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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十二話 Deus Vult(主はそれを望まれた)(14)

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(なにか使えるもの……どこか安全な場所は?!)

 探しながら走る。
 ずっとついてきている上空のドラゴンからのブレス攻撃を避けながら探し続ける。
 しかしそんなものはどこにも無い。
 二発の巨大光弾をどうにかできるものなどこの街にあるわけが無い。
 だがそれでもベアトリスは探し続けた。走り続けた。そうするしか無かった。
 そうしている間に巨大光弾が近づいてくる。
 まるで二つの太陽のような光弾。
 ベアトリスを焼きつくさんと迫ってくる。
 視界の中でその白い輪郭がどんどん大きくなっていく。

「……っ!!」
 
 そして建物の屋根が薄白く照らされ始めたのと同時に、ベアトリスの焦りは極限に達した。
 絶望と冷静さのぶつかり合いはまるで戦いのように激しくなっていた。
 ここまでがんばったけどもう駄目だ、ここまできたんだから最期まであきらめない、あきらめるしかない、いやだ、そんな言葉の応酬のようなものが心の水面下で起きていた。
 しかしその応酬の天秤は少しずつ絶望のほうに傾いていた。
 冷静さの声が小さくなっていく。
 だが冷静であろうとする心が消えることは決して無い。
 だから絶望は折衷案のようなものを出した。
 その内容は最期の悪あがきであった。
 どうにかなるとは思えないが、アレに向かって光の嵐をぶつけてみようという提案。
 その絶望的な提案に、冷静さは頷きを返した。
 直後にベアトリスの足は止まった。
 光弾のほうに向き直り、槍を構える。
 しかしその槍を握る腕がそれ以上動くことは無かった。
 ほぼ確実に効果は無い、その認識が腕を重くしていた。
 このままだと、直撃の直前に濁流を悪あがきで繰り出すことになるだろう、そんな予感が心に浮かんだ。
 ゆえに、ベアトリスの心の中にある言葉が浮かび始めた。
 それは謝罪の念。
 ごめん、アルフレッド、あなたを助けられない――
 そんな言葉が浮かんだ直後、

“これを使え!”

 後方から突然、心の声が響いた。
 使えとはなんのこと?! ベアトリスは振り返りながら見回した。
 するとそれが目に入った。
 青い光弾が飛んできている。
 一個では無い。複数。
 後方長距離から投げられたと思われる弾。
 ゆえに先頭の弾はすでに空気抵抗に負けて勢いを失っていた。
 あとは重力に従うままに落下しつつ、空気による劣化で霧散するのみ。
 距離がある。使えと言われたが、ここからでは間に合わない。
 ベアトリスがそう思った直後、

“僕に任せて!”

 待っていた頼もしい声が響いた。
 だからベアトリスは思わずその名を呼んだ。

「ナチャさん!」

 ベアトリスが叫んだ直後、それは続々と後方から姿を現した。
 ムカデの群れが次々と飛び出し、上空へ昇っていく。
 飛翔したムカデが青い光弾を咥え、飲み込んでいく。
 体内に青い光を宿し、さらに上空に昇っていく。
 そしてムカデは巨大光弾を運ぶドラゴンに向かって体当たりを仕掛け、体内の青を解き放った。
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