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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神
第二十二話 Deus Vult(主はそれを望まれた)(6)
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その雄叫びのような声に動じることなく、アザトースと呼ばれた怪物は答えた。
脳の中央にある触手まみれの異形の口を大きく開き、その喉奥を震わせた。
“残念だよ、ナイアラ”
何が残念なのか、アザトースは続けて喉奥を震わせた。
“その優秀な肉体を独り占めしようなどと……それは個人では無く、我々全体の未来のために使うべきものだということがまだわかっていないようだな?”
そしてアザトースは悠然と語った。
“優秀な大工が生み出す新たな技術は我々をさらなる高みに押し上げる! その可能性を独り占めしようなど、許される行為では無い!”
これに、ナイアーラトテップは口を開いた。
“我々を? さらなる高みに? 笑わせてくれる。いかに技術が発展しようとも、いまの上下関係を変えるつもりは無いのだろう?”
ナイアーラトテップは挑発的にあざ笑いながらそう言ったが、
“……”
アザトースは特に反応を示さず、言葉も返さなかった。
その沈黙に対して畳みかけるように、ナイアーラトテップは再び声を響かせた。
“だから私は自分を、技術を磨き続けた! この日のために! 私自身の未来のために!”
そしてナイアーラトテップは絶縁状を叩きつけるように、高らかに叫んだ。
“だからこの男を奪う! そして私はこの男を、いや、全てを踏み台にしてこの世界の頂点に立つ!”
この言葉に対し、
“……”
アザトースは再びの沈黙の気配を見せたが、しばらくしてその喉奥はゆっくりと震え始めた。
“『この世界の頂点』、か”
しかしその喉奥から紡ぎ出され始めた言葉は、ナイアーラトテップに対しての批判では無かった。
そしてアザトースは空を見上げながら不思議なことを言い始めた。
“ナイアラよ、この空の上には何があると思う?”
“……?”
ナイアーラトテップにはアザトースが何を言いたいのかわからなかった。
アザトースはさらによくわからないことを話し続けた。
“この空の向こうには数えきれないほどの星々が広がっている。星は多種多様であり、中にはこの世界と同じような環境を持つ星もある”
なぜそんなことを知っている? その当然の疑問をアザトースは聞かれる前に答えた。
“私自身が確認したわけでは無い。でもなぜかその情報と記憶があるのだ。この世界で自我を確立した瞬間から、私はそれを知っていた”
アザトースは淡々と言葉を続けた。
“そして感じるのだ。呼ばれている、と。あの空の向こうに何かが待っていて、私はそこに行かなくては、いや、帰らなくてはならないと、なぜだかそう思うのだ”
夢ともつかぬ奇妙な話。
しかしアザトースは真剣に言葉を続けた。
“もしも待っていたとして、それと出会ったとして、私はどうするつもりなのか? どうしたいのか? なぜだか、その答えも用意されていたかのように私の中に最初からあった”
それは何か? アザトースは答えた。
“一つになるのだよ。だからこの世界の全てを持っていく。より大きな一つになるために。それが私の望み”
なんでそんなことをしたいと思った? その疑問に対しても即座に答えた。
“この空の向こうは果てがわからないほどに広大であり、我々はちっぽけな存在だ。だから束ねる。そして目指す。この広大な星の海の中で究極と呼べる高みを”
その声には不気味なイメージが含まれていた。
それはアザトースがこの星で目覚めた時から持っていた記憶の一つ。
映像であり、一言で表せば『肉の海』であった。
全ての生物が一つに絡み合い、海のようにすべてを埋め尽くしている。
全であり一。全てが一つの目的のために行動する。ゆえに集団でありながら個体。
その目的とは先に述べた究極と呼べる高み。
それはすなわち『万物の王』であり、神とも言い換えられる存在であった。
脳の中央にある触手まみれの異形の口を大きく開き、その喉奥を震わせた。
“残念だよ、ナイアラ”
何が残念なのか、アザトースは続けて喉奥を震わせた。
“その優秀な肉体を独り占めしようなどと……それは個人では無く、我々全体の未来のために使うべきものだということがまだわかっていないようだな?”
そしてアザトースは悠然と語った。
“優秀な大工が生み出す新たな技術は我々をさらなる高みに押し上げる! その可能性を独り占めしようなど、許される行為では無い!”
これに、ナイアーラトテップは口を開いた。
“我々を? さらなる高みに? 笑わせてくれる。いかに技術が発展しようとも、いまの上下関係を変えるつもりは無いのだろう?”
ナイアーラトテップは挑発的にあざ笑いながらそう言ったが、
“……”
アザトースは特に反応を示さず、言葉も返さなかった。
その沈黙に対して畳みかけるように、ナイアーラトテップは再び声を響かせた。
“だから私は自分を、技術を磨き続けた! この日のために! 私自身の未来のために!”
そしてナイアーラトテップは絶縁状を叩きつけるように、高らかに叫んだ。
“だからこの男を奪う! そして私はこの男を、いや、全てを踏み台にしてこの世界の頂点に立つ!”
この言葉に対し、
“……”
アザトースは再びの沈黙の気配を見せたが、しばらくしてその喉奥はゆっくりと震え始めた。
“『この世界の頂点』、か”
しかしその喉奥から紡ぎ出され始めた言葉は、ナイアーラトテップに対しての批判では無かった。
そしてアザトースは空を見上げながら不思議なことを言い始めた。
“ナイアラよ、この空の上には何があると思う?”
“……?”
ナイアーラトテップにはアザトースが何を言いたいのかわからなかった。
アザトースはさらによくわからないことを話し続けた。
“この空の向こうには数えきれないほどの星々が広がっている。星は多種多様であり、中にはこの世界と同じような環境を持つ星もある”
なぜそんなことを知っている? その当然の疑問をアザトースは聞かれる前に答えた。
“私自身が確認したわけでは無い。でもなぜかその情報と記憶があるのだ。この世界で自我を確立した瞬間から、私はそれを知っていた”
アザトースは淡々と言葉を続けた。
“そして感じるのだ。呼ばれている、と。あの空の向こうに何かが待っていて、私はそこに行かなくては、いや、帰らなくてはならないと、なぜだかそう思うのだ”
夢ともつかぬ奇妙な話。
しかしアザトースは真剣に言葉を続けた。
“もしも待っていたとして、それと出会ったとして、私はどうするつもりなのか? どうしたいのか? なぜだか、その答えも用意されていたかのように私の中に最初からあった”
それは何か? アザトースは答えた。
“一つになるのだよ。だからこの世界の全てを持っていく。より大きな一つになるために。それが私の望み”
なんでそんなことをしたいと思った? その疑問に対しても即座に答えた。
“この空の向こうは果てがわからないほどに広大であり、我々はちっぽけな存在だ。だから束ねる。そして目指す。この広大な星の海の中で究極と呼べる高みを”
その声には不気味なイメージが含まれていた。
それはアザトースがこの星で目覚めた時から持っていた記憶の一つ。
映像であり、一言で表せば『肉の海』であった。
全ての生物が一つに絡み合い、海のようにすべてを埋め尽くしている。
全であり一。全てが一つの目的のために行動する。ゆえに集団でありながら個体。
その目的とは先に述べた究極と呼べる高み。
それはすなわち『万物の王』であり、神とも言い換えられる存在であった。
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