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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神
第二十話 母なる海の悪夢(1)
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◆◆◆
母なる海の悪夢
◆◆◆
航海は緊張と共に始まった。
進路は単純。陸沿いに南に進むだけだ。
海は穏やか。風は心地よいほど。
だが、兵士達の緊張がとけることは無かった。
いつでも戦えるように、陣形を組んだまま海上を進む。
その船の数は千を超えていた。
港に残されていたものはもちろん、周辺の全ての港から船をかき集めていた。
それだけで無く、雲水が来るときに使った船まで借りてこれだけの数となった。
が、ほとんどはヨットのような小型船。
軍船と呼べるような大型船の数は百に届いていない。
そして陣形は指揮官の船を中央に置いた丸形。
等間隔に配置された大型船を数多くの小型船が護衛している。
まるで大量の小魚が大きな魚に寄り添うように。
海の底から見上げれば、影になっているため本当に魚の群れのように見える。
この時、誰も気づいていなかった。
まさに今、海中から見上げているモノがいたことを。
ソレは、シャロン達を見上げながら好機が訪れるのを待っていた。
その時は近づいているように思えた。
なぜなら、同じような魚群が前方に現れたからだ。
直後、海上で声が響いた。
「全軍、戦闘準備!」
凛としたシャロンの声。
その声は中央の船から響いていた。いま全軍を指揮しているのは彼女であった。
直後に号令を耳で周知させるための楽器の音が鳴り響く。
その音と共に船に変化が起きた。
側面に並んでいる窓が次々と開いていく。
そして窓から伸び現れたのは大砲の先端部分。
港で行われていた船の改造作業はこれのためであった。
甲板に配置されている大砲にも弾がこめられる。
さらに、戦闘準備は海の上でも行われていた。
海上にドラゴンが展開されていく。
さらに前の戦いと同様に空を飛ぶ精霊も展開されたが、その造形は前回とは違っていた。
胴体が細長い。太いヘビのよう。
だが、羽のようなヒレがついている。その点では魚のようでもある。
その全てが胴体に赤い球を内蔵している。
そのことから、前回の鷹型の精霊と同じ役目を担っていることは明らかであった。
そして敵の準備も同様に進んでいた。
(考えることは同じ、か)
敵の船を見つめながらシャロンはそんな思念を漏らした。
見ると、敵の船にも同じ改造が施されていた。
船の数自体もこちらより数百は多い。陣形は横一列。
ドラゴンの数もだ。シャロン側が十なのに対し、敵側は十五。
単純に相手のほうが兵士の数が多いゆえに、展開力が大きい。
そして当然のように、展開されているのはドラゴンだけでは無かった。
顔の造形はドラゴンに近い。
だが胴体が見えない。海中から長い首を伸ばして頭部だけを出している。
おとぎ話に出てくる首長竜か? と、兵士の誰かが独り言のように漏らした。
感知能力者はその海中に隠れている造形まで感じ取っていた。
ドラゴンとはまったく違う。胴体部分は雲だ。
感知能力者の一人がそんな思念を響かせた直後、雲はこれまで何度も見せたように大量の触手を海上に伸ばした。
触手が船を包み、乗っている狂人から魔力を吸い上げ始める。
そして海中の雲は輝き始めた。
その輝きが伝搬するかのように、首長竜とドラゴンも輝き始める。
並の感知能力者にわかるのはそこまでだった。
が、シャロンなどは違った。
(海中に、雲の中にまだ何かいるわね……)
何かが泳いでいる、それを感じ取っていた。
シャロンの感知能力をもってしても数は不明。雲の中に隠れてるせいでぼやけている。
ゆえにシャロンは数の把握をあきらめ、全軍に向かって声を上げた。
「やることは前回と変わらないわ! 補給源を潰さない限り、延々と精霊による攻撃が来る! それを先に潰せるかどうかよ!」
そう叫んでからシャロンは振り向いた。
するとそこには、大型大砲があった。
持ってこれたのはこの一門だけ。
最大の積載量を有するシャロンの船であっても、一門乗せるだけで限界であった。
シャロンはその大型大砲の砲手に向かって声を上げた。
「勝敗はあなたたち砲手の腕にかかっていると言っても過言では無いわ! 気合を入れなさい!」
その激励に、砲手達は雄たけびで応えた。
「「「雄応ッ!」」」
その気勢は伝搬し、他の船からも次々と声が上がった。
「「応ッ!」」「「応ッ!」」「「「雄応ッ!」」」
その気勢を合図に戦いは始まった。
母なる海の悪夢
◆◆◆
航海は緊張と共に始まった。
進路は単純。陸沿いに南に進むだけだ。
海は穏やか。風は心地よいほど。
だが、兵士達の緊張がとけることは無かった。
いつでも戦えるように、陣形を組んだまま海上を進む。
その船の数は千を超えていた。
港に残されていたものはもちろん、周辺の全ての港から船をかき集めていた。
それだけで無く、雲水が来るときに使った船まで借りてこれだけの数となった。
が、ほとんどはヨットのような小型船。
軍船と呼べるような大型船の数は百に届いていない。
そして陣形は指揮官の船を中央に置いた丸形。
等間隔に配置された大型船を数多くの小型船が護衛している。
まるで大量の小魚が大きな魚に寄り添うように。
海の底から見上げれば、影になっているため本当に魚の群れのように見える。
この時、誰も気づいていなかった。
まさに今、海中から見上げているモノがいたことを。
ソレは、シャロン達を見上げながら好機が訪れるのを待っていた。
その時は近づいているように思えた。
なぜなら、同じような魚群が前方に現れたからだ。
直後、海上で声が響いた。
「全軍、戦闘準備!」
凛としたシャロンの声。
その声は中央の船から響いていた。いま全軍を指揮しているのは彼女であった。
直後に号令を耳で周知させるための楽器の音が鳴り響く。
その音と共に船に変化が起きた。
側面に並んでいる窓が次々と開いていく。
そして窓から伸び現れたのは大砲の先端部分。
港で行われていた船の改造作業はこれのためであった。
甲板に配置されている大砲にも弾がこめられる。
さらに、戦闘準備は海の上でも行われていた。
海上にドラゴンが展開されていく。
さらに前の戦いと同様に空を飛ぶ精霊も展開されたが、その造形は前回とは違っていた。
胴体が細長い。太いヘビのよう。
だが、羽のようなヒレがついている。その点では魚のようでもある。
その全てが胴体に赤い球を内蔵している。
そのことから、前回の鷹型の精霊と同じ役目を担っていることは明らかであった。
そして敵の準備も同様に進んでいた。
(考えることは同じ、か)
敵の船を見つめながらシャロンはそんな思念を漏らした。
見ると、敵の船にも同じ改造が施されていた。
船の数自体もこちらより数百は多い。陣形は横一列。
ドラゴンの数もだ。シャロン側が十なのに対し、敵側は十五。
単純に相手のほうが兵士の数が多いゆえに、展開力が大きい。
そして当然のように、展開されているのはドラゴンだけでは無かった。
顔の造形はドラゴンに近い。
だが胴体が見えない。海中から長い首を伸ばして頭部だけを出している。
おとぎ話に出てくる首長竜か? と、兵士の誰かが独り言のように漏らした。
感知能力者はその海中に隠れている造形まで感じ取っていた。
ドラゴンとはまったく違う。胴体部分は雲だ。
感知能力者の一人がそんな思念を響かせた直後、雲はこれまで何度も見せたように大量の触手を海上に伸ばした。
触手が船を包み、乗っている狂人から魔力を吸い上げ始める。
そして海中の雲は輝き始めた。
その輝きが伝搬するかのように、首長竜とドラゴンも輝き始める。
並の感知能力者にわかるのはそこまでだった。
が、シャロンなどは違った。
(海中に、雲の中にまだ何かいるわね……)
何かが泳いでいる、それを感じ取っていた。
シャロンの感知能力をもってしても数は不明。雲の中に隠れてるせいでぼやけている。
ゆえにシャロンは数の把握をあきらめ、全軍に向かって声を上げた。
「やることは前回と変わらないわ! 補給源を潰さない限り、延々と精霊による攻撃が来る! それを先に潰せるかどうかよ!」
そう叫んでからシャロンは振り向いた。
するとそこには、大型大砲があった。
持ってこれたのはこの一門だけ。
最大の積載量を有するシャロンの船であっても、一門乗せるだけで限界であった。
シャロンはその大型大砲の砲手に向かって声を上げた。
「勝敗はあなたたち砲手の腕にかかっていると言っても過言では無いわ! 気合を入れなさい!」
その激励に、砲手達は雄たけびで応えた。
「「「雄応ッ!」」」
その気勢は伝搬し、他の船からも次々と声が上がった。
「「応ッ!」」「「応ッ!」」「「「雄応ッ!」」」
その気勢を合図に戦いは始まった。
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