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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十話 母なる海の悪夢(23)

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 だが、アルフレッドを守る気持ちは失われていなかった。
 庇うようにアルフレッドの前に立つ。
 自分に何が出来るのか? 出来ることなどあるのか? そんなさらなる絶望を呼ぶ意識はベアトリスには無かった。
 何とかしないと、そんな思いでベアトリスの心は埋め尽くされていた。
 だが、いくら考えてもこの状況を打破する一手は見つからない。
 答えが出ないままに目の前の足が再び動き始め、周囲の足が近づいてくる。
 何も出来ないのであれば、せめて盾に――
 そう考えたベアトリスが振り下ろされ始めた眼前の足に突撃しようとした瞬間、

「っ!?」

 ベアトリスの背中に衝撃が走った。
 ベアトリスの体が浮遊感に包まれ、視界の中の景色が流れ始める。
 一瞬、何が起きたのか分からなかった。
 すぐに気付いた。
 後ろからアルフレッドに突き飛ばされたのだ。
 しかも防御魔法を使った突き飛ばし。
 その衝撃はベアトリスの体を船外まで運ぶのに十分であった。
 そしてベアトリスはその浮遊感の中で思い出した。
 いまだにどうやっているのか分からないが、アルフレッドが心を隠せることを。思考が遅れてくることがあることを。
 だからわからなかった。反応が遅れた。
 その後悔と共にベアトリスは海に落ちた。
 すぐに浮上し、海面から顔を出すと同時に叫ぶ。

「アルフレッド!」

 見上げると、船は大変なことになっていた。
 イカの足が船に巻き付き、つつみこんでいる。
 まるで船を締め上げて潰そうとしているかのように。
 隙間がまったく無い。逃げ場が無い。
 その包囲の中から光が何度もあふれている。
 アルフレッドが抵抗している。それが感じ取れる。
 が、直後、

「!」

 アルフレッドの抵抗は止まり、苦悶の感覚が伝わってきた。

「アルフレッド!」

 再び名を呼ぶ。
 だが、何も返って来ない。苦悶の感覚すらすぐに消えた。
 意識が完全に途絶えた?! その確信を否定するためにベアトリスはさらに声を上げた。

「返事をして! アルフレッド!」
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