355 / 545
第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神
第二十二話 Deus Vult(主はそれを望まれた)(14)
しおりを挟む
(なにか使えるもの……どこか安全な場所は?!)
探しながら走る。
ずっとついてきている上空のドラゴンからのブレス攻撃を避けながら探し続ける。
しかしそんなものはどこにも無い。
二発の巨大光弾をどうにかできるものなどこの街にあるわけが無い。
だがそれでもベアトリスは探し続けた。走り続けた。そうするしか無かった。
そうしている間に巨大光弾が近づいてくる。
まるで二つの太陽のような光弾。
ベアトリスを焼きつくさんと迫ってくる。
視界の中でその白い輪郭がどんどん大きくなっていく。
「……っ!!」
そして建物の屋根が薄白く照らされ始めたのと同時に、ベアトリスの焦りは極限に達した。
絶望と冷静さのぶつかり合いはまるで戦いのように激しくなっていた。
ここまでがんばったけどもう駄目だ、ここまできたんだから最期まであきらめない、あきらめるしかない、いやだ、そんな言葉の応酬のようなものが心の水面下で起きていた。
しかしその応酬の天秤は少しずつ絶望のほうに傾いていた。
冷静さの声が小さくなっていく。
だが冷静であろうとする心が消えることは決して無い。
だから絶望は折衷案のようなものを出した。
その内容は最期の悪あがきであった。
どうにかなるとは思えないが、アレに向かって光の嵐をぶつけてみようという提案。
その絶望的な提案に、冷静さは頷きを返した。
直後にベアトリスの足は止まった。
光弾のほうに向き直り、槍を構える。
しかしその槍を握る腕がそれ以上動くことは無かった。
ほぼ確実に効果は無い、その認識が腕を重くしていた。
このままだと、直撃の直前に濁流を悪あがきで繰り出すことになるだろう、そんな予感が心に浮かんだ。
ゆえに、ベアトリスの心の中にある言葉が浮かび始めた。
それは謝罪の念。
ごめん、アルフレッド、あなたを助けられない――
そんな言葉が浮かんだ直後、
“これを使え!”
後方から突然、心の声が響いた。
使えとはなんのこと?! ベアトリスは振り返りながら見回した。
するとそれが目に入った。
青い光弾が飛んできている。
一個では無い。複数。
後方長距離から投げられたと思われる弾。
ゆえに先頭の弾はすでに空気抵抗に負けて勢いを失っていた。
あとは重力に従うままに落下しつつ、空気による劣化で霧散するのみ。
距離がある。使えと言われたが、ここからでは間に合わない。
ベアトリスがそう思った直後、
“僕に任せて!”
待っていた頼もしい声が響いた。
だからベアトリスは思わずその名を呼んだ。
「ナチャさん!」
ベアトリスが叫んだ直後、それは続々と後方から姿を現した。
ムカデの群れが次々と飛び出し、上空へ昇っていく。
飛翔したムカデが青い光弾を咥え、飲み込んでいく。
体内に青い光を宿し、さらに上空に昇っていく。
そしてムカデは巨大光弾を運ぶドラゴンに向かって体当たりを仕掛け、体内の青を解き放った。
探しながら走る。
ずっとついてきている上空のドラゴンからのブレス攻撃を避けながら探し続ける。
しかしそんなものはどこにも無い。
二発の巨大光弾をどうにかできるものなどこの街にあるわけが無い。
だがそれでもベアトリスは探し続けた。走り続けた。そうするしか無かった。
そうしている間に巨大光弾が近づいてくる。
まるで二つの太陽のような光弾。
ベアトリスを焼きつくさんと迫ってくる。
視界の中でその白い輪郭がどんどん大きくなっていく。
「……っ!!」
そして建物の屋根が薄白く照らされ始めたのと同時に、ベアトリスの焦りは極限に達した。
絶望と冷静さのぶつかり合いはまるで戦いのように激しくなっていた。
ここまでがんばったけどもう駄目だ、ここまできたんだから最期まであきらめない、あきらめるしかない、いやだ、そんな言葉の応酬のようなものが心の水面下で起きていた。
しかしその応酬の天秤は少しずつ絶望のほうに傾いていた。
冷静さの声が小さくなっていく。
だが冷静であろうとする心が消えることは決して無い。
だから絶望は折衷案のようなものを出した。
その内容は最期の悪あがきであった。
どうにかなるとは思えないが、アレに向かって光の嵐をぶつけてみようという提案。
その絶望的な提案に、冷静さは頷きを返した。
直後にベアトリスの足は止まった。
光弾のほうに向き直り、槍を構える。
しかしその槍を握る腕がそれ以上動くことは無かった。
ほぼ確実に効果は無い、その認識が腕を重くしていた。
このままだと、直撃の直前に濁流を悪あがきで繰り出すことになるだろう、そんな予感が心に浮かんだ。
ゆえに、ベアトリスの心の中にある言葉が浮かび始めた。
それは謝罪の念。
ごめん、アルフレッド、あなたを助けられない――
そんな言葉が浮かんだ直後、
“これを使え!”
後方から突然、心の声が響いた。
使えとはなんのこと?! ベアトリスは振り返りながら見回した。
するとそれが目に入った。
青い光弾が飛んできている。
一個では無い。複数。
後方長距離から投げられたと思われる弾。
ゆえに先頭の弾はすでに空気抵抗に負けて勢いを失っていた。
あとは重力に従うままに落下しつつ、空気による劣化で霧散するのみ。
距離がある。使えと言われたが、ここからでは間に合わない。
ベアトリスがそう思った直後、
“僕に任せて!”
待っていた頼もしい声が響いた。
だからベアトリスは思わずその名を呼んだ。
「ナチャさん!」
ベアトリスが叫んだ直後、それは続々と後方から姿を現した。
ムカデの群れが次々と飛び出し、上空へ昇っていく。
飛翔したムカデが青い光弾を咥え、飲み込んでいく。
体内に青い光を宿し、さらに上空に昇っていく。
そしてムカデは巨大光弾を運ぶドラゴンに向かって体当たりを仕掛け、体内の青を解き放った。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる