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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十一話 そして聖域は地獄に変わる(13)

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   ◆◆◆

 大神官の一族は協力者の助力を得て大きくなっていった。外国に分家が出来るほどにだ。
 本家の者達は一族の末端まで大切に扱い、共に信仰を深め合っていた。
 しかし時と共に大神官の一族は大きくなりすぎた。
 本家による管理は行き届かなくなり、海の向こうの者達とは少しずつ疎遠になっていった。
 交流は年に一度になり、しばらくするとそれは数年に一度になった。
 そして時と共に末端の者達が何をしているのか把握できなくなっていった。
 本家の者達が知らぬところで、外の者達は協力者達と親交を深めていた。
 しかしその親交はあまりに深すぎた。
 本来の信仰を忘れ、捨て去ってしまうほどに。海に心惹かれてしまうほどに。
 そのあとの展開は単純であり、よくある話だった。
 ある時、外の者達は本家の土地に戻ってきた。
 本家の者達はこれを受け入れてしまった。その者達が変わってしまっていることに気付けなかった。
 そして本家はゆっくりと浸食されていった。
 今では中身はみな別物だ。
 では、今の大神官は何を信仰しているのか? 何を崇めているのか?
 今日、その答えが明らかになる。
 もう隠す必要が無くなったからだ。
 
   ◆◆◆

「ふぁ~~、あぁ…」

 警備の仕事をやらされている若き兵士は、そのあまりの退屈さに隠すことなく大欠伸をした。
 すぐそばに同じ仕事をしている同僚が並んでいるが気にしない。
 この仕事への熱意については、同僚も似たようなものだからだ。
 だから同僚は直後にタバコを吸い始めた。
 持ち前の炎魔法で器用に火を点け、紫煙をくゆらせる。
 それを見た欠伸の兵士は自分も何か暇をつぶせるものをと、周囲を見回し始めた。
 しかし周りは森。面白そうなものは何も無い。
 が、一つだけ目立つものがあった。
 木々の隙間から見える遠い景色の中に、それは悠然とあった。
 神の木と呼ばれている巨大な精霊の宿り木だ。
 だが、それはあまりに見慣れすぎて既に感動するものでは無かった。
 だから兵士は足元の石ころを蹴飛ばした。
 しかし狙ったところには飛ばず、石ころは整備されたばかりの道路の上を転がっていった。
 数時間前、この道路の上を大神官様ご一行が通って行った。
 恐ろしくでかい魂を運びながら、神の木のほうに歩いて行った。
 あれには本当に驚かされた。
 しかしその異常なものを目にした後ですら、兵士は呑気なものであった。
 自分には関係の無い事、そう思っていた。
 楽に生きていきたい、ただそれだけの考えで教会に雇われた。
 信仰心はかけらも無い。ゆえに下っ端の兵士であり、安月給だ。
 しかし文句は無かった。仕事がきつくなければそれでよかった。
 今やらされている警備の仕事の意味もわからなかったが、どうでもよかった。
 なにやら戦争が始まっているらしいが、いまここを守る必要性は一切感じられない。
 しかし関係無い。むしろありがたい。立っているだけでいいのだから。
 だから兵士は満足していた。
 必要なのは退屈を我慢する忍耐と、暇つぶしの手段だけ。そのために兵士は再び神の木のほうを見た。
 だが何度見ても変わらない。そこには先と変わらぬ神の木があるだけ――
 が、直後、

「!!?」
 
 その神の木から何かが生まれ、天に向かって伸び立つのを兵士は感じ取った。
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