Iron Maiden Queen

第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十二話 Deus Vult(主はそれを望まれた)(19)

“……っ！”

　絶句、ナイアラの心境と状態を一言で表すとまさにそれであった。
　なぜならば、この戦いは消耗戦であり持久戦のようなもの、ナイアラはそう考えていたからだ。
　これほどの大規模攻撃の応酬となると消耗は激しく、補給で維持するのは難しい。
　実際、お互いにそうだった。蓄えた精霊と魔力をぶつけ合い、互いを削り合った。
　そしてその削り合いに自分は勝った、そう思っていた。
　しかし違った。敵の蓄えのほんの一部を削っただけに過ぎなかったのだ。
　どうする？　どうすればいい？！　そんな言葉がナイアラの心の中を埋め尽くしていた。

　　　◆◆◆

　決定的であり圧倒的な戦況の変化は、港町の戦いにも影響を及ぼしていた。

「感じているか？！　ベアトリス！」

　走りながらの爆発魔法で敵を蹴散らしながら、バークはそれをベアトリスに尋ねた。
　並走しているベアトリスは槍で敵をなぎ払いながら答えた。

「はい！　場に焦りの感情がいっぱい走り始めました！」

　その原因についてはナチャが心に響かせた。

“あの増援が現れてからだね。どうやら、あの化け物同士の戦いは決着が近いようだ”

　焦り始めたアルフレッド達がどうするか、それは考えるまでも無かった。
　だが、急ごうなどとは誰も言わなかった。
　言う必要が無かったからだ。
　なぜなら、

「見えた！」

　アルフレッドの姿を視界にとらえたからだ。
　アルフレッドは港の直前で足止めを食らっていた。
　どの船を目指しているのかは一目瞭然だった。
　ある一つの船の前で激戦が繰り広げられているからだ。
　そこだけ異常なほどに戦いの密度が濃い。
　十体ほどのドラゴンが飛び回りながら下に向かってブレスを吐いている。
　直後、そのうちの三体が飛行の軌道を変えた。
　ベアトリス達の進路の前に着地し、立ちふさがる。
　三階建ての家屋ほどの高さを有するドラゴンが三体。
　これは強引に行くのは少し危ない？　そんな思考がベアトリスの脳裏に走った。
　直後、

「止まるなベアトリス！　私に続け！」

　バークが力強く声を上げた。