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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十九話 黄金の林檎(20)

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 ナンティのその戦意を確認したフレディは視線を前に戻し、銃を構えた。
 銃を握るその右手は義手になっていた。
 右肘は生身。そこから先が義手。
 金属質な見た目。皮膚らしく見せるための加工は一切されていない。
 指の自由は利かない。銃を乗せやすい形で固定されている。
 ゆえに左手で引き金を引く。
 以前とは持ち手が逆になっているが、フレディは今日の戦いまでに慣らしてきていた。
 ゆえに射撃に問題は無かった。
 敵の大盾兵の隙間を縫って後ろの狂人に当てていく。
 敵の射撃を大盾兵に受けてもらいながら撃ちまくる。
 だが、敵の勢いに弱まる気配は無かった。
 味方もナンティもかなり当てているが、敵はやはり狂人。痛みでは止まらない。
 このままではすぐに密着されてしまう。
 だからある二人の隊長が直後に同時に声を上げた。

「引き撃ち開始!」
「後退しつつ射撃しろ!」

 言われるまでも無く、前列は引き撃ちを開始していた。
 事前の作戦会議で決定していたからだ。敵が突撃してきたら引き撃ちを開始する、と。
 そしてその敵の部隊にドラゴンなどがいる場合の動きも決まっていた。
 だからルイスは直後にそれを叫んだ。
 
「中央の陣形を変更! 大盾兵と近接戦闘要員をのぞいて前二列交代! 主力部隊はドラゴンと一緒に前に出ろ! 銃兵隊は後方に下がりながら対空射撃!」

 大型の怪物にはドラゴンと主力をぶつける。事前に予定されていたその動きに従い、シャロンやキーラ達は前へ走り始めた。
 ナンティを含む銃兵隊は全力で下がり始める。
 が、フレディは最前列から動かなかった。
 フレディは『近接戦闘要員』だからだ。
 ナンティの視界の中でフレディの背中が少しずつ遠くなっていく。
 ナンティはその背に向かって声をかけた。

「フレディ!」

 ちゃんと見てる。だから任せて。そんな思いを込めた呼び声。
 その声に、フレディは背中を向けたまま応えた。

「ナンティ、援護は任せたぞ!」

 その言葉には、前は任せろ、という思いが込められてた。
 その思いがナンティに届いたのを感じ取ったフレディは銃を腰の袋にしまい、義手に左手を当てた。
 義手にはレバーがついていた。
 フレディは肘側にあるそのレバーを、手の平のほうに向かって勢いよく押し込んだ。
 すると、レバーの動きに連動して、手の平から何かが飛び出した。
 それは鋼の刃。
 フレディの義手は刃を内包した仕込み義手なのだ。
 そしてフレディは右腕に意識を集中させた。
 あれだけ練習したのだから出来るはずだ、そんな思いを響かせながらフレディは義手の内部に、腕の中にある銀の棒に意識を向けた。
 直後にフレディは感じ取った。
 銀の棒が熱を帯び、魔力が通った感覚を。
 そしてその感覚による変化は次の瞬間に目に映った。
 刃が銀色に染まっていく。
 同時に、振動が伝わる。
 光の魔力が鋼の炭素と反応して起こる振動。
 その振動の振れ幅と周期が一定になった瞬間、フレディは確信した。
 刃に魔力が満ち、安定している。制御できている。
 だからフレディは胸を張り、敵に見せつけるように輝く刃を前に構えながら声を上げた。

「かかって来やがれ! ここは誰一人とおさねえぞ!」
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