330 / 545
第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神
第二十一話 そして聖域は地獄に変わる(4)
しおりを挟む
まるで、バラバラにした数多くの人格をごちゃまぜにしたかのよう。
意識の統率はほとんど取れていない。読み取りにくいが、わずかな本能が基本となって動いているようだ。
捕食した相手の精神を取り込んでいるが、上手く処理できていないのだろう。
この男に何が起きたのか? 残骸は考えた。
答えはすぐに思いついた。
恐らく、この男は狂人に変えられかけた人間なのだ。だから自我が破壊されているのだ。
この男の体はその破壊と乗っ取りに対して抵抗したのだろう。
その結果がこれなのだ。狂人達は乗っ取ろうとした男から返り討ちにされたのだ。
しかし男の被害も大きい。修復がいつ終わるのかわからないほど。
ならば、今は好機なのでは無いだろうか? 残骸はそう思った。
上空から近づき、様子をうかがう。
やはり自我が弱い。
さらに、こちらのことを警戒していないように感じ取れる。こちらの存在には気づいているはずだ。
今ならばこの強力な男の体を簡単に乗っ取れるのではないか?
「……」
残骸は男を見つめた。
見つめながらゆっくりと距離を詰める。
が、
(いや、やはり――)
やはりやめておこう。絶対に安全だとは限らない。
そう考え直した残骸は男から意識を外し、上空に戻ろうとした。
この瞬間、残骸は過ちを犯していた。
意識を外すべきでは無かったのだ。
「!?」
動いた?! それを感じ取った残骸は慌てて男のほうに意識を向け直した。
見ると、男は飛び上がってきていた。
人間の跳躍ではありえない高さ。
木の幹を蹴り、枝を足場にし、迫ってきていた。
だがまだその両手は届かない。
しかし触手は違った。
触手は瞬く間に伸び、
「!」
残骸にからみついた。
男には体重がある。抗えない。このままだとどうやって下に引きずり降ろされる。
どうする? この果実を使って反撃するか?
いや、体を一時的にバラバラにしてこの拘束から離脱するか?
数秒迷ったのち、残骸は後者を選んだ。
しかしその迷いすら過ちであった。
「!!」
残骸の体にさらに触手が巻き付く。
もうバラバラにもなれないほどの拘束。触手の繭に包まれているかのよう。
ようやく、残骸は果実を惜しみなく使うことを決断した。
引きずり降ろされながら、触手の繭の中で精霊を展開して反撃を開始する。
残骸と男は混ざり合うようにもみ合いになりながら落下していった。
そして二つの姿は森の枝葉の中に吸い込まれるように消えた。
意識の統率はほとんど取れていない。読み取りにくいが、わずかな本能が基本となって動いているようだ。
捕食した相手の精神を取り込んでいるが、上手く処理できていないのだろう。
この男に何が起きたのか? 残骸は考えた。
答えはすぐに思いついた。
恐らく、この男は狂人に変えられかけた人間なのだ。だから自我が破壊されているのだ。
この男の体はその破壊と乗っ取りに対して抵抗したのだろう。
その結果がこれなのだ。狂人達は乗っ取ろうとした男から返り討ちにされたのだ。
しかし男の被害も大きい。修復がいつ終わるのかわからないほど。
ならば、今は好機なのでは無いだろうか? 残骸はそう思った。
上空から近づき、様子をうかがう。
やはり自我が弱い。
さらに、こちらのことを警戒していないように感じ取れる。こちらの存在には気づいているはずだ。
今ならばこの強力な男の体を簡単に乗っ取れるのではないか?
「……」
残骸は男を見つめた。
見つめながらゆっくりと距離を詰める。
が、
(いや、やはり――)
やはりやめておこう。絶対に安全だとは限らない。
そう考え直した残骸は男から意識を外し、上空に戻ろうとした。
この瞬間、残骸は過ちを犯していた。
意識を外すべきでは無かったのだ。
「!?」
動いた?! それを感じ取った残骸は慌てて男のほうに意識を向け直した。
見ると、男は飛び上がってきていた。
人間の跳躍ではありえない高さ。
木の幹を蹴り、枝を足場にし、迫ってきていた。
だがまだその両手は届かない。
しかし触手は違った。
触手は瞬く間に伸び、
「!」
残骸にからみついた。
男には体重がある。抗えない。このままだとどうやって下に引きずり降ろされる。
どうする? この果実を使って反撃するか?
いや、体を一時的にバラバラにしてこの拘束から離脱するか?
数秒迷ったのち、残骸は後者を選んだ。
しかしその迷いすら過ちであった。
「!!」
残骸の体にさらに触手が巻き付く。
もうバラバラにもなれないほどの拘束。触手の繭に包まれているかのよう。
ようやく、残骸は果実を惜しみなく使うことを決断した。
引きずり降ろされながら、触手の繭の中で精霊を展開して反撃を開始する。
残骸と男は混ざり合うようにもみ合いになりながら落下していった。
そして二つの姿は森の枝葉の中に吸い込まれるように消えた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
さようなら、私の初恋。あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
アラロワ おぼろ世界の学園譚
水本茱萸
SF
——目覚めたら、すべてが「おぼろげ」な世界——
ある日を境に、生徒たちは気づく。自分たちの記憶が「二重」に重なり合っていることに。前の世界の記憶と、今の世界の記憶。しかし、その記憶は完全なものではなく、断片的で曖昧で「おぼろげ」なものだった。
謎の存在「管理者」により、失われた世界から転生した彼らを待っていたのは、不安定な現実。そこでは街並みが変わり、人々の繋がりが揺らぎ、時には大切な人の存在さえも「おぼろげ」になっていく。
「前の世界」での記憶に苦しむ者、現実から目を背ける者、真実を追い求める者——。様々な想いを抱えながら、彼らの高校生活が始まる。これは、世界の片隅で紡がれる、いつか明晰となる青春の群像劇。
◎他サイトにも同時掲載中です。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる