Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十一話 そして聖域は地獄に変わる(14)

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 数瞬遅れて、同僚も同じ驚きの表情で同じ方向に視線を向けた。
 見ると、神の木はふくらんでいるように見えた。
 まるで生きた触手のように、枝葉が伸びていく。
 それは天を埋め尽くそうとするかのような勢いであり、間も無く二人は見上げなければならないほどなった。
 瞬間、兵士は思った。
 伸びた触手がある模様を描いているように見える、と。
 人間の脳みそのしわの形に似ている、と。
 直後、

「「ッ?!!」」

 二人は同時に頭を押さえた。
 突然の頭痛。
 なぜ? その答えは瞬時にわかった。
 とんでもなく大きな思念の波が頭を打ったからだ。
 まるで巨人が大声を上げたかのような波。
 そしてその思念はほぼ一つの感情に染まっていた。
 空腹だ、その思念はそう言っているように感じられた。
 どういう意味だ? 何を始めるつもりだ? 兵士がそう思った直後、それは始まった。

「「……っ!?」」

 耳には届かないが、二人には感じ取れた。
 あの木のそばで、何かおぞましいことが起きていることを。
 数えきれないほどの人間が悲鳴を上げていることを。
 だから思い出した。
 この道を通って、大量の人間があの木のところに連れていかれていたことを。
 そして直後、さらに思念が響いた。
 それは感情では無く、はっきりとした言葉だった。
 内容はこうだった。

“人よ恐れるな。この変化を受け入れよ”

 何を恐れるなと言っているのか? あれは何をしているのか?
 その疑問の答えを知るべく、二人は木の方向に意識を集中させた。
 すると、

「「……っ?!」」

 二人は同時に感じ取った。
 何か大きなものが近づいてくる気配を。
 タバコを吸っていたほうの兵士はより正確に感じ取っていた。
 まるで木の根を地面の上にはわせるように、触手が四方八方に伸び広がり始めたのを。
 これに捕まってはいけない、きっと自分も同じ悲鳴をあげることになる、そう思った。
 だから二人は同時に走り出した。
 が、

「「!!」」」

 二人の足は直後に止まった。
 数多くの神官達が二人の前に現れたからだ。
 なぜこれだけの人数の接近に気づかなかった?
 その答えは神官たちの目を見ればすぐにわかった。
 みな虚ろな目をしていた。
 ほとんど考えていない。
 思考力を一時的に低くし、脳波をおさえることで気付かれずに忍び寄ってきていたのだろう。
 俺達を監視していた? なぜ?
 その答えにもすぐに気付いた。
 神官達の中には優秀な感知能力者が大勢いた。
 だから自分が怠け者であり、信仰心も持ち合わせていないことはすぐにバレた。
 なのになぜ、自分は雇われたのか。
 答えは一つ。自分がそこそこの感知能力者だからなのだ。
 虫も使える。魂の生産力は常人よりは高い。
 つまり自分は良いエサなのだ。
 だから神官達は楽な仕事を与えて飼いならしていたのだ。

「「……!!」」

 その答えに二人は同時に気づいた。
 だから二人は同時に戦闘態勢を取った。
 この窮地になってようやく、二人は初めて兵士らしく振舞っていた。
 が、それはあまりにも遅すぎた。
 間も無く二人は取り押さえられた。
 そして二人は迫ってきた触手に飲み込まれ、同じ悲鳴を上げた。
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