Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
上 下
338 / 545
第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十一話 そして聖域は地獄に変わる(12)

しおりを挟む
 しかし五分では無い。
 鎌を振り上げた隙を突いた形。
 されどその有利はわずか。
 間も無く、クラリスは体内で星を爆発させる準備が整う。
 その星の力によって生じるは、己が体を破壊するほどの人外加速。体を使い捨てにできる操り死人ならではの技。
 バークはそれを感じ取っていた。
 だから思った。
 ならば問題は無いと。
 なぜなら、バークも同じ準備を、体内で星を爆発させる用意をしていたからだ。
 バークは既に完了している。あとは発動するだけ。バークのほうが一手速い。
 既に同じ加速技は見せている。クラリスはそれを感知している。
 しかしこれは、最後の一手の準備は隠されていた。光魔法の波を遮断する膜を使ってだ。
 ここまではわざと感知させていた。クラリスを騙すために。加速の準備ができていないと思わせるために。
 バークはその隠していた一手の加速を、

「雄ォッ!」

 最後の一息の気勢と共に見せた。
 地面を砕くような勢いで地を蹴ってさらに加速。人外の速度の低姿勢突進に。
 されど強引な体当たりでは無い。
 身体制御は完璧。流れるような体重移動による、クラリスの真横をすり抜けるような滑らかな動き。
 その滑らかな低姿勢突進と共に、手刀を一閃。
 地の上を撫で滑る手刀が、クラリスの足首を払う。

「……っ!」

 前のめりに倒れ始めるクラリス。
 直後にクラリスの加速の準備が完了。
 しかしもう遅い。
 クラリスの目にはそれが映っていた。
 それは、通り抜ける時に置いていかれた爆発魔法。
 その青い球は直後に膨らみ、

「っ!」

 炸裂してクラリスの視界を青く染めた。
 倒れ始めたクラリスの真下で発生した衝撃波が、クラリスの体をわずかに浮かせながら後方に押し飛ばす。
 そして直後、後方に流れ始めたクラリスの視界にそれはまたしても映った。 
 まったく同じ爆発魔法。
 それも爆発し、クラリスの体は再び押し飛ばされた。
 直後にまた同じ爆発。
 息をつく間も無くさらに続けて四発目。
 足を地面につけることもできない。爆発の連続でクラリスの体は浮き続け、吹き飛び続ける。
 その連続爆破で飛ばされるクラリスから逃げるようにバークは走り続けている。
 爆発による衝撃波に背中を押されながら、爆発魔法を後方にばらまき続けている。
 そして双方の距離は縮まり始めている。連続爆発によってクラリスは少しずつ加速している。
 だが互いの背中がぶつかることはもはや無い。クラリスは連続で浮かされたことで、高度が上がっている。
 ぎりぎりでバークの真上を通り抜ける高さ。
 その高さになるのをバークは待っていた。計算していた。
 ゆえにバークは直後に減速しながら振り返り、

「破ァッ!」
 
 光る両手を真上に突き出した。
 計算通り、両手は真上を通り抜けるクラリスの背中に直撃。
 直撃の瞬間に防御魔法を展開。クラリスの体を真上に浮かせ直す。
 バークは即座に防御魔法を解除し、クラリスの背を見上げながら両手の輝きを青色に変えた。
 両手の平から同じ色の炎が放たれる。
 まるで火柱のように立ち昇り、クラリスの体を青く包み込む。
 目を凝らすと、その青い奔流の中に同じ色の球が流れているのが見えた。
 これまでのものよりも大きな球。
 その球は炎と共に舞い上がり、クラリスに触れると同時に炸裂した。
 轟音と共に火柱が膨らみ、間も無く弾けて青い花火となる。
 美しい青い火花の華。
 終わった。花火と共にバークはそれを確信していた。
 しばらくして青い炎に包まれたクラリスの体がバークの眼前に落ちる。
 クラリスはぴくりとも動かない。
 なぜなら、心臓と頭部が砕かれているからだ。
 すべての爆発魔法は部位を狙ったものだったのだ。 
 連続爆発によって胸部を壊し、最後の一撃で頭を破壊。
 その有様は無残。ゆえにバークはクラリスを炎で青く包んだのだ。
 そして見回すと、場の戦いは決着しかけていた。
 ナチャはドラゴン三体を相手に圧倒し、既に勝利していた。
 まだ狂人達が残っているが、バークが連れてきた戦士達が善戦している。決着は時間の問題。
 だからバークはベアトリスに向かって叫んだ。

「行け! アルフレッドを追うんだろう?!」

 いつの間に心を読まれていたのか? わからなかったゆえにベアトリスは驚いた。
 その驚きに対し、バークは再び叫んだ。

「急げ! この場の後始末は我々でやっておく!」

 我々の心配なぞ無用、二人を弔う仕事が残っている、そんな二つの思いがその叫びに含まれていた。
 それを感じ取ったベアトリスは、

「……ご助力、感謝します! バークさん!」

 礼と共に背を向け、走り出した。
 その背を見送りながら、バークは一つの心の声を添えた。
 ここが終わったら私もすぐに追いかける、と。
 その言葉を受け取ったベアトリスはナチャに尋ねた。

「ナチャさん! アルフレッドの位置は追えてる?!」

 これに、ナチャは頼もしい言葉を返した。

「余裕だよ。距離は開いたけど、このくらいなら問題無い」

 その理由をナチャは聞かれる前に答えた。
 
「僕らを足止めするためにあいつらをけしかけたみたいだけど、愚策だったね。連中もアルフレッドを追いかけてくれてるから、かなり目立つようになった。見なくてもついていけるくらいだよ」

 ナチャは「それに、」と言葉を繋げた。

「あいつの行き先は察しがついてる。裏切りがバレたやつがどうするかなんて、大体相場が決まってるからね。間違い無く高跳びだろう。あいつは港を目指してるはずだ」

 その頼もしさに、ベアトリスは希望の間隔を抱いた。
 だがこの時、ナチャは心を少し隠していた。
 その港には確実にでかいやつが待ち受けていることだ。
 半分にわかれた今の自分にどうにかできる相手だろうか、その不安をナチャは隠していた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

処理中です...