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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十九話 黄金の林檎(23)
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直後、ルイスの焦りが届いたかのように、声が返ってきた。
(ごめん。待たせてしまったようだね。分身の配置に手間取った。今から攻撃を開始するよ)
それは待ちに待ったナチャの声であった。
その声の直後、港町のあちこちから怒声と悲鳴が響き始めた。
ナチャは敵の注意がルイス達のほうに向いた隙を突き、得意の擬態による隠密技術を使って奇襲を仕掛けたのだ。
霧のような形態のナチャとドラゴンが混ざりあうようにぶつかり合っているのが、遠くにいるルイスの目に映る。
やれそうか? そんな思いをルイスが抱いた直後、再びナチャの声が届いた。
(ゴメン、その期待には応えられそうにない! 時間稼ぎはするけど、それも長くはもたないかも!)
ナチャが単純なぶつかり合いで不利を断言したのは、本当に久しぶりのことであった。神話の時代以来のように思えた。
敵の数が多いのもあるが、やはり人間は強くなったのだ。だからドラゴンがそれほどに強いのだ。
だが、その強いドラゴンはこちらにもある。
それだけでは無い。現代において最強格であろう強い人間が二人もいる。
ルイスはその二人に向かって叫んだ。
「シャロンとキーラは大盾兵の真後ろにつけ! ナチャが港町をおさえている間に敵を殲滅しろ!」
言われるまでも無く、既にシャロンとキーラはそうしていた。
襲いかかってくる狂人達を電撃魔法で拘束し、光弾で吹き飛ばし、炎で焼き払う。
三種の魔法を使って派手に戦う二人。
しかしより派手で圧倒的な戦いが二人の目の前で繰り広げられていた。
ドラゴンとドラゴン、神話の大型獣同士のぶつかり合い。
組み合い、密着しながらお互いの体を食い合う。
その野性的なぶつかり合いに、シャロンとキーラが華を添えた。
二人が放った爆発魔法が敵ドラゴンの体に炸裂。
「―――ッ!!」
その衝撃に、ドラゴンはその巨体を大きく揺らしながら太い喉を震わせた。
魂が発する独特の波がドラゴンの喉から広がり、場を包む。
それは悲鳴なのか、それとも衝撃波で揺れただけなのか、その判断はつかなかったが感知能力者達の脳はそれを悲鳴に変換した。
そして炸裂した箇所は砕け散り、大穴が空いていた。
その穴から体内に蓄えられていた魔力が漏れ出していく。
光の魔力が「パチパチ」という音を立てながら霧散し、酸素と触れた炎の魔力が火の粉となって飛び散る。
それは幻想的な流血に見えた。
もう一押しで殺せる、先の悲鳴と相まって、皆はそう思った。
そして直後、その思いに鼓舞された兵士の一人が叫んだ。
「やれるぞ! 撃て!」
その「やれるぞ」という言葉には、前に銃撃を集中させる余裕が生まれてきているぞ、という思いが含まれていた。
見上げると、その通りであった。
空から来る小さなドラゴンの数は明らかに減っていた。
ナチャが再生産を止めてくれているのだ。
だからある隊長は直後に声を上げた!
「正面構え!」
感知能力者であるその隊長はそう声を上げながら、共感を使ってドラゴンのある部位を指し示し、続けて叫んだ。
「狙え! ……撃て!」
その最後の一斉と同時に、部隊の銃兵達は一斉に引き金を引いた。
銃声が一つに重なって響き渡る。
その轟音の直後、今度はルイスが声を上げた。
「通常大砲も前線を援護しろ! ドラゴンにぶどう弾をお見舞いしてやれ!」
(ごめん。待たせてしまったようだね。分身の配置に手間取った。今から攻撃を開始するよ)
それは待ちに待ったナチャの声であった。
その声の直後、港町のあちこちから怒声と悲鳴が響き始めた。
ナチャは敵の注意がルイス達のほうに向いた隙を突き、得意の擬態による隠密技術を使って奇襲を仕掛けたのだ。
霧のような形態のナチャとドラゴンが混ざりあうようにぶつかり合っているのが、遠くにいるルイスの目に映る。
やれそうか? そんな思いをルイスが抱いた直後、再びナチャの声が届いた。
(ゴメン、その期待には応えられそうにない! 時間稼ぎはするけど、それも長くはもたないかも!)
ナチャが単純なぶつかり合いで不利を断言したのは、本当に久しぶりのことであった。神話の時代以来のように思えた。
敵の数が多いのもあるが、やはり人間は強くなったのだ。だからドラゴンがそれほどに強いのだ。
だが、その強いドラゴンはこちらにもある。
それだけでは無い。現代において最強格であろう強い人間が二人もいる。
ルイスはその二人に向かって叫んだ。
「シャロンとキーラは大盾兵の真後ろにつけ! ナチャが港町をおさえている間に敵を殲滅しろ!」
言われるまでも無く、既にシャロンとキーラはそうしていた。
襲いかかってくる狂人達を電撃魔法で拘束し、光弾で吹き飛ばし、炎で焼き払う。
三種の魔法を使って派手に戦う二人。
しかしより派手で圧倒的な戦いが二人の目の前で繰り広げられていた。
ドラゴンとドラゴン、神話の大型獣同士のぶつかり合い。
組み合い、密着しながらお互いの体を食い合う。
その野性的なぶつかり合いに、シャロンとキーラが華を添えた。
二人が放った爆発魔法が敵ドラゴンの体に炸裂。
「―――ッ!!」
その衝撃に、ドラゴンはその巨体を大きく揺らしながら太い喉を震わせた。
魂が発する独特の波がドラゴンの喉から広がり、場を包む。
それは悲鳴なのか、それとも衝撃波で揺れただけなのか、その判断はつかなかったが感知能力者達の脳はそれを悲鳴に変換した。
そして炸裂した箇所は砕け散り、大穴が空いていた。
その穴から体内に蓄えられていた魔力が漏れ出していく。
光の魔力が「パチパチ」という音を立てながら霧散し、酸素と触れた炎の魔力が火の粉となって飛び散る。
それは幻想的な流血に見えた。
もう一押しで殺せる、先の悲鳴と相まって、皆はそう思った。
そして直後、その思いに鼓舞された兵士の一人が叫んだ。
「やれるぞ! 撃て!」
その「やれるぞ」という言葉には、前に銃撃を集中させる余裕が生まれてきているぞ、という思いが含まれていた。
見上げると、その通りであった。
空から来る小さなドラゴンの数は明らかに減っていた。
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だからある隊長は直後に声を上げた!
「正面構え!」
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「狙え! ……撃て!」
その最後の一斉と同時に、部隊の銃兵達は一斉に引き金を引いた。
銃声が一つに重なって響き渡る。
その轟音の直後、今度はルイスが声を上げた。
「通常大砲も前線を援護しろ! ドラゴンにぶどう弾をお見舞いしてやれ!」
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