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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十話 母なる海の悪夢(9)

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 指示を受けたキーラは心の声で応え、シャロンと別れた。
 二手に別れ、横一列に並んだ敵の大型船団の挟撃を狙う。
 進路は直線による最短距離。
 敵の小型船の群れの中を突っ切る進路。
 ゆえに、シャロンは腰の得物を鞘から引き抜いた。
 それは奇妙な剣であった。
 あの時シャロンが言った通り、実戦用の剣には見えない。
 なぜなら、鋼の刀身に宝石が埋め込まれているからだ。
 七色に輝く宝石、ダイヤモンド。純粋な炭素で出来た宝石。
 そんな高価な宝石が刃の中心に、根本から先端まで、数珠つなぎに埋め込まれている。
 いや、よく見ると、それは埋め込まれているというよりも、挟み込まれているように見えた。
 それは正解であった。
 しっかりと宝石を押さえつけて固定しておかないといけないからだ。
 そうしなければならない理由をシャロンは直後に見せた。
 握り手である右手から魔力を流し込む。

「「「!?」」」
 
 直後、後ろにいる兵士達はみな同じように驚いた。
 それはサイラスの剣のように変貌していた。
 だが、禍々しくは無い。ただひたすらに眩く激しい。
 その見た目は、まるで剣から雷が伸び生えているようであった。
 炭素によって加速された光魔法の粒子が剣先から放たれている。
 石炭と違って強度があるため破裂しない。半永久的な加速装置だ。
 だが、収束はされていない。そこまでの技術は今は無かった。
 ゆえに、放たれた魔力は広く飛び散る。
 その飛び散るさまが、枝分かれする稲妻のように見える。
 音も似ている。放電炸裂のような音が響き続けている。
 ゆえに、雷魔法なのか? と、勘違いする者がいた。
 無理も無かった。それはダイヤモンドと同じ七色の光をまとった、幻想的な稲妻であった。
 だが、その幻想の顕現を前にしても、狂人達はひるまなかった。 
 こいつらには驚きはあっても恐怖の感情は薄い。ゆえに、向かってくる突撃船の勢いは弱まらなかった。
 対し、シャロンもまた異常な思考をしていた。
 ちょうどいい、そんなことを考えていた。
 初めての武器の試すには無難な相手、本気でそう思っていた。
 間も無く、敵の突撃戦が目の前にまで迫る。
 このままだと激突される、そんな思考が兵士の誰かから放たれた直後、シャロンは左手を前に突き出した。
 放たれた爆発魔法が突撃戦の先端に直撃。その突撃の勢いがほとんど消える。
 しかしそれでも狂人達はひるまなかった。
 衝撃にも爆風にも動じず、乗り移ろうと船から飛び出す。
 シャロンはそれを読んでいた。
 というよりも待っていた。
 だから威力を収束させた赤い槍では無く、普通の爆発魔法を投げたのだ。
 そうとも知らず、無防備な飛び込みの姿を晒す狂人達。
 その無防備な腹部はまるで切ってくれと言わんばかり。 
 シャロンはそうすることにした。
 飛び込んでくる狂人を左に叩きはらうように右から一閃。
 そして直後にシャロンの目の前に描かれた光景は、叩きはらうなどという生易しいものでは無かった。
 雷が叩きつけられ、一際大きな炸裂音が響き渡る。
 叩きつけられた稲妻はさらに細かく枝分かれしながら、狂人にからみつくように次々と炸裂。
 高速でかつ連続的に狂人の体に衝撃が走る。
 ゆえに狂人は空中で奇妙な踊りをしているようにも見えた。
 炸裂音のリズムに合わせて体を奇妙に捻じ曲げながら吹き飛ぶ。
 そして一閃と共に放たれた白い稲妻は後続の狂人達にも炸裂し、すべて海に吹き飛ばした。
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