Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
上 下
295 / 545
第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十九話 黄金の林檎(28)

しおりを挟む

   ◆◆◆

 翌日――
 
 ルイスは指揮官の立場を直属の部下にゆずる形で辞任した。
 少しきわどかったが、大勝という戦果を挙げたばかりなのにだ。
 それには理由があり、ルイスはその理由のために港を訪れていた。
 港には多くの船が停泊していた。
 その中には明らかに異国の風貌のものがあった。
 アルフレッドの国の船だ。

「……」

 ルイスはその船を眺めながら思考を巡らせていた。
 その考えがまとまりかけた頃、背後から声がかかった。

「やはりここにいましたか」

 声の主は雲水。
 雲水はルイスが振り返るのを待ってから、再び口を開いた。

「この船を使って敵の本拠地に直接仕掛けるつもりですか?」
「ああ、そう思っている。だが……」

 ルイスは肯定したが、その歯切れは良いものでは無かった。
 その理由を雲水が代弁した。

「ほぼ確実に敵は海上で待ち伏せているでしょうな。ここも同時に攻められるでしょう」

 雲水は「ほぼ確実に」と言える理由を答えた。

「『敵は一度、この港町を放棄する素振りを見せました』。荷物を船に積んだのですよ。ですが、『なぜか敵はそれを途中でやめ、我々の迎撃に全ての戦力を投入した』。我々がここを攻撃したことを敵は既に知っているでしょう」

 どうして敵が途中で考えを変えたのか、それは雲水にもわからなかった。
 だが、二人ともその理由は今は重要では無いと思っていた。
 問題は、戦力を分散させる必要があるということだ。
 目標は敵の本拠地。先の戦い以上の激戦が予想される。ゆえに当然、送り込むのはシャロンなどの主力部隊だ。
 その中には自分も含まれている。だからルイスはこの場の指揮権を他者に譲渡した。
 だが、その激戦の中に先の戦いよりも少ない戦力で挑むことになってしまう。
 これがルイスの歯切れが悪い理由。
 雲水はその理由を察していた。
 だから雲水は続けて口を開いた。

「兵站線を伸ばしながら南の森を行軍する、というのは手堅いでしょうが、恐ろしい長期戦になるでしょうな」

 その長期戦を耐える国力があるのかどうか、それも問題の一つであった。
 ただでさえ魔王軍との戦いで疲弊しているのだ。正直、耐えられるかどうかは怪しいとルイスは思っていた。
 雲水はそれも察していた。
 だから雲水はこの場に姿を現したのだ。
 そして直後、雲水はようやく本題を声に出した。

「なので我々が協力して差し上げましょう。『和の国』がこの地を、いや、この地だけではない。森を封鎖する防衛線を敷くことを約束しましょう」

 しかし当然、それは報酬次第。その言葉を雲水は飲み込んだ。
 ルイスはその飲み込んだ言葉を感じ取っていたが、それに嫌気は抱かなかった。
 和の国も相当の国力を割くことになるのだから当然。タダ働きなどありえない。
 ゆえに答えは決まっている。
 だが、その前に色々と確認しなければならない。
 だからルイスは口を開いて言った。

「とりあえず、続きは私の部屋で話し合いましょう。私の後任との顔合わせもしたい」

 この答えに雲水は笑みを浮かべながら口を開いた。

「それはありがたい。では、早速お願いできますかな?」
「ええ、構いませんよ。では案内しましょう」

 ルイスがそう言って歩き出すと、雲水もそれに並んで歩き出した。

 この時、もう一人笑みを浮かべているものがいた。
 事は上手く進んでいる、『ソレ』はそんな思いを抱いていた。
 だが、それに二人とも気づくことは無かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...