地を這ってくる怪物どもに食らいついている。
 真後ろ上空からついてきているナチャによる援護攻撃。
 直後にそのナチャが声を上げた。

(こいつらは僕が!)

 そう叫びながらナチャはさらに上へ浮上した。
 そこには、上空から迫ってきている数体のドラゴンがいた。
 ナチャが産み出した巨大なムカデがドラゴンとぶつかり合う。
 そのおぞましくすらあるぶつかり合いの下で、ベアトリスとアルフレッドの視線が交錯していた。
 もうベアトリスを止められるものは二人の間に無い。
 ゆえにアルフレッドは二刀を構えていた。
 そして既に射程内であった。
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