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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十九話 黄金の林檎(25)

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 敵ドラゴンが絶叫と共にその機能を終える。
 直後、大型大砲の砲手が声を上げた。

「城壁に配置されていたすべての砲台の破壊に成功!」

 見ると、前方の城壁は既に穴だらけになっていた。
 既に壁の意味を成していない。軍隊が余裕で通れる隙間がたくさんある。
 ゆえにルイスは声を上げた。

「速攻だ! 敵の備えが回復する前に港町に殴り込め!」

 その声には、「ナチャが倒される前に突撃してくれ」という思いが含まれていた。
 その声に最初に応えたのはシャロンであった。

「つまり、出来るだけ早くこのドラゴン達を蹴散らせということね! わかったわ!」

 ならば「アレ」を使う。シャロンはそんな心の声を響かせ、そして変わり始めた。
 手の平から電撃魔法の糸を伸ばし、己の体に接続していく。
 まるで自分の体を繭で包もうとするかのように。
 同時に、自分の体内に意識を集中させ、心臓の周りに光の魔力を配置していく。
 まるで心臓を星空で囲むように。
 しかしその夜の景色は間も無く終わった。
 星々が次々と爆発し、心臓を打つ。
 激痛と引き換えに鼓動が早まる。
 その鼓動の早さに魔力を生む内臓が連動し、大量の魔力が生み出され始める。
 熱を生むための炎の魔力、体を動かすための光の魔力が過剰に供給され始める。
 熱によって体が紅潮し、満ちた光の魔力が毛穴からあふれ出る。
 まるで銀色の鱗粉を撒き散らしているかのよう。
 体を包んでいる電撃魔法の糸が、天の羽衣のように軽やかになびく。
 頭部は魔力の放出が激しく、銀髪に染まっている。
 キーラとの戦いで見せた超絶強化状態。
 魔法の力を最大限に活かした人間。ゆえに、まさに魔人と呼ぶにふさわしい風貌であった。

(……!)

 その姿に、近くで戦っているキーラは戦慄していた。
 もしも再びこれと戦うことがあるとしたら、自分は勝てるだろうか?
 その疑問に対して、キーラはあえて考えなかった。
 答えが決まっているからだ。
 時間制限があるようだが、一対一では勝ち目は無い。
 キーラがその思いを隠した直後、シャロンは口を開いた。

「行くわ!」

 それはキーラに対して放たれた言葉であった。
 無理に私についてこなくていい、そんな思いが含まれていた。
 その思いに、

「……っ」

 キーラは少しだけ、注意して見なければわからない程度に表情を歪めた。
 悔しいが真実、ゆえにであった。
 直後にシャロンは動いた。
 地面を蹴り、まだ活動しているドラゴンのほうに向かって走り出す。
 たったそれだけの動作が凄まじかった。
 地面を蹴る力が強い。強すぎる。
 背を上に伸ばしていると跳躍してしまいそうなほどに。
 ゆえにシャロンは体を大きく前に倒していた。
 地面を垂直な壁と見立てた、壁登りの感覚。
 一歩一歩、地面を蹴るごとに土煙が舞い上がる。
 そのまるで弾丸のような疾走と共に、シャロンは精霊を展開した。
 爆発魔法を内臓した鷹の精霊を次々と作成。置き去りにするようにばらまいていく。
 展開された鷹達は自動で敵を捕捉し、狙いを定めて飛び立っていく。
 その自動攻撃で狂人達を蹴散らしながらドラゴンに向かって突進。
 そしてある程度まで距離を詰めたシャロンはその場で急停止し、両手を前に突き出した。
 両手の平から爆発魔法を生み出す。
 赤い球が風船のように膨らんでいく。
 その球がシャロンの上半身を隠してしまいそうな大きさになると同時に、

「まずは一つ!」

 シャロンは叫び、それを放った。
 敵のドラゴンはそれを迎撃しようとしたが、サイラス達が操作する味方のドラゴンがそれを許さなかった。
 頭を狙ったブレスで、敵の口を一時的に塞ぐ。
 そして直後に巨大な爆発魔法は炸裂し、

「―――ッ!!」

 ドラゴンの胴体を轟音と共に消し飛ばした。
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