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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十九話 黄金の林檎(27)

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 その号令を合図に全員が前に地を蹴った。

「ドラゴンに遅れをとるな!」
「走れー!」

 ナチャと怪物達が激しくぶつかり合っているのが見える。
 だが、それに恐れをなして足を緩めるものなど誰もいない。
 怖くないのか? 少し臆病な誰かがそんな疑問を抱いた。
 みんな異常なものを見すぎたせいで頭がおかしくなっているのかもしれない、誰かがそう思った。
 いや、シャロンや魔王の凄まじい戦いぶりにあてられたせいだ、誰かがそう答えた。
 立ちふさがる狂人達をなぎ倒しながら駆け続ける。
 もう少しで城壁、もう少しで街に入れる、そんな思いが全員の中に生まれた直後、みなの心に声が響いた。

(これ以上は無理! 撤退する! あとはがんばって!)

 おそらくこの戦いで最も大きな仕事をしたであろう、ナチャの声。
 そのナチャが離脱を開始したことで、状況は一気に変わった。
 街の防衛にあたっていたドラゴン達が一斉に向きを変える。
 それを見たルイスは声を上げた。

「ドラゴンの相手はキーラとサイラス達に任せろ! 他の部隊はドラゴンを無視して一気に街の奥に踏み込め!」

 ナチャが離脱したということは怪物の生産が再開しているはず。その再生源を断て。そんな思いが声に含まれていた。
 その声から間も無く、ドラゴン達は再びぶつかり合った。
 だが、敵のドラゴンには力強さが無かった。
 ナチャとの戦いでかなり消耗しているのだ。そしてまだ回復していない。
 それを感じ取ったサイラスは声を上げた。

「補給させるな! 誰か上の雲を押さえろ!」

 その声にキーラが応えた。
 見ると、キーラはあの時と同じ、アルフレッドとデュランが作り出した精霊の武装を装着していた。
 キーラの手から長距離爆発魔法が次々と発射され、雲の怪物を吹き飛ばしていく。
 それを阻止しようと狂人達が突撃をしかけてくるが、その前にアルフレッド達が立ちふさがる。
 間も無く、その地上戦にサイラスも合流。
 ドラゴンのほうは自動操作でも押し勝てる、そう判断したサイラスはもう一つの仕事を始めた。
 電撃魔法で敵を拘束していく。
 この状況下でも、サイラスは敵の拿捕を考えていた。
 他の者に強制はしない。
 狂人は命を投げ捨てるような特攻を仕掛けてくる。しかも痛みに鈍い。そんな敵を相手に普通は手加減など出来ない。
 ゆえに、それはサイラスなどの一部の強者にしか出来ない仕事であった。
 指示はされていないが、アルフレッドとベアトリスも可能な範囲でそうしていた。
 ゆえに体術が、足技が多い。
 相手の足を破壊し、機動力を奪って放置している。
 デュランも同じく、意識して戦っていた。
 刃を当てない。中央のふくらんだ部分を、大剣の腹の部分を当てている。
 触手をまとった異形の大剣ゆえに、それで充分であった。
 打撃と同時に触手がからまり、相手の神経を蝕んで拘束する。
 そうしてキーラを守っているうちに戦況は傾いていった。
 雲が消し飛び、敵のドラゴンが倒れていく。
 雲が無くなったことで魂の補給線が消失。
 五体のドラゴンが再生産されたが、それも間も無くサイラスが操作するドラゴンによってねじ伏せられた。
 そして戦いは決した。
 終わってみれば、大勝といっていい結果であった。
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