294 / 545
第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十九話 黄金の林檎(27)
しおりを挟む
その号令を合図に全員が前に地を蹴った。
「ドラゴンに遅れをとるな!」
「走れー!」
ナチャと怪物達が激しくぶつかり合っているのが見える。
だが、それに恐れをなして足を緩めるものなど誰もいない。
怖くないのか? 少し臆病な誰かがそんな疑問を抱いた。
みんな異常なものを見すぎたせいで頭がおかしくなっているのかもしれない、誰かがそう思った。
いや、シャロンや魔王の凄まじい戦いぶりにあてられたせいだ、誰かがそう答えた。
立ちふさがる狂人達をなぎ倒しながら駆け続ける。
もう少しで城壁、もう少しで街に入れる、そんな思いが全員の中に生まれた直後、みなの心に声が響いた。
(これ以上は無理! 撤退する! あとはがんばって!)
おそらくこの戦いで最も大きな仕事をしたであろう、ナチャの声。
そのナチャが離脱を開始したことで、状況は一気に変わった。
街の防衛にあたっていたドラゴン達が一斉に向きを変える。
それを見たルイスは声を上げた。
「ドラゴンの相手はキーラとサイラス達に任せろ! 他の部隊はドラゴンを無視して一気に街の奥に踏み込め!」
ナチャが離脱したということは怪物の生産が再開しているはず。その再生源を断て。そんな思いが声に含まれていた。
その声から間も無く、ドラゴン達は再びぶつかり合った。
だが、敵のドラゴンには力強さが無かった。
ナチャとの戦いでかなり消耗しているのだ。そしてまだ回復していない。
それを感じ取ったサイラスは声を上げた。
「補給させるな! 誰か上の雲を押さえろ!」
その声にキーラが応えた。
見ると、キーラはあの時と同じ、アルフレッドとデュランが作り出した精霊の武装を装着していた。
キーラの手から長距離爆発魔法が次々と発射され、雲の怪物を吹き飛ばしていく。
それを阻止しようと狂人達が突撃をしかけてくるが、その前にアルフレッド達が立ちふさがる。
間も無く、その地上戦にサイラスも合流。
ドラゴンのほうは自動操作でも押し勝てる、そう判断したサイラスはもう一つの仕事を始めた。
電撃魔法で敵を拘束していく。
この状況下でも、サイラスは敵の拿捕を考えていた。
他の者に強制はしない。
狂人は命を投げ捨てるような特攻を仕掛けてくる。しかも痛みに鈍い。そんな敵を相手に普通は手加減など出来ない。
ゆえに、それはサイラスなどの一部の強者にしか出来ない仕事であった。
指示はされていないが、アルフレッドとベアトリスも可能な範囲でそうしていた。
ゆえに体術が、足技が多い。
相手の足を破壊し、機動力を奪って放置している。
デュランも同じく、意識して戦っていた。
刃を当てない。中央のふくらんだ部分を、大剣の腹の部分を当てている。
触手をまとった異形の大剣ゆえに、それで充分であった。
打撃と同時に触手がからまり、相手の神経を蝕んで拘束する。
そうしてキーラを守っているうちに戦況は傾いていった。
雲が消し飛び、敵のドラゴンが倒れていく。
雲が無くなったことで魂の補給線が消失。
五体のドラゴンが再生産されたが、それも間も無くサイラスが操作するドラゴンによってねじ伏せられた。
そして戦いは決した。
終わってみれば、大勝といっていい結果であった。
「ドラゴンに遅れをとるな!」
「走れー!」
ナチャと怪物達が激しくぶつかり合っているのが見える。
だが、それに恐れをなして足を緩めるものなど誰もいない。
怖くないのか? 少し臆病な誰かがそんな疑問を抱いた。
みんな異常なものを見すぎたせいで頭がおかしくなっているのかもしれない、誰かがそう思った。
いや、シャロンや魔王の凄まじい戦いぶりにあてられたせいだ、誰かがそう答えた。
立ちふさがる狂人達をなぎ倒しながら駆け続ける。
もう少しで城壁、もう少しで街に入れる、そんな思いが全員の中に生まれた直後、みなの心に声が響いた。
(これ以上は無理! 撤退する! あとはがんばって!)
おそらくこの戦いで最も大きな仕事をしたであろう、ナチャの声。
そのナチャが離脱を開始したことで、状況は一気に変わった。
街の防衛にあたっていたドラゴン達が一斉に向きを変える。
それを見たルイスは声を上げた。
「ドラゴンの相手はキーラとサイラス達に任せろ! 他の部隊はドラゴンを無視して一気に街の奥に踏み込め!」
ナチャが離脱したということは怪物の生産が再開しているはず。その再生源を断て。そんな思いが声に含まれていた。
その声から間も無く、ドラゴン達は再びぶつかり合った。
だが、敵のドラゴンには力強さが無かった。
ナチャとの戦いでかなり消耗しているのだ。そしてまだ回復していない。
それを感じ取ったサイラスは声を上げた。
「補給させるな! 誰か上の雲を押さえろ!」
その声にキーラが応えた。
見ると、キーラはあの時と同じ、アルフレッドとデュランが作り出した精霊の武装を装着していた。
キーラの手から長距離爆発魔法が次々と発射され、雲の怪物を吹き飛ばしていく。
それを阻止しようと狂人達が突撃をしかけてくるが、その前にアルフレッド達が立ちふさがる。
間も無く、その地上戦にサイラスも合流。
ドラゴンのほうは自動操作でも押し勝てる、そう判断したサイラスはもう一つの仕事を始めた。
電撃魔法で敵を拘束していく。
この状況下でも、サイラスは敵の拿捕を考えていた。
他の者に強制はしない。
狂人は命を投げ捨てるような特攻を仕掛けてくる。しかも痛みに鈍い。そんな敵を相手に普通は手加減など出来ない。
ゆえに、それはサイラスなどの一部の強者にしか出来ない仕事であった。
指示はされていないが、アルフレッドとベアトリスも可能な範囲でそうしていた。
ゆえに体術が、足技が多い。
相手の足を破壊し、機動力を奪って放置している。
デュランも同じく、意識して戦っていた。
刃を当てない。中央のふくらんだ部分を、大剣の腹の部分を当てている。
触手をまとった異形の大剣ゆえに、それで充分であった。
打撃と同時に触手がからまり、相手の神経を蝕んで拘束する。
そうしてキーラを守っているうちに戦況は傾いていった。
雲が消し飛び、敵のドラゴンが倒れていく。
雲が無くなったことで魂の補給線が消失。
五体のドラゴンが再生産されたが、それも間も無くサイラスが操作するドラゴンによってねじ伏せられた。
そして戦いは決した。
終わってみれば、大勝といっていい結果であった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。


三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈


黒髪の死霊術師と金髪の剣士
河内 祐
ファンタジー
没落貴族の三男、根暗な性格の青年のカレルは神から能力が与えられる“成人の儀”で二つの能力が授けられる。
しかし、その能力は『死霊術』『黒魔術』と言うこの世から疎まれている能力だった。
貴族の体面を気にする父の所為で追い出されたカレル。
屋敷を出て行ったカレルは途中、怪物に襲われるがある女性に助けられる。
その女性は将来の夢は冒険者の団体……クランを創り上げ世界一になること。
カレルはその女性と共にクラン造りに協力する事になり……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる