298 / 545
第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十九話 黄金の林檎(31)
しおりを挟む
◆◆◆
一方、森を中を南に進む者達の姿があった。
蟻の行列のように並んで歩いている。
みな、狂人であった。
そしてその狂人達の中に、ヘルハルトの姿があった。
その目はうつろ。
であったが、他の狂人達とは少し様子が違っていた。
歩くのが遅い。ぎこちない。
まるで足を怪我しているかのように。
そんな傷は見当たらない。上半身にはあるが、包帯で治療されている。
そしてその歩みの遅さに対して、真後ろを歩いている狂人が思念を放った。
(おい、こいつ『また』だぞ)
その声に周囲の狂人達が思念を放ち始める。
そのざわめきから間も無く、前方から数人の狂人が駆け寄ってきた。
(またか)
(また人格が再生され始めたのか)
(記憶も完全に破壊したのにか)
駆け寄ってきた狂人達は不満のような思念を漏らした。
だが、一人は違うことを気にしていた。
(やはりこいつ、そうなのか?)
その思念に他の狂人達も同意の反応を示した。
(稀にいる、優秀な大工を有する人間というやつか?)
(その可能性は高い)
(ここまで抵抗するやつは珍しいのは確かだ)
だが、その声に対して疑問の思念を放つ狂人もいた。
(だが、こいつの身体能力は優秀とはいいがたいぞ)
これに、同意を示したうちの一人が思念を返した。
(優秀は万能と同義では無い。大工には得意な分野があると聞いた)
その思念に(なるほど)と声を返すと、最初に声を上げた狂人が話を次に進ませることを望む思念を放った。
(さて、こいつをどうする?)
(とりあえず、これまで通り人格を破壊するのは当然として……どうしたものか)
答えた狂人は少し考えた後、思念を放った。
(もしかしたら、こいつは良い手土産になるかもしれない)
その思考に相槌を打つように他の狂人が思念を放った。
(我々には大工の声は聞こえない。判断は他者に委ねるしかあるまい)
だが、それには一つ問題があった。
別の狂人がその問題を直後に思念で放った。
(だが、我々が目指す地点とは違うぞ。部隊をわけなければならなくなる)
これに対し、「手土産になる」と放った狂人が思念を返した。
(それは大した問題ではあるまい。たった一人運ぶだけだ。十人もいれば十分だろう)
その答えに、(それもそうだな)と同意を示すと、狂人は再び思念を放った。
(ここからわかれて移動したほうが早い。早速人員を選ぼう)
ヘルハルトには感知能力意外に特別な才能があった。
戦いの中に身を投じたことでようやく明らかになったのだ。だがあまりに遅すぎた。
いや、遅くて良かったのかもしれない。ヘルハルトはきっと悪用したであろう。
そしてここが運命の分岐点の一つであった。
ここでヘルハルトの中にいる小さな住人たちが抵抗していなければ、物語はまったく別の形で終わっていただろう。
一方、森を中を南に進む者達の姿があった。
蟻の行列のように並んで歩いている。
みな、狂人であった。
そしてその狂人達の中に、ヘルハルトの姿があった。
その目はうつろ。
であったが、他の狂人達とは少し様子が違っていた。
歩くのが遅い。ぎこちない。
まるで足を怪我しているかのように。
そんな傷は見当たらない。上半身にはあるが、包帯で治療されている。
そしてその歩みの遅さに対して、真後ろを歩いている狂人が思念を放った。
(おい、こいつ『また』だぞ)
その声に周囲の狂人達が思念を放ち始める。
そのざわめきから間も無く、前方から数人の狂人が駆け寄ってきた。
(またか)
(また人格が再生され始めたのか)
(記憶も完全に破壊したのにか)
駆け寄ってきた狂人達は不満のような思念を漏らした。
だが、一人は違うことを気にしていた。
(やはりこいつ、そうなのか?)
その思念に他の狂人達も同意の反応を示した。
(稀にいる、優秀な大工を有する人間というやつか?)
(その可能性は高い)
(ここまで抵抗するやつは珍しいのは確かだ)
だが、その声に対して疑問の思念を放つ狂人もいた。
(だが、こいつの身体能力は優秀とはいいがたいぞ)
これに、同意を示したうちの一人が思念を返した。
(優秀は万能と同義では無い。大工には得意な分野があると聞いた)
その思念に(なるほど)と声を返すと、最初に声を上げた狂人が話を次に進ませることを望む思念を放った。
(さて、こいつをどうする?)
(とりあえず、これまで通り人格を破壊するのは当然として……どうしたものか)
答えた狂人は少し考えた後、思念を放った。
(もしかしたら、こいつは良い手土産になるかもしれない)
その思考に相槌を打つように他の狂人が思念を放った。
(我々には大工の声は聞こえない。判断は他者に委ねるしかあるまい)
だが、それには一つ問題があった。
別の狂人がその問題を直後に思念で放った。
(だが、我々が目指す地点とは違うぞ。部隊をわけなければならなくなる)
これに対し、「手土産になる」と放った狂人が思念を返した。
(それは大した問題ではあるまい。たった一人運ぶだけだ。十人もいれば十分だろう)
その答えに、(それもそうだな)と同意を示すと、狂人は再び思念を放った。
(ここからわかれて移動したほうが早い。早速人員を選ぼう)
ヘルハルトには感知能力意外に特別な才能があった。
戦いの中に身を投じたことでようやく明らかになったのだ。だがあまりに遅すぎた。
いや、遅くて良かったのかもしれない。ヘルハルトはきっと悪用したであろう。
そしてここが運命の分岐点の一つであった。
ここでヘルハルトの中にいる小さな住人たちが抵抗していなければ、物語はまったく別の形で終わっていただろう。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる