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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神
第二十一話 そして聖域は地獄に変わる(5)
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◆◆◆
一方、バーク達も苦戦を強いられていた。
いや、苦戦などというものでは無かった。
バーク達はずっと死闘の中にあった。
「……っ!」
そして休む間も無く再び現れた増援に対し、バークの顔は歪んだ。
三体のドラゴンと二つの雲が近づいてくるのが、森の奥から感じ取れる。
疲れでしわくちゃの顔に絶望の色が滲む。
おかしい、どうなっている? バークは心の中でずっとそんな言葉を繰り返していた。
敵の展開力と物量が明らかに異常だ。
敵の戦力についてはずっと調査を行っていた。
戦闘員の兵数、精霊の宿り木の位置と数、それらから展開力や物量は予想できていた。
だが、いま目の前で繰り広げられているこれは、その予測をはるかに超えている。
「……」
思考がまとまらない。
どうなってる? という疑問だけがこだまのように頭の中で響き続けている。
答えは出ない。考えられない。集中できない。
とにかく、今は目の前の敵を倒さなくては――
バークが意識を敵に集中させようと努力し始めた瞬間、後ろから声が響いた。
「バーク、まずいぞ! 後方から敵が来てる!」
焦りの色が強く滲んだそれは、アーティットの声であった。
挟み討ち? しかし後ろには部隊を置いておいたはず――
直後、別の声が響いた。
「彼らはもう倒されました! すぐにここから移動しないと!」
同じく焦りの色が滲んだそれはクラリスの声。
ならば――バークは己のやるべきことを鈍くなった頭で考えた。
そしてぼにゃりと浮かんできた言葉をバークは声に出した。
「私がしんがりを務める! お前達は仲間の撤退を援護しろ!」
これに対し、
「「……」」
二人はすぐに返事をしなかった。
なぜ返事をしない? バークがそう尋ねるより先にアーティットが口を開いた。
「なあバーク、最後にちゃんと眠ったのは何日前だ?」
今度はバークが即答できなかった。
本当によく思い出せなかった。
幾度の夜を戦い抜いた?
三日は確実に過ぎている。四日目か?
考えている間にアーティットが口を開いた。
「今日で六日目だ。水と携帯食料だけで、眠らずにもう六日戦い続けてるんだ」
もう六日目になるのか。数えていなかったからわからなかった。そんなことを考えた直後、アーティットは再び口を開いた。
「……そばで見ているからわかる。もう限界だ。爆発魔法をちゃんと練れていない。時々失敗してる」
それは確かにその通りだが、まだ大丈夫だ戦える、バークはそう答えたかったが、言葉が上手くまとまらなかった。
アーティットはそれも感じ取った。
だからアーティットは言った。
「……お前は俺達の総大将だ。だからここで死なせるわけにはいかない」
直後、目の前にいたアーティットが左に影を残すように消えた、バークにはそう見えた。
そして瞬間、
「っ!」
バークの首は背後から太い腕にしめつけられた。
やめろアーティット! そう叫ぼうとバークは口を開いたが、喉奥からは何も出なかった。
そして脳への酸素の供給が途絶え、間も無くバークの意識は消えた。
「すまんなバーク」
完全に落ちたのを確認してからアーティットは謝った。
二人はバークに伝えていないことがあった。
奇襲は背後からだけでは無いのだ。
全方向から来ている。既に完全な包囲の輪が完成しつつある。
バークはそれを感知できないほどに脳が弱っていた。魔法の制御力にも影響が大きく表れていた。
そしてアーティットは気を失ったバークをクラリスに預け、口を開いた。
「任せたぞクラリス。俺達の大将を安全なところまで運んでくれ」
クラリスは頷きを返し、バークを背負って走り去った。
クラリスには何も言えなかった。
アーティットの無事を祈る言葉すらかけてやれなかった。
そんな言葉が励ましにもならない状況であるゆえに、何も言えなかった。
一方、バーク達も苦戦を強いられていた。
いや、苦戦などというものでは無かった。
バーク達はずっと死闘の中にあった。
「……っ!」
そして休む間も無く再び現れた増援に対し、バークの顔は歪んだ。
三体のドラゴンと二つの雲が近づいてくるのが、森の奥から感じ取れる。
疲れでしわくちゃの顔に絶望の色が滲む。
おかしい、どうなっている? バークは心の中でずっとそんな言葉を繰り返していた。
敵の展開力と物量が明らかに異常だ。
敵の戦力についてはずっと調査を行っていた。
戦闘員の兵数、精霊の宿り木の位置と数、それらから展開力や物量は予想できていた。
だが、いま目の前で繰り広げられているこれは、その予測をはるかに超えている。
「……」
思考がまとまらない。
どうなってる? という疑問だけがこだまのように頭の中で響き続けている。
答えは出ない。考えられない。集中できない。
とにかく、今は目の前の敵を倒さなくては――
バークが意識を敵に集中させようと努力し始めた瞬間、後ろから声が響いた。
「バーク、まずいぞ! 後方から敵が来てる!」
焦りの色が強く滲んだそれは、アーティットの声であった。
挟み討ち? しかし後ろには部隊を置いておいたはず――
直後、別の声が響いた。
「彼らはもう倒されました! すぐにここから移動しないと!」
同じく焦りの色が滲んだそれはクラリスの声。
ならば――バークは己のやるべきことを鈍くなった頭で考えた。
そしてぼにゃりと浮かんできた言葉をバークは声に出した。
「私がしんがりを務める! お前達は仲間の撤退を援護しろ!」
これに対し、
「「……」」
二人はすぐに返事をしなかった。
なぜ返事をしない? バークがそう尋ねるより先にアーティットが口を開いた。
「なあバーク、最後にちゃんと眠ったのは何日前だ?」
今度はバークが即答できなかった。
本当によく思い出せなかった。
幾度の夜を戦い抜いた?
三日は確実に過ぎている。四日目か?
考えている間にアーティットが口を開いた。
「今日で六日目だ。水と携帯食料だけで、眠らずにもう六日戦い続けてるんだ」
もう六日目になるのか。数えていなかったからわからなかった。そんなことを考えた直後、アーティットは再び口を開いた。
「……そばで見ているからわかる。もう限界だ。爆発魔法をちゃんと練れていない。時々失敗してる」
それは確かにその通りだが、まだ大丈夫だ戦える、バークはそう答えたかったが、言葉が上手くまとまらなかった。
アーティットはそれも感じ取った。
だからアーティットは言った。
「……お前は俺達の総大将だ。だからここで死なせるわけにはいかない」
直後、目の前にいたアーティットが左に影を残すように消えた、バークにはそう見えた。
そして瞬間、
「っ!」
バークの首は背後から太い腕にしめつけられた。
やめろアーティット! そう叫ぼうとバークは口を開いたが、喉奥からは何も出なかった。
そして脳への酸素の供給が途絶え、間も無くバークの意識は消えた。
「すまんなバーク」
完全に落ちたのを確認してからアーティットは謝った。
二人はバークに伝えていないことがあった。
奇襲は背後からだけでは無いのだ。
全方向から来ている。既に完全な包囲の輪が完成しつつある。
バークはそれを感知できないほどに脳が弱っていた。魔法の制御力にも影響が大きく表れていた。
そしてアーティットは気を失ったバークをクラリスに預け、口を開いた。
「任せたぞクラリス。俺達の大将を安全なところまで運んでくれ」
クラリスは頷きを返し、バークを背負って走り去った。
クラリスには何も言えなかった。
アーティットの無事を祈る言葉すらかけてやれなかった。
そんな言葉が励ましにもならない状況であるゆえに、何も言えなかった。
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