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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十九話 黄金の林檎(21)

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 フレディが叫んだ直後に最前列はぶつかり合った。
 味方と敵の大盾が激しく火花を散らす。
 そのぶつかり合いに隙間はほとんど無い。
 ゆえに、フレディには次の敵の動きが予測でき、それは次の瞬間に敵中した。
 敵の大盾兵の背後から影が飛び出す。
 大盾兵を踏み台にして、狂人達が次々と飛び込んでくる。
 その飛び込みを読んでいたフレディは既に迎撃動作に入っていた。跳躍していた。

「ぅ雄雄っ!」

 フレディが気勢と共に一閃。
 刃が描く剣閃と狂人の爪の軌跡が空中で交錯し、光魔法の粒子が白い花火のように散る。
 先に振り抜かれたのはフレディの刃。
 フレディの刃は速さだけで無く、力強さでも圧倒していた。
 狂人の爪が一方的に弾かれ、白く輝く刃が腹を深く撫でる。
 そして狂人は派手に赤色をまき散らしながら転げ落ちた。
 その赤色を背に感じながら着地。
 瞬間、フレディの背中は何者かの影に覆われた。
 着地の隙を狙い待っていた狂人の影。
 既に爪を構えている。
 が、フレディは振り返る必要は無いと確信していた。
 対処しなくていい。いま自分が取るべき動作はわかっていた。
 だから、

(今だ!)

 フレディはそう叫びながら伏せた。
 同時に銃声が響く。
 放たれた銃弾は狂人の側頭部を見事に撃ち抜いた。
 誰の射撃か、それは分かっていた。意思疎通していた。だからタイミングを合わせられた。
 だからフレディは賞賛の声を心から響かせた。

(やるな! ナンティ!)

 その声にナンティは力強く応えた。

(お前がコツを教えてくれたおかげだよ!)

 頼もしいその声を受け取りながら、フレディは次の標的に向かって地を蹴った。
 味方に襲い掛かろうとしている狂人に向かって、体当たりのような突きを放つ。
 いや、ような、では無く、それはほとんど体当たりだった。
 狂人の真横からぶちかまし、脇腹から心臓へ刃をねじこむ。
 確実な致命傷。
 であったが、狂人は輝く爪をフレディのほうに向けた。やはり痛みだけでは止まらない。
 しかし反撃されることをフレディはわかっていた
 そして反撃させるつもりは無かった。
 何もさせずに倒す、そのために『これ』を使う、フレディはそんな思いを響かせながらそれに手をかけた。
 それは、刃を出す時に使ったものとは異なる、小さなレバーであった。
 魔力の経路を切り替えるレバーであり、ルイスが実験的に用意した仕掛けであった。
 義手の中には石炭が格納されており、レバーを作動させるとその石炭に魔力が流れ込む仕掛けになっている。
 光魔法の粒子は炭素と強く反応する。鋼の中の炭素を動かしてしまうほどにその反応は強く、ゆえに魔力を過度に流し込むと亀裂が入り、酷いときは爆発のような破裂を起こす。
 そして石炭は炭素の含有率が高い。ゆえに光の魔力を大量に流し込むと爆発的な力を生む。
 その爆発力を放出するために、義手の手の平には穴が開いている。ちょうど刃の下だ。
 あくまで実験的なものであり、使うかどうかの判断は任せると言われた代物。
 であったが、フレディは迷いなく仕掛けを作動させた。
 瞬間、

「っ!」

 腕が爆発した。そう思えるほどの衝撃が腕の中から手の平に向かって走った。
 そしてフレディは見た。
 手の平の穴から火柱が噴出したのを。
 爆発的に放出された光魔法の魔力であることは間違い無かったが、それは銀色では無かった。
 赤みが強い赤紫、一瞬だったがその色はそう見えた。
 そして火柱と共に走った衝撃は、狂人の胸を砕きながら突き飛ばした。
 胸骨の砕ける音を響かせながら狂人が吹き飛ぶ。

「……!!」

 その凄さにフレディは驚いたあと、

「……っ!」

 腕の痛みに顔を歪めた。

(大丈夫か?!)

 その苦悶を感じ取ったナンティの声が心に響く。
 フレディは歯を食いしばりながら表情を戻し、声を返した。

(問題無い! ちょっと驚いただけだ!)

 フレディはそう答えながら腰の小袋の中から新たな石炭を取り出し、乱暴に腕の中に装填した。
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