Iron Maiden Queen

第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十九話 黄金の林檎(24)

　その指示に砲兵は即座に応えた。
　最後列から放たれたぶどう弾が横雨のように敵ドラゴンに降り注ぐ。
　拳より一回り大きい弾丸の散弾。ゆえにそれは大粒の雹のようであった。
　降り注ぎ、ドラゴンを穴だらけにする。
　それを見たルイスは叫んだ。

「動きが止まったぞ！　一気に押しつぶせ！」

　その声にドラゴンを操作しているサイラス達が応えた。
　敵ドラゴンに覆いかぶさるように、ドラゴンの巨体を押し付ける。
　言葉通りに押しつぶそうとするかのようにのしかかり、拘束する。
　そうして相手の動きを封じつつ噛みつく。
　さらに砲撃でできた傷口に爪を、腕をねじ込み、中から食らう。

「――ッ！」

　敵のドラゴンが身をよじらせながら喉を大きく震わせる。
　瞬間、

「！」

　フレディは感じ取った。
　敵のドラゴンが最後の悪あがきをしようとしているのを。
　そしてその悪あがきがナンティ達の方に向かって放たれるのを。
　だからフレディは即座に地面を蹴った。
　味方の背中を勝手に借り、踏み台にして高く跳躍。
　そして空中で義手の刃を二閃。
　振るわれた刃が中空に白い十字の軌跡を残す。
　魔力を垂れ流して描かれた銀色の十字。
　その交差点に向かって手の平を突き出す。
　そしてフレディはその姿勢で一瞬硬直した。
　こんなこと練習していない。出来るのか？　そんな迷いが脳裏によぎっていた。
　フレディはその迷いを即座に振り払った。
　出来るか出来ないかじゃない！　やるしかないんだ！　そんな心の叫びを響かせながらフレディは義手のレバーを引いた。
　魔力の経路が切り替わり、手の平の穴から魔力が噴き出す。
　銀色の槍のように伸び走ったそれは、狙い通りに十字の中心を撃ち抜いた。
　瞬間、

（出来た！）

　成功の確信を、フレディは響かせた。
　光魔法の粒子は二種類あり、それぞれが引き合う関係にある。ルイスはそう言った。
　だから、手の平から放つ魔力と十字の魔力をちゃんと使い分けることが出来れば、引き合わせて収束させることが出来る。
　そしてどうなるのか。何度も見たその現象がフレディの目の前で起きた。
　魔力の密度が濃い槍に十字が螺旋を描きながら吸い込まれ、収束する。
　そしてその収束が極限に達したあと、それは爆発した。
　圧縮からの解放。その爆発力によって光の嵐と化す。
　その嵐がドラゴンの悪あがきと、断末魔のブレスとぶつかり合う。
　その凄まじさに、

「……！」

　ナンティは助けられたことに対してのお礼の言葉すら失ってしまった。