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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十九話 黄金の林檎(31)

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   ◆◆◆

 一方、森を中を南に進む者達の姿があった。
 蟻の行列のように並んで歩いている。
 みな、狂人であった。
 そしてその狂人達の中に、ヘルハルトの姿があった。
 その目はうつろ。
 であったが、他の狂人達とは少し様子が違っていた。
 歩くのが遅い。ぎこちない。
 まるで足を怪我しているかのように。
 そんな傷は見当たらない。上半身にはあるが、包帯で治療されている。
 そしてその歩みの遅さに対して、真後ろを歩いている狂人が思念を放った。

(おい、こいつ『また』だぞ)

 その声に周囲の狂人達が思念を放ち始める。
 そのざわめきから間も無く、前方から数人の狂人が駆け寄ってきた。

(またか)
(また人格が再生され始めたのか)
(記憶も完全に破壊したのにか)

 駆け寄ってきた狂人達は不満のような思念を漏らした。
 だが、一人は違うことを気にしていた。

(やはりこいつ、そうなのか?)

 その思念に他の狂人達も同意の反応を示した。

(稀にいる、優秀な大工を有する人間というやつか?)
(その可能性は高い)
(ここまで抵抗するやつは珍しいのは確かだ)

 だが、その声に対して疑問の思念を放つ狂人もいた。

(だが、こいつの身体能力は優秀とはいいがたいぞ)

 これに、同意を示したうちの一人が思念を返した。

(優秀は万能と同義では無い。大工には得意な分野があると聞いた)

 その思念に(なるほど)と声を返すと、最初に声を上げた狂人が話を次に進ませることを望む思念を放った。

(さて、こいつをどうする?)
(とりあえず、これまで通り人格を破壊するのは当然として……どうしたものか)

 答えた狂人は少し考えた後、思念を放った。

(もしかしたら、こいつは良い手土産になるかもしれない)

 その思考に相槌を打つように他の狂人が思念を放った。

(我々には大工の声は聞こえない。判断は他者に委ねるしかあるまい)

 だが、それには一つ問題があった。
 別の狂人がその問題を直後に思念で放った。

(だが、我々が目指す地点とは違うぞ。部隊をわけなければならなくなる)

 これに対し、「手土産になる」と放った狂人が思念を返した。

(それは大した問題ではあるまい。たった一人運ぶだけだ。十人もいれば十分だろう)

 その答えに、(それもそうだな)と同意を示すと、狂人は再び思念を放った。

(ここからわかれて移動したほうが早い。早速人員を選ぼう)

 ヘルハルトには感知能力意外に特別な才能があった。
 戦いの中に身を投じたことでようやく明らかになったのだ。だがあまりに遅すぎた。

 いや、遅くて良かったのかもしれない。ヘルハルトはきっと悪用したであろう。

 そしてここが運命の分岐点の一つであった。
 ここでヘルハルトの中にいる小さな住人たちが抵抗していなければ、物語はまったく別の形で終わっていただろう。
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