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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十九話 黄金の林檎(28)
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翌日――
ルイスは指揮官の立場を直属の部下にゆずる形で辞任した。
少しきわどかったが、大勝という戦果を挙げたばかりなのにだ。
それには理由があり、ルイスはその理由のために港を訪れていた。
港には多くの船が停泊していた。
その中には明らかに異国の風貌のものがあった。
アルフレッドの国の船だ。
「……」
ルイスはその船を眺めながら思考を巡らせていた。
その考えがまとまりかけた頃、背後から声がかかった。
「やはりここにいましたか」
声の主は雲水。
雲水はルイスが振り返るのを待ってから、再び口を開いた。
「この船を使って敵の本拠地に直接仕掛けるつもりですか?」
「ああ、そう思っている。だが……」
ルイスは肯定したが、その歯切れは良いものでは無かった。
その理由を雲水が代弁した。
「ほぼ確実に敵は海上で待ち伏せているでしょうな。ここも同時に攻められるでしょう」
雲水は「ほぼ確実に」と言える理由を答えた。
「『敵は一度、この港町を放棄する素振りを見せました』。荷物を船に積んだのですよ。ですが、『なぜか敵はそれを途中でやめ、我々の迎撃に全ての戦力を投入した』。我々がここを攻撃したことを敵は既に知っているでしょう」
どうして敵が途中で考えを変えたのか、それは雲水にもわからなかった。
だが、二人ともその理由は今は重要では無いと思っていた。
問題は、戦力を分散させる必要があるということだ。
目標は敵の本拠地。先の戦い以上の激戦が予想される。ゆえに当然、送り込むのはシャロンなどの主力部隊だ。
その中には自分も含まれている。だからルイスはこの場の指揮権を他者に譲渡した。
だが、その激戦の中に先の戦いよりも少ない戦力で挑むことになってしまう。
これがルイスの歯切れが悪い理由。
雲水はその理由を察していた。
だから雲水は続けて口を開いた。
「兵站線を伸ばしながら南の森を行軍する、というのは手堅いでしょうが、恐ろしい長期戦になるでしょうな」
その長期戦を耐える国力があるのかどうか、それも問題の一つであった。
ただでさえ魔王軍との戦いで疲弊しているのだ。正直、耐えられるかどうかは怪しいとルイスは思っていた。
雲水はそれも察していた。
だから雲水はこの場に姿を現したのだ。
そして直後、雲水はようやく本題を声に出した。
「なので我々が協力して差し上げましょう。『和の国』がこの地を、いや、この地だけではない。森を封鎖する防衛線を敷くことを約束しましょう」
しかし当然、それは報酬次第。その言葉を雲水は飲み込んだ。
ルイスはその飲み込んだ言葉を感じ取っていたが、それに嫌気は抱かなかった。
和の国も相当の国力を割くことになるのだから当然。タダ働きなどありえない。
ゆえに答えは決まっている。
だが、その前に色々と確認しなければならない。
だからルイスは口を開いて言った。
「とりあえず、続きは私の部屋で話し合いましょう。私の後任との顔合わせもしたい」
この答えに雲水は笑みを浮かべながら口を開いた。
「それはありがたい。では、早速お願いできますかな?」
「ええ、構いませんよ。では案内しましょう」
ルイスがそう言って歩き出すと、雲水もそれに並んで歩き出した。
この時、もう一人笑みを浮かべているものがいた。
事は上手く進んでいる、『ソレ』はそんな思いを抱いていた。
だが、それに二人とも気づくことは無かった。
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