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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十二話 Deus Vult(主はそれを望まれた)(18)

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 アザトースは体を食われながら、同じ調子で声を響かせ続けた。

“昔の私も全てを丁寧に、自分なりに完璧にやっていた。それが理想への最短の道、そう思っていた”

 それはまるで自分と話しているかのような、独り言のような口調だった。
 そしてアザトースは「だが、」と言葉を繋げた。

“だが、私の考え方は少しずつ変わっていった。最初のきっかけは、私一人の手には負えないほどに仕事量が増えた時だ”

 それはナイアラも経験のある、共感できる話に思えた。

“だから私は自分とまったく同じ考え方をする分身を作った。君もそうしているのではないかな?”
“……”

 ナイアラは返事をしなかったが、その通りであった。
 アザトースは沈黙からそれを察し、話を続けた。

“君も経験のあることだろうが、環境が違えば仕事が変わり、それに引きずられるように考え方が変わってくるものだ。私の分身もそうなった。少しずつ私とは違うものに変わっていった”

 言われた通り、ナイアラにも経験あることであったが、ナイアラはやはり返事をしなかった。
 そして次はどうしたのか、アザトースは淡々と語った。

“だから私は機械を作るようになった。感情を持たず、変化しない心を持つ者達を産み出し、使うようになった”

 ナイアラもそうしていた。
 そしてそれがナイアラの現状であった。
 が、アザトースはさらにその先の経験について語った。

“しかし今度は環境のほうが変わるようになった。それに応じて機械の心をいじる必要に迫られ、その仕事量は膨大なものになっていった。分担するために再び分身を作ることになった”

 それは既にナイアラも感じていることだった。
 いつかそうなる、その対応に追われる時がくる、そう思っていた。
 その繰り返しの果てにどうなったか、アザトースはそれを答えた。

“そんなことが何度もあるうちに、とうとう私はどうでもよくなった。完璧で無くとも先に進めればいい、そう思うようになった。最後の直前にきちんと整えればいい、そう考えるようになった”

 その言葉に、ナイアラはイラついた。
 だから私もいつか同じ考え方に至ると? 私達は似ているとでも言いたいのか?
 それはナイアラには受け入れ難いものであった。
 が、直後、アザトースはそれとはまったく逆の言葉を述べた。

“だが、君はそうならない、そう思っている。君と私はある点において対極の関係にある、私はそう思っている”

 対極とはどういうことか、アザトースは答えた。

“私が目指しているものは全にして一、つまるところ究極の集合体だ。しかし君は違う。君は個としての究極を目指しているのではないかね? だから君にとっては他のすべてが踏み台なのだろう?”
“……”

 ナイアラは再び沈黙を返した。
 どう答えれば、どう言い返せばいいかわからなかった。
 結局なにが言いたい? そう聞き返しそうだった。
 その話と今の状況に何の関連性がある? そう聞きたかった。
 が、アザトースは聞かれるまでも無く直後に答えた。

“ならば『一対一では』君のほうが強いのは道理。いや、長い話をしてすまない。『この私は』上手く話すのも苦手でね。『でも次は』もう少しマシなのが来るだろう”
“……?!”

 瞬間、ナイアラは感じ取った。
 アザトースの後方、沖のほうに何かが集まり始めたのを。
 海の中でドラゴンと同規模の、大型の精霊の群れが集まり、合体し始めたのを。

“おや、噂をすればなんとやらかな? ちょうど『もう一つ』到着したようだ”

 アザトースがそう言った直後、合体は完了し、それは浮上して海面から姿を現した。
 それもアザトースだった。
 ゆえに、ナイアラは、

“なん、だと……!?”

 驚くしか無かった。
 いや、恐れるしか無かった、のほうが正しいかもしれない。
 それを見てようやく、ナイアラは先の話の意味を理解していた。
 つまり、目の前のこれも、新たに登場したアレも、『分身』なのだ。
 自分とは『分身』のスケールが違う。規模が違いすぎる。 
 自分は精霊としては本体といえるものだ。決戦用のものだ。
 だが相手は違った! やつは、アザトースはここの近くに配置されていた分身のうちの一つを送りつけただけなのだ!
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