上 下
350 / 545
第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十二話 Deus Vult(主はそれを望まれた)(9)

しおりを挟む
 二体の怪物が、数多くの触腕が撃ち合いを始める。
 次々と鳴り響く轟音が空気を。空を震わせる。
 爆炎の赤が夕焼けのように広がっていく。
 
「「……!!」」

 その凄まじさにベアトリスとナチャは意識を奪われた。
 直後、そんな二人を叱咤するようにアリスの声が響いた。

「二人とも驚いている場合じゃ無いわ! あれを見て!」

 アリスが示した方向に意識を向けると、そこには海岸に上陸したドラゴン達の姿があった。
 ねじれた巨人が背中の腕から産み出した精霊だ。
 アルフレッドを捕獲しようとしている部隊を撃滅するために放たれたと思われる戦力。
 その数は多い。このまま放っておけば決着は見えている。
 ゆえにアリスは叫んだ。

「行くしかない! 何があっても!」

 その叫びにベアトリスは即座に応え、止めていた足を再び前に出した。
 ここは高台。前方は崖。
 しかし今のベアトリスの脳内に回り込むという選択肢は存在しなかった。
 アルフレッドもここを通った。
 というよりも飛び降りた。
 だからベアトリスもそうした。
 地を蹴り、崖から飛び出す。
 そして体が落下による浮遊感に包まれると同時に、ベアトリスは輝く槍の先端を崖に突き立てた。 
 がりがりと崖を浅く削りながら減速する。
 両足裏にも魔力を帯びさせて崖に張り付かせている。
 少しでも気を抜けば足裏が浮いてしまいそうなほどの急斜面。
 だからベアトリスは祈った。
 どうか、無視してくれますように、と。
 そう願うベアトリスの意識は、ねじれた巨人の背中に向けられていた。
 先ほどまではドラゴンしか展開していなかった背中の手に、巨大な光弾が生み出されている。
 その狙いがこちらに向けられている気がする。
 どうか、違いますように、ベアトリスはそう願った。
 が

「!?」

 その願いは届かなかった。
 発射された光弾の軌道は、明らかにこちらに向いていた。
 直後にナチャが声を上げた。

「どうやら、楽に行かせてはくれないようだ!」

 叫びながらムカデの精霊を大量展開。光弾に向かって放つ。
 引っ張っているドラゴンを足止めして時間を稼ぐ作戦。
 同時にベアトリスも蝶の精霊を展開。
 崖下に先行させ、地形を調べさせる。
 知りたい情報は間も無く手に入った。
 直後に姿勢を変更。
 減速のための槍を抜き、崖下に身投げするように上半身を前に倒す。
 そしてベアトリスは崖の上をまるで地面のように走り始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

ラグナ・リインカーネイション

九条 蓮
ファンタジー
高校二年生の海堂翼は、夏休みに幼馴染と彼女の姉と共に江の島に遊びに行く途中、トラックの事故に巻き込まれてしまい命を落としてしまう。 だが彼は異世界ルナティールに転生し、ロベルト・エルヴェシウスとして生を受け騎士団員として第二の人生を歩んでいた。 やがてロベルトは18歳の誕生日を迎え、父から貰ったプレゼントの力に導かれてこの世界の女神アリシアと出会う。 彼女曰く、自分は邪悪なる者に力を奪われてしまい、このままでは厄災が訪れてしまうとのこと。 そしてアリシアはロベルトに「ラグナ」と呼ばれる力を最期に託し、邪悪なる者から力を取り戻してほしいとお願いして力尽きた。 「邪悪なる者」とは何者か、「厄災」とは何か。 今ここに、ラグナと呼ばれる神の力を持つ転生者たちの、旅路の記録をここに残そう。 現在なろうにおいても掲載中です。 ある程度したら不定期更新に切り替えます。

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。 アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。 だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。 それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。 しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

小役人のススメ -官僚のタマゴと魔王による強国造り物語-

伊東万里
ファンタジー
毎日更新するよう頑張りたいと思います。 国家の進む方針やその実行組織など、豊かで幸せな国になるためには何が必要なのかを考えることをテーマにしています。 【あらすじ】 地方貴族の三男アルフレッド・プライセン。12歳。 三男は、長男、次男に比べ地位が低く、「貴族の三男はパンの無駄」といわれるほどに立場が弱い。子爵家の父の重臣達からも陰で小ばかにされていた。 小さいときにたまたま見つけた「小役人のススメ」という本に魅せられ、将来は貴族ではなく、下級(小役人)でもよいので、中央政府の官僚になり、甘い汁を吸いながら、地味に、でも裕福に暮らしたいと考えていた。 左目に宿った魔王の力を駆使し、官僚のタマゴとして隣国から国を守りながら、愛書「小役人のススメ」の内容を信じて自分の小役人道を進む。 賄賂や権益の誘い、ハニートラップに時に引っ掛かりながらも。 強国になるには優秀な官僚が必要である、と、アルフレッドの活躍を通じて、いつの日か大陸中に認められることを目指す物語 (この作品は、小説家になろう ツギクルにも投稿しています)

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜

鴉真似≪アマネ≫
ファンタジー
 大陸統一。誰もが無理だと、諦めていたことである。  その偉業を、たった1代で成し遂げた1人の男がいた。  幾多の悲しみを背負い、夥しい屍を踏み越えた最も偉大な男。  大統帝アレクサンダリア1世。  そんな彼の最後はあっけないものだった。 『余の治世はこれにて幕を閉じる……これより、新時代の幕開けだ』 『クラウディアよ……余は立派にやれたかだろうか』 『これで全てが終わる……長かった』  だが、彼は新たな肉体を得て、再びこの世へ舞い戻ることとなる。  嫌われ者の少年、豚公子と罵られる少年レオンハルトへと転生する。  舞台は1000年後。時期は人生最大の敗北喫した直後。 『ざまあ見ろ!』 『この豚が!』 『学園の恥! いや、皇国の恥!』  大陸を統べた男は再び、乱れた世界に牙を剝く。  これはかつて大陸を手中に収めた男が紡ぐ、新たな神話である。 ※個人的には7話辺りから面白くなるかと思います。 ※題名が回収されるのは3章後半になります。

処理中です...