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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十二話 Deus Vult(主はそれを望まれた)(4)

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 ベアトリスは自身の体力が尽きかけていることもかえりみず、突撃を開始した。
 同時に、海の怪物も浮上を開始。
 これまで触腕しか出さなかった怪物の姿が露わになる。

「……!」
 
 その異質さと異様さとおぞましさに、ベアトリスは言葉を失った。
 下半身はイカ。上半身は人間。
 だが人間の部分がおかしい。
 特に顔は異常。形容し難いほどに。
 頭がねじれている。そうとしか見えなかった。
 まるで巻貝のように。
 口らしき部分からイソギンチャクの触手のようなものが髭のように伸び生えている。
 目は見当たらない。
 だが前を見ている。いや、前だけじゃ無い。全方位を知覚している。それが感じ取れる。
 腕の数と位置もおかしい。
 左側には二本見える。肩の後ろからもう一本生えているように見える。
 その位置すらゆらめいている。
 腕の位置などどこでもいいのだろう。状況に応じて都合の良い位置に変えるのだろう。数も自由に変えられるのだろう。
 そしてよく見ると、指が指じゃない。触手だ。
 嫌悪感しか抱けない。おぞましい。
 なのに、神々しくもある。
 山のように巨大であり、全身が光っているせいだろう。
 既に日が沈みかけているのに、空が明るく照らされるほどにそれは光っていた。
 全身に魔力が蓄えられているのが一目でわかる。ゆえに感知能力者で無くとも、その姿を容易に認識することができる。
 まるで神経網のように、体の中で時々雷が走っている。電撃魔法の魔力が全身に張り巡らされている。
 心臓にあたる位置は燃えている。炎の魔力が満ちている。
 人間を参考にして作られている、そう見えた。
 人間も炎魔法の熱と電撃魔法を利用して体を動かしている。魔法使いと無能の差はそれを外に出せるか否かだけだ。
 ならば、人間とまったく同じように動き、同じ攻撃手段を持っている可能性が高い。
 そしてその巨体にはあふれんばかりの魔力が蓄えられている。
 先の海上戦闘ではこんな魔力は感じられなかった。
 この魔力の今日この時のためのものであり、ナチャの言う通り準備をしていたのだろう。
 これに戦いを挑んで勝てるのだろうか? ナチャも大きいが、アレと比べると子供のようだ。
 ベアトリスとナチャとアリスは同時にそれを考えた。
 そして最初に声を上げたのはアリスであった。

「……アレと戦う必要は無いわ! わたし達の目的はアルフレッドを取り戻すこと! 乱戦の隙を狙って突っ込みましょう!」

 勝てないとは言わなかったが、言い方を変えているだけであって、要はそういうことであった。
 その言葉にベアトリスは、

「わかった!」

 即座に同意し、集団の中に混じったアルフレッドの気配に向かって一直線の進路を取った。
 が、直後、

「「「!!?」」」

 三人は同時に新たな巨体の気配を感知し、ベアトリスはその足を思わず止めた。
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